見出し画像

とんこつラーメンが好きだと気づいたのは、醤油と塩を食べたことがあったから

お子さんが2人いる友人は「2人目が本当に大変だった」とよくいう。とにかく寝ない、食べない、お風呂に入れようとすると泣き叫んで嫌がる・・ノイローゼ一歩手前まで追い詰められたという。

しかし友人はでもそれも良かったけどね、というのでなぜかと聞くと「もし2人目の壮絶さを経験してなかったら、私は『育児って楽なんだ』と思い込んでしまっていたと思う」とのこと。

複数のことを体験してみて、比較して初めてわかることがある。

大学の頃、掲示板に「オープンキャンパスのバイトさん募集」という張り紙があって、申し込んでみた。やることといえば、大学の職員さんが行うキャンパスツアーの後ろについて行ったり、高校生さんからの質問に答えたり、ただ座って話すだけで本当に楽だった。その上食堂でのランチ無料券にジュースまで一人一本もらえる。普段ケンタッキーで早朝や深夜まで油にまみれ、パワハラ気質なバイトリーダーHさんにこき使われていた自分からしたら夢のようなバイトと思った。

人間いい体験をすると人に教えたくなる生き物である。さっそく部活や学科で仲のいい子に教えてみた。すると普段、自分のように飲食バイトをしている子からは「本当に夢のようなバイトだね!教えてくれてありがとう」と感謝をされ、普段バイトをしていない子からは、遠慮がちに「うーん、つまんなかった・・」との反応であった。

あまりよくない体験をすると、人はそこだけを見て「ああ、嫌な時間だった」となりがちだけれど、よくない体験をしたから初めて見えてくるものがある。

例えば私はサッポロ一番なら味噌が好きだし、インスタントラーメン全体で見るとうまかっちゃんという豚骨ラーメンが好きだ。なぜそれが一番好きな味なのかがわかったのかというと、塩味や醤油味など、他の味を食べた経験があるからだ。

仕事でも趣味でも同じように、最終的には実際にやってみるまでわからない。昨今はやりたいを仕事に、好きを仕事にが流行っている。しかし何が好きか・何がやりたいかなんてやってみるまで誰にもわからないものだ。

ケンタのバイトはあまりいい思い出はないのだが、たまに思い出すのが早朝バイトの時。とにかくHさんが怖かった自分は毎月のシフトを穴が開くほど見て、法則(Hさんは朝と日曜はあまり入らない)を見出し、とにかく朝番に入るようにした。

すると同じように「Hさんと一緒のシフトになりたくない人」と思っている人たちと一緒に、モーニングタイムを担当することに。自然と争いごとが嫌いな、平和な人たちが早朝シフトに入ることが多くなった。

この時一緒に働いていたおばちゃんは、お客さんが途切れたタイミングでこっそり美味しいものを作ってくれた。賞味期限が1時間前に切れた焼きたてアップルパイを真冬の早朝に食べた時は、涙が出るほど美味しかった。特にあれはいつだったか、一つだけ残ってしまった炭火焼きチキンに、照り焼きソースとマヨネーズをかけてサンドイッチを作って、切って分けてくれた。あれ、通常メニューでいつか食べたい。

その後ケンタッキーは100円ホットコーヒークーポンを配信し、朝は100円コーヒー(と煙草)目当てのお客さんばかりになり、自然とモーニングは廃止になった。でもいまだにファーストフードのモーニングが好きなのは、辛い労働の中でのお楽しみ記憶を思い出すからのように思う。

辛いことの中に幸せがあり、幸せの中に辛いことがある。現実はマーブルチョコのように入り混ざっていて分けることはできないけど、太陽と月のように、両方あるからこそそれぞれの良さが引き立つのだと思っている。









楽しく学ぶ文章講座は年明けスタート。お得な早割実施中です。


いいなと思ったら応援しよう!

小澤仁美
最後までお読みくださり、ありがとうございます。書き続けます。