おまけよりも喜ばれるもの
リラクゼーションサロンでは通常、お客さんの施術と施術の間に、インターバルと呼ばれる時間を設ける。
コーチングで例えるなら、コーチがその日午前中2件セッションの予約があるとして、9時から60分一人目のセッションをして、次のセッションを10時ちょうどではなく10:15とか10:30にいれるようなものだ。
器具や機械を使うことが多いエステサロンでは、このインターバルの間いかに早く換気・機械の消毒・ベットメイクをして次のお客さんを迎える準備をするか、1分1秒を争った。
私があるとき勤めていたエステではインターバルが短く、時間を押さないようにちょっと施術時間を短くしていたスタッフがいて、お客さんからクレームが来たことがあった。お客さんは90分の料金を払っているのに80分の施術だったらしく、当然お怒りになったらしい。
そのお客さんの次の施術を、私が担当することになった。
自分がクレームを起こしたことは数あれど、別のスタッフが怒らせたお客さんの次の対応をするのは初めてで、朝から少し緊張していた。
ちょうどこの日は社長が朝、店舗巡回に来ていた。店長と社長の打合せが終わったタイミングを見計らって一応挨拶しにいく。
「社長、おはようございます」
「おう、小澤じゃねえか」
都内エステサロンの他に、他業種の上場企業もいくつか経営していた当時の社長は、見た目はヤクザそのものだった。顔が怖いのでなるべく距離を取って話すようにする。
「お前今日、前回施術時間が短かったっていうお客さんを担当するらしいな」
「あっハイ・・(店長から聞いたのかな)」
「何分の施術なんだ?」
「今日は60分のコースだそうです」
社長はちょっと近くに来い、と手招きするので少し距離を詰めると、それよりワンランク低い声で
「やるのは60分でいいから、65分やるつもりでやってくれ」
と言って「そんじゃ、俺忙しいからよ」と、社長は去っていった。
その後社長の言うように、前回短くしてしまったお客さんの施術を65分のつもりで60分施術してみた。すると施術後、お客さんの頬がほんのりピンクのリラックスしたお顔で、なんとか自分の役目は果たせたようだとホッとしたのを覚えている。
先日、いつもお世話になっているザリッチ宏枝さんのブログに、次のようなことが書かれていた。
全文を読んで頂ければわかると思うが、これはおまけをすると良いとか、過剰サービスをすればうまくいくとかそういう話では決してなくて、目の前の1人のお客さんを精一杯大切にすること。商いではその想いが大事だよ、ということをおっしゃっている。
見た目ヤクザ社長の言ってた「60分を65分のつもりでやってくれ」というのもそういう意味だったはず。逆に65分心ここにあらずな施術をしても、お客さんに届くものは何もないだろう。
お客さんが喜んだり、怒ったり、離れたりに一喜一憂してしまう私だけれど、本当に自分が届けたい価値は何なのか?という問いはいつも握って、目の前のお客さんに誠心誠意尽くしていきたい。