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人生は思い込み。あの寿司屋は河童を働かせている。
なぜか妖怪と縁が深い。
生まれ育った街は東京都調布市。『ゲゲゲの鬼太郎』など妖怪漫画の第一人者・水木しげる先生が住まれていたこともあり、調布駅や深大寺の方を歩いていると妖怪のオブジェやポスターなどがいくつも見れる。お化けは目に見えないだけでいるもの、という雰囲気の中で育った。
30歳になり一人暮らしを経験してみたいと、友人の多い神奈川県逗子のアパートに引っ越し、逗子だけでなく鎌倉や葉山に遊びに行くことも増えた。鎌倉のあたり、特に小町通りなど観光街ではないところを歩いていると、なんだか独特の雰囲気がある。
何年か前の冬に逗子から横須賀線に乗車した際、逗子と大船はピーカン照りだったのに、その間の鎌倉だけ雪が降っていたことに驚いた。
鎌倉に住んでいる同僚にそのことを話すと「ああ、鎌倉は結界が強いからね」とさも真顔で返してきた。特にスピリチュアル系でもない、どちらかというと現実的な同僚のその発言に、思わず二度見した記憶がある。
親が好きで読んでいた漫画に「鎌倉ものがたり」というものがある。堺優人さん・高畑充希さん主演で2017年に映画化もされた漫画だ。その中で鎌倉は「人と魔物と幽霊が共存している」場所として描かれているが、鎌倉は歴史が深い街だからだろうか、人ではない、もののけの類が街を蠢いている気がする。
ちなみにこの漫画の中で、葉山は徹底的に「田舎」として描かれているのが面白い。
今や葉山はオシャレで感度の高い人が住む町というイメージだが、この漫画の中では「葉山は平和すぎて、事件がなさすぎて、人に化けた狸を取り締まるくらいしか警察もやることがない」と描かれている。
葉山のファミレスでは狸を人間に化けさせて人件費を浮かし、夜は檻につないで虐待しているという物語もあったが、それはあまりにも葉山に対し失礼だろうと思ったりしていた。
そんな風に、妖怪や魔物の存在を当たり前のように感じて育ってきたせいだろうか。
一昨年「かっぱ寿司の社長、逮捕」というヤフーニュースのリード文を読んだ時、真っ先に自分の頭に浮かんだのは「河童たちに寿司づくりを強制労働させている社長」の図だった。
急いでそのニュース文を見てみると、どうやらかっぱ寿司の社長は以前はま寿司にも勤めていて、その時の情報を漏洩した罪で逮捕されたとのこと。
しかしなんだか胸の騒ぎが収まらず「かっぱ寿司 河童」で検索してみると、信じられない情報が浮かび上がってきた。それは
「かっぱ寿司では、店舗の地下工場で、河童たちがすし製造の労働力として働かされている」
というもの。やはり・・
読み込んでいくと「河童たちは一日中働かされてきゅうり一本しかもらえない」とか「まだ幼いうちに池でさらわれた河童たちが、回転レーンの歯車を回している」という情報がたくさん出てきた。
かっぱ寿司の正社員は河童たちが逃げたりサボらないように、たまに電気ショックを与えたりしているらしい。幼い河童たちは「お父さん、お母さんに会いたいよう」といつも泣いているとのこと。なんという非道だ、許せぬ!
・・と都市伝説に本気で怒りそうになるくらいには、妖怪の存在をナチュラルに信じている。
人生は思い込み、とよく言われる。
「私は電車に乗れば、絶対に座れる」と信じている人は、たまたま座れた体験をするたびに「ほら、やっぱり!」と思い込みを強固にする。
「妖怪のように、人以外の存在も生きている」と思い込む人の多い町で生まれ育てば、自然と「河童に強制労働なんて、ひどい・・」という思考の人間になるし、「妖怪なんているわけがない」と思い込んでる人は、もし妖怪に会えたとしても存在にすら気づかないかもしれない。
同じ思い込みなら、自分を楽しくさせてくれるものを信じたい。
そんなことをスーパーの980円寿司パックを食べながら思ったりした。
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