be here かまくら④ 風と笑顔を届ける人 ―人力俥夫・木村泰貴さん―
人気スポットを人力車で巡るのは、鎌倉ならではの楽しみ。俥夫さんがさっそうと街中を走り、観光ガイドはもちろん、記念撮影をしたりと、特別なひとときを提供してくれる。心地よい風や香りを感じながら、高い目線から広がる鎌倉を眺めれば、人力車でなければ知ることのできない場所や風景、ストーリーが展開する。
鎌倉で人力車の俥夫として活動している木村泰貴さんには、もうひとつの顔がある。ヒップホップダンスのパフォーマー、インストラクターであり、イベントやワークショップなども運営している。
「ほかの俥夫さんたちも、アートやパフォーマンスなどをやりながら、プラスアルファーでやっている人が多いですね。人力車の俥夫は、自分のライフスタイルがあっても、それを活かしていける仕事です」
ニューヨークから帰国して、人力車と出会う
木村さんが俥夫になったきっかけはユニークだ。それはニューヨークにダンス留学していた頃の体験から始まる。
「ニューヨークでは、ストリートでパフォーマー達がダンスしているのをたびたび見かけます。彼らは誰よりも楽しそうですし、ダンスが放つパワーは通りすがりの人たちを巻き込み、見ている人達もとても楽しそうです。波紋みたいに笑顔って広がっていくんだなと思いました」
この体験をきっかけに、木村さんは「笑顔爆散」という言葉を作り、人に笑顔を伝えていくことを自分のコンセプトのひとつとする。
ニューヨークから帰国した後、生まれ育った鎌倉の街を歩いていると、人力車が走っているのを見かけた。
「「 これだ!」って思いました。僕のコンセプトにぴったりの仕事だなと。実際に俥夫をやってみると思った通りで、すぐにはまりました」
俥夫になってよかったこと
人力車にお客さんを乗せる一回一回がライブで、毎回感動があると木村さ
んはいう。お客さんの話を聞くのも、俥夫の仕事のひとつだが、ハンディキャップを抱えた青年が自分の夢を語ってくれたり、老齢の男性から心に残る言葉をもらったり、魂を揺さぶられるようなこともある。
「今日まで何千人とお客さんを乗せましたが、色々な出会いがあって、自分を成長させてもらっています」
人力車本体に1 人か2 人を乗せて、観光案内をしながら車を引くのは、も
のすごい運動量だが、それも俥夫になってよかったことのひとつという。
「運動量が常人の5 倍ぐらいあるので、対応できる身体を作るために食生活を見直し、健康的になりました。ケガをしないための筋肉の使い方や身体のケアなど、フィジカル面の知識も増えましたね」
その日、その時間、表情が変わる鎌倉の街
初めての鎌倉でも、何度目かの鎌倉でも、より楽しい時間を過ごすために、俥夫の木村さんだから知っている鎌倉の楽しみ方を教えてもらった。
「にぎやかな場所と静かな場所の両方を完全制覇するのが一番おすすめで
す。にぎやかな場所では日常的な買い物や食べ歩きなどを楽しんで。静かな場所には、鎌倉でしか見られない景色とか、鎌倉でしかできない体験ってものがあり、非日常に触れることができます」
続けて、鎌倉生まれ、鎌倉育ちの木村さんに、人力車を通して知った鎌倉
の魅力について尋ねてみると、こう語った。
「この仕事に就き、日本庭園やお寺、神社の奥ゆかしいメッセージ性の高さを知ることができました。名前も知らないような植物の美しさにも気づき、当たり前になっちゃっていたことが感謝に変わりました。この街は一分一秒変化していく目まぐるしい風景と、ずっと変わらない懐かしくてやさしい時間が調和しています。そんな所はほかにないと思うんですよ。名所と穴場の多さや、地域の広さなど、すべてにおいてバランスがいい。全国に人力車が走っていますが、鎌倉という街が一番適していると思います。人力車のためにあるような街ですね(笑)」
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OAUマガジン 5号
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