広告嫌いなZ世代に届けるバズの本質論
今回は、「TikTok成功に至るマインドセットをQ&A形式で語る」をテーマに株式会社GOKKO CEOのごっこ倶楽部の田中聡さんとOASIZのCEO江藤優が対談したダイジェスト記事(全3話の1話目)をお届けします。
話者紹介
株式会社OASIZ 代表取締役 江藤 優
1998年生まれ。2019年よりByteDance株式会社のインターンとして、クリエイターパートナーシップ部門に従事。100以上のアカウントを担当当した後に独立し、現在は200万フォロワーを有するクリエイターとOASIZを創業し、国内外の膨大なリサーチに基づいた制作のもと、企業の継続的なバズと質の高いエンゲージを提供する同社の代表取締役を務める。
株式会社GOKKO 代表取締役 田中聡
ごっこ倶楽部プロデューサー 兼 GOKKO CEO
飲食店(アンプール)4店舗のバイアウト経験をしてる連続起業家。
セプテーニ、ビズリーチ、ファベルカンパニーで事業責任者、採用責任者などを歴任。
TikTokバズの定義、広告は嫌われる
江藤:OASIZでは、これまでの2年半で約2000本の動画を作成。アカウント運用だけで見ると、現在11億回の再生数。つまり、2000本で11億回再生されているので、1本あたりの平均再生回数は約55万回です。
ごっこ倶楽部さんと比べると少ないかもしれませんが、それでも、「TikTokでバズることの効果はあるのか?」とよく聞かれます。聡さんは、この質問をよくされますか?
田中:日々、めちゃくちゃ質問されます。
江藤:そもそもバズの定義って何でしたっけ?
田中:広告費を全く使わずに、オーガニックで再生数が伸びることだと考えてます。
江藤:再生回数で「バズった」「バズらせた」という話はよく聞きますよね。ところが、実際には広告費をかけて、再生回数をいわば購入しているものも多いですよね。このような場合、それを「バズ」と呼んでいいのか。
田中:そうですね。広告費を使って多くの人に届けること自体を否定するつもりは全くないですが、オーガニックで届いたものと、広告費で届けたものは受け手からみた時の見られ方が全く違うので、両者を一緒にするのは避けたほうが良いと考えています。
Z世代は広告が大嫌い
田中:今の若い世代は、広告を見ないためにお金を使うようになってきています(※)。広告をスキップするのは当たり前で、ただ飛ばすだけではなく、広告が表示されること自体にアレルギー反応を示すこともあります。また、無理やり広告を見せると、炎上することも多々あります。
※:参考
たとえば、YouTubeが30秒広告をスキップできないようにしたとき、X(旧Twitter)で大炎上したのもその一例です(※)。広告を強制的に見せることで、ミスブランディングを招く可能性があります。だからこそ、シンプルにコンテンツ自体が面白くて、広告かどうかに関係なく視聴者が楽しめることが大切です。
※:参考
江藤:僕も26歳でZ世代に含まれますが、周りを見ても広告が好きという人はほとんどいませんね。オーガニック動画を通じてコミュニケーションを築いてから、「あの広告は良かったね」と話すことはありますが、バズりもコミュニケーションもないところで広告を見ようとは思いません。むしろ、広告に対して非常に鬱陶しく思うことが多いです。この感覚を理解していないと、多額の広告費を払っているにもかかわらず、ユーザーから嫌われてしまう可能性もあります。
TikTokバズからコンバージョンにつなげる方法
田中:お問い合わせいただく際によくあるのが、「ショートドラマを使ってCV(コンバージョン)を獲得したい」というニーズです。ただ、最初に明確にお伝えしたいのは、ショートドラマを使ってコンバージョンを促すのは、非常に難しいということです。できないとは言いませんが、そもそもショートドラマでコンバージョンを目指す意味があるのか疑問です。
ショートドラマの主な目的は、多くの人に見てもらうことです。コンバージョンを目指すなら、別の手法が必要です。これを簡単に言うと、ウェブマーケティングにおけるLP(ランディングページ)戦略に似ています。マーケティングに詳しい方ならお分かりかと思いますが、検索上位に表示されるビッグワード(ビッグクエリ)での検索結果は、コンバージョンレートが低く、コンバージョンを得にくいとされています。ショートドラマを使って同じことをしようとすると、同様の問題が発生します。
したがって、本来やるべきなのは、多くの人にリーチするためのコンテンツと、コンバージョンを狙うコンテンツを明確に分けることです。
江藤:例えば、オーガニック動画でコンバージョンしやすい動画って、どんなものだと思いますか?
