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ファンタズマゴーリア(第3部)

  • 『群像』2012年10月号

  • 『ファンタズマゴーリア』2014年9月(講談社)所収

  • 約461枚/400字詰め換算(第1部・第2部・第3部)

正直に言えば、誘惑はあります

過去の作品を整理していて、なんかモッサリした書き方だなと感じたり、ここをちょっと変えてやればグッと良くなりそうだとか、今の自分ならこうは書かないんだろうな、などと思ったりすると、つい手を入れたくなってしまうことがあって、どうせ自分の作品なんだし、最新の自分で上書きしちゃってもいいんじゃないの? などと自分をまるめ込もうとしたことも、皆無ではありません。

雑誌掲載したものを単行本化するにあたって加筆修正したことはあるし、誤字脱字といった単純なミスは、修正する機会があれば直したいとは思うものの、今のところ、作品はどれも、発表ないしは刊行当時のままです──『バンビーノ』だけは、たった一度だけでしたが増刷の機会があり、その際に誤字脱字を7つ修正しました(5つはルビの誤りで、他は全角スペースの脱落と助詞の誤りでした)。note版は修正後のものです。

noteへの掲載では、いずれの作品も完全なデータが著者の手元になく、手作業で異同を整えているので、新たな誤字脱字・差異が発生している可能性がないとは言えません。それについては、見つけるたびに修正しようと思います。出版社から転載の許諾はもらえても、データはもらえないんです。

作品に後から手を入れることはしない、という姿勢を保ってはいるものの、それに関する信念や方針といったものは、じつは持ち合わせていません。リリースした時点で作品はそれ独自の存在になるのだから、作者だからといって恣意的に改変するなどおこがましい、などとシリアスに考えているわけではないし、逆に、生きているかぎりは作品に手を入れつづけたいという欲求を日々抑制している、などということもまったくなくて、ただたんに、変える理由がないから変えずにいるだけです。理由というよりは、自分なりの大義名分みたいなものかもしれないですけど、なんにせよ、消極的な現状維持とでもいったところです。

書き手のことはさておき、マルテ・マルタ・リヱカ・リルンカたちには、どんどんグルグルまわりつづけてもらって、いわゆるPDCA的なものもブンブンまわしてもらって、エントロピーがゼロになるまでというか、腹落ちするまでというか、もうこれでいいと思えるところまで、変わりつづけていってほしいと思います。

いずれそのうち、最終回のない連載でもなく、外伝・後日譚