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派手ではないけれど、淡々と市井の人たちに向き合うテレビ東京
いつの頃からか、テレビ東京が好きでよく見る。芸能人の大スキャンダルがあった時、全てのテレビ局が一斉にそのニュースに切り替えて流す中、テレビ東京だけは「ご覧ください、この大きなカニ!」と通常通りである。
今回のフジテレビの会見でも、どの局も会見を中継する中でテレビ東京は「賞味期限と消費期限の違いとは?」と、いつも通りの放送をしていてなんだかほっとした。テレ東さんの大ヒット作『孤独のグルメ』でもそうだけど、基本的に刺激が少ない番組が多いためかリラックスして見れる。
お昼に実家にいるときは、たいてい『昼めし旅』を見てしまう。これは街で出会った人に昼食を見せてもらうだけの番組なのだけど、それがいい。
たまにお店に突っ込んで行ってそのままお店のまかない飯を見せてもらったり、農家さん直伝で野菜を美味しく食べれる方法を教えてもらったり、ただ昼食を見せてもらうと言っても幅がある。白菜農家さんが豚汁に白菜を入れていて、ちょっと真似してみようかなと勉強になったりした。
またテレ東の人気番組『家、ついて行ってイイですか?』もたまに見てしまう。終電を逃した人に「タクシー代を出すから家を見せてほしい」というこちらの番組、なんと最初はある男性スタッフの「人妻を見たい」という下心全開の欲求から始まったらしい。
「終電を逃したサラリーマンについて行けば深夜の人妻を見れる」と作った企画は、企画会議で当初ボツになってしまう。しかしこの男性スタッフのすごいところは「ではどうしたら人妻を見れるか」と考え抜いたところだ。
彼は当初の企画のままでは「人妻に興味のある男性にしか需要がない」ことに気づく。そこで番組の主旨を「エロ」から「住まい」に変更。いつの時代も不動産番組があるように、人は人の住まいに興味があるもの。終電を逃した人について行って、家の中を見せてもらうという内容にしたところ、これがヒットした。
例えば終電を逃し、駅前でベロンベロンに酔っ払っている女性の自宅についていく。すると実は家には体の不自由な家族がいて、彼女は朝に家事と介護をこなし、ヘルパーさんが来たら出勤、一日働いて家に帰る前の唯一の気晴らしにお酒を飲んでいた・・と、だんだん明かされる真相に、視聴者も徐々にテレビの中の彼女を応援し、自分も頑張ろうという気になったりする。うーん、なんというかうまい構成である。
テレ東に勤める知人曰く、そもそもテレ東は他局に比べて予算が少ない局だったらしい。他局がドラマで派手な演出をしたり、ヘリをチャーターした報道番組で盛り上がってる中、テレ東は粛々と街の人のお昼ご飯を見せてもらったり、終電を逃した人の家について行ったりしていた。バブルが弾け失われた20年、そしてVUCA(予測不可能の変化が激しい)時代の中、淡々と市井の人たちを追った番組は見ていて心地よい。
そういえば年末年始、どのテレビ局を回しても賑やかなバラエティ番組だったのに対し、テレ東は孤独のグルメを朝から晩まで再放送していた。うちの両親などは正月、バラエティ番組がうるさくて嫌だというので孤独のグルメを流したところ「いい男が美味しいものを静かに食べ続けてる」だけの番組をじっと見ていた。一見地味でも、真面目に取り組み続けた番組は愛されるみたいだ。
逗子のアパートにはテレビがないのだけれど、たまに大家さんの部屋からテレ東の音が聞こえると、今日の昼飯はなんだろう、と少しほっこりする。決しては派手ではないけれど「今日のお昼は何かな」って、なんだかとってもいい人生の香りがする。
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