田中:そうですね、一番わかりやすい例はコスメですね。コスメ関連のTikTokやYouTuber、インフルエンサーが紹介している動画は、再生数はそれほど伸びないものの、コンバージョン率が非常に高いことがよくあります。最近では、アパレルでも同じことが起きています。知り合いが自身のTシャツを販売しているのですが、着ている動画がバズると、そのまま即座に完売につながることもあります。
江藤:確かに、僕もコスメ企業と話すことが多いのですが、最近ではそれが普通になってきていますよね。TikTokに投稿されるショート動画から商品企画が始まることもあります。
たとえば、2年ほど前にケイトの「リップモンスター」が爆発的に売れたのですが、その瞬間(※)にほとんどのコスメ企業がTikTokに注目し始めました。コメント欄に寄せられるユーザーの意見から商品開発を逆算して行う企業も出てきています。今では、そういった手法が当たり前になりつつある。
※:参考
田中:リップモンスターは本当にすごかったですね。
江藤:そうですよね。手に入らないほどの人気でした。あれは、インフルエンサーマーケティングをうまく活用した結果だと思いますが、若者のニーズをしっかりと捉えた点も大きかったと思います。ショート動画を見る人が増えている中で、彼らの行動や気持ちをうまく汲み取って動画を作ることが大切ですよね。
田中:そうですね。企業の担当者さんが売上につなげたいという気持ちは非常によくわかりますが、手段と目的を取り違えてはいけないと思います。広告が嫌いだと言っている人たちに、形を変えただけのショートドラマを見せても、意味がないと思います。大切なのは、面白いコンテンツが視聴されるということであり、それを忘れないようにしてほしいですね。
TikTokとパフォーマンス広告
江藤:TikTokでのショート動画にはさまざまな広告手法があると思いますが、日本ではブランディング広告よりもパフォーマンス広告が多いと言われていますよね。お聞きしたいのは、「パフォーマンス広告とブランディング広告の考え方の違い」についてです。特にオーガニック投稿との違いについてどうお考えですか? ちなみに、TikTokでパフォーマンス広告を実施されたことはありますか?
田中:パフォーマンス広告、つまり獲得型の広告ですね。コンバージョンを狙う広告のことです。実施したことはありますが、正直なところ、TikTok単体で成功したことはありません。たとえば、JALさんと一緒に行った事例では、JALさん側でLP(ランディングページ)を作り、そこに誘導する形でうまくいきました。しかし、TikTokを見ながらその場でコンバージョンに至るという体験は、一般の消費者や視聴者にとってはあまりないはずです。そのため、まだ難しいと感じています。
久米島 前編
久米島 後編
ショートドラマの強み
田中:基本的にTikTokでやりたいことと、コンバージョンを狙う広告は全く別物です。それを一つの動画の中で両立させようとするのは、ほぼ不可能。私たちがよく言っているのは、ドラマを作るのか、広告を作るのかによって発注先を変えてください、ということです。私たちが得意なのは、ショートドラマを作ることで、その中にさりげなくプロモーション要素を盛り込むことです。これは非常に得意ですが、広告的に作ってそれを面白くすることは得意ではありません。もし広告が目的なら、別のところに発注していただくのが良いと思います。
例えば、喧嘩しているカップルが仲直りするシーンで、お菓子が登場するとします。そのお菓子自体は何でもよくて、二人が仲良く食べているシーンが重要です。この時、そのお菓子の種類や味を強調するのは無理があります。「この味がすごく美味しい」と言った瞬間、ストーリーの流れが途切れてしまいます。しかし、喧嘩していたカップルが仲直りして美味しそうにお菓子を食べる瞬間に、その商品をさりげなく登場させることは可能です。これにより、視聴者にそのお菓子に対する良い印象を与えることができます。
これがショートドラマの強みであり、通常の広告とは異なる感情を視聴者に伝えることができるのです。このように、異なる要素をうまく掛け合わせることで、効果的なプロモーションが可能になると考えています。
「広告かよ」はポジティブ
田中:私たちが一番嬉しいコメントは、「広告かよ」というものです。このコメントがなぜ良いかというと、視聴者が広告だと気づいて認知まで達している証拠だからです。しかも、しっかりと動画を見て、さらにコメントまでするという一連の行動が起きている。
企業の担当者が、このコメントをネガティブに捉えることもありますが、実際にはここまで見てもらい、コメントまでしてもらえるのは効果があることの証明です。商品が目立つように強調しなくても、視聴者に気づいてもらえるというのは、非常に大きな意味があるでしょう。
江藤:確かに。ユーザーは基本的にコメントをしませんよね。通常は、ただ見て終わり、何も感じないというのが普通です。それを超えて、さらにコメントさせているというのは、非常に影響を与えた例だと思います。「また広告かよ」というコメントをネガティブに捉えている企業担当者がいれば、その見方は変えたほうがいいですね。