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水分補給もトイレも禁止の職場に、長くいたものですから

久しぶりに接客のバイトをすることになった。バイトといっても年末年始の繁忙期間、人気餃子店の行列整理という簡単なもの。

理由は来年受ける手術のため。単純に手術はお金がかかるし、入院中は働けない。

退院後すぐにでも復帰すればよかろうと甘い考えを抱いていたが、同じ手術をした友人曰く、退院した日から仕事に復帰したところ、その後ひと夏寝込んでしまったらしい。「退院後すぐの仕事ダメ、絶対」とよく言い含められたのだった。

そうなると自分のメイン収入である文章講座はしばらくお休みするしかない。執筆の依頼も最近は来たり来なかったり、ここは入院前にいっちょ稼いだらあ!とネットで応募していた短期バイトに申し込んだ。

さて、自分は筋金入りのコミュニケーション難あり人である。
学生時代、本当はドトールかスタバのお姉さんになりたかった。しかし表情が暗いという理由で5~6店舗、面接に落ちた。

代わりに「長時間シフトが可能なら」という条件でケンタッキーに採用された。しかしバイトなのになぜかいつも12時間シフトで、今思えばいいように使われていた気がする。

就職活動もどの企業を受けても全敗。就職課に相談に行くたびに「女の子なんだから、もう少し明るい声で、あと自然な笑顔で行かないと」と注意されたものである。

やっとのことで採用されたマッサージの会社もなかなかにしんどかった。毎年お盆と年末年始は14連勤、ボーナス・交通費なし、たまに社長がチオビタをくれるだけ。トイレに行くのもお水を飲むのも許されず、仕方なくオムツをはいて務めた会社だった。

そんな10代、20代を経て久しぶりの面接。
最近は履歴書も面接もネットで行うとのことで、時間の5分前にzoomで待機。待っていると綺麗めな人材会社のお姉さんが画面に現れ、面接が始まった。

ご丁寧な挨拶の後、これまでの職歴を聞かれ順に答える。
現在の状況も簡潔に説明し、私はすかさず「大晦日も元旦も働けます。あと長時間労働でも休憩なしでも、あるいは遅番からの早番も、なんでも大丈夫です」といってぎこちなく笑顔を作った。
笑顔も気の利いた答えもできない私の「あんたたち雇用側のいいように働けます」という最強のカードを切った、つもりだった。

しかし人材会社の方は少し困ったように「ええと・・こちらの店舗は、元旦と2日はお休みなんです」とおずおず申し出た。え、そうなの?

「コロナ後はお正月、あまりオープンされてる店舗は少ないですね」

そういえば、年中無休でやってる近所のお店も元旦はお休みにしたり、3が日は夕方までの営業にしてたっけ。。

「最近は働き方改革もあって、連勤や無茶なシフトは減ってる状況です」

なんてこった・・女性的な魅力の乏しい自分の「過酷な扱いOK」という唯一の武器が、もうこの時代には通用しないなんて・・

「週3日、お店の混雑状況にもよりますが朝から夕方まで6時間のシフト、また1時間の休憩をしっかり取っていただく形で、小澤さんにはお願いしたいと考えております」

そんなシフト、許されるのだろうか。接客業なのに休憩をしっかり取ったり、夕方には帰れる生活をしてもいいのだろうか。

半信半疑ながら、そちらでお願いいたします、と返事した。面接後、すぐに送られてきたシフトは私を含めた5人のバイトさんが、無理なく働けれるようにお休みもうまく組み込まれた日程だった。働きやすさを考えてくれていることが伝わる。

大晦日も元旦も出勤しないでいいシフト表にある「小澤さん」の名前のところを見ていたら、胸がギュッと詰まって、何かが頬を伝った。





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小澤仁美
最後までお読みくださり、ありがとうございます。書き続けます。