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【大人の“あそび”】森とあそび、森に学ぶ。森魔女・ゆきよ―傍島 幸代―

くねくね道はトンネルと上り坂を繰り返し、山を登っていると体感させる。空が迫り、木々が生い繁り、季節の草花が開花する山間で、「森魔女」と呼ばれる女性がたのしく遊びながら暮らしていると聞き、会いに行ってみた。

森から受けるインスピレーションが作り出す世界観


 魔女という言葉からダークなイメージを持って行くと、いい意味で期待を裏切られた。“ 森魔女”こと傍嶋 幸代(そばじま ゆきよ)さんは、魔女どころか妖精のような純真さと、天女のような透明感を兼ね備えた女性だった。さらに彼女の話のそこかしこには、少女のような愛らしさも散りばめられていた。

 「ここは山間だから、木や山がとても近い。春夏秋冬がとてもはっきりしていて、植物からいつも季節を感じていられるの」 彼女は毎日森を歩く。森に入り、五感を解放し、感性の赴くままに過ごす。散歩をしようと、立ち止まって植物を愛でようと、森で過ごす時間は彼女にとっては瞑想の時間。無数の命が色彩豊かにあふれている森の中は、静かであると同時にとても賑やかで、シンプルでありながら心地よいカオスとして彼女を包み込む。山に暮らすようになって10年余り、森から受けるインスピレーションが彼女の世界観を作り上げている。

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 「自然は本当に表情が豊かで、いつも色んなことを教えてくれるの。本や教科書から新しいことを覚えることも大好きだけど、頭と五感を合わせて理解することが自分にはあっている。ここにあるものを感じて、そこから何ができるかを探求するような」

森を感じ、めぐみを生かす

 森魔女の遊びを知るためには、まずは「森を感じる」ことが先のようだ。確かに足元に視線を移せば、季節の植物たちが今こそ見てくれと言わんばかりに胸を張り、視界を上に広げたら、木々が風に身を委ねたダンスを舞って見せ、周りには鳥の合唱も、川の流れの演奏も聞こえてくる。
 彼女自身、森の恵みを活かして「遊ぶように暮らすことを選んだ」という。絵を描いたり、写真を撮ったり、花やハーブで化粧品や石鹸を作り、おいしいおやつを焼き、保存食を作り、体に良い食事も作る。縫い物、刺繍、服作り、生き物を愛でること、陶芸、ガラス工芸など、彼女の手仕事は実
に幅広い。そしてすべてが森の遊びそのもので「私にとっては全部繋がってること」だと話す。

 「森にいるだけで植物に目が留まるから、それを活かして何をするかが自然に思い浮かぶの。あとは実際に行動するかどうか、それだけ。やろうとすれば出来ることはたくさんあって、毎日色んなことをしているのは私の好奇心でもあるかな。森の遊びは暮らしに根付いていて、遊びだけど暮らし。感じたままに色々やってみると、そのうち自分にできることが何か、続けたいことは何かわかってくる。初めはぼんやりしてたと思うんだけど、だんだん自分にできることがはっきりしてくるの。なんか、“ 自分探し”みたいな感じ」

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 森の中で夢中に自分探しをしている間に、できることが増え、いつの間にか“ 森魔女”になった。あまりにも自然体で、まるで生まれてからずっとここで育ったようにも感じてしまうが、生まれと育ちは南国の海辺だという。では初めて森に来たときはどんな心境だったのだろうか。

 「はじめから解放感があったね。ここでは緊張する必要がないんだって感じた。空気が肌に合うような。この辺りにはね、“自分のまんまで生きている”って感じの人がたくさんいてね、私にも自分らしくいることを求めてくれたんだよね。職業とか会社名の前に、個人であること。まず“ 自分"がどう感じているのか、“ 自分"はこの環境で何ができるのかって考えたことで、色んなことを試すようになったし、それが今では人にも伝えられるようになれたんだから、面白いよね」

体の“ 声"を伝える役目として

 森の遊びを体現する彼女にとって、たくさんあるスキルの軸になるものは何かと尋ねると、意外にもそれは「ボディワーク」だと言う。

 「体と精神のつながりにずっと興味があって、常に自分の体や心とも向き合ってきたの。それから人の体に触れさせてもらっているうちに“ 体の声"が分かるようにもなった。私がしていることは、体の声を聞いて、それを体の持ち主に伝えること」

 森で暮らすことで自然にグラウンディング(地に足のついた精神状態)を保ち、自分でも「自己バランスがうまく取れるようになった」と話す彼女。せわしない街暮らしではそれが難しいということを、彼女は自らの経験を通じて体得した。自然に触れ合うことなく、頭を使う生活だけになると、人は足元の安定を失いがちになる。それを自ら経験したからこそ、彼女は“本人が気づかない体の声を聴く媒介役"として、疲れた人々をゆっくり解きほぐし、癒すことができるのだろう。

 「まずは自分自身を満たして、自分から溢れた分を相手に循環させようと思い始めてから、体の声はますますわかりやすくなったの。体と精神のつながりはすべての基盤だから、我慢や無理していること、頑張りすぎていることなんかが溜まり続けると、体という入れ物はパンパンに張ってきて、どこをどうやってほぐして欲しいか具体的に教えてくれたりするの。“ パソコン
見過ぎって伝えて! ”とかね(笑)」

 彼女ならではの体とのコミュニケーションを「インナータッチヒーリング」と名付けている。柔らかいマッサージのような施術中、ほとんどの人がいびきをかくほど本格的に眠り、寝ている間に不調が整うため、彼女はいつもみんなのスッキリとした目覚めを見届けているそうだ。どういうわけか
人を眠らせることが「得意技みたい」と言ってほほえむ彼女が、優しい眠りの魔法使いに見えた。
文:やなぎさわ まどか

森魔女 ゆきよ / 傍嶋幸代

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都心から約1 時間半、豊かな自然で満ちた山奥に暮らす。体と心を解きほ
ぐすインナーヒーリングセッションのほか、季節の野草やハーブで作る石
鹸やお化粧品のハンドメイド、自然の恵みで作るスイーツやフード作り、そ
のほか自然の暮らしに沿ったテーマのワークショップを多数主宰。自然体で
ありながらもおしゃれでスタイリッシュなライフスタイルをSNS やブログで発信中。好きな言葉は「ありがとう」。

パートナーの傍嶋飛龍さんは、画家、万華鏡作家として活躍するアーティス
ト。現在は ゆきよさんも手伝っている「廃材エコヴィレッジゆるゆる」の村長でもある。


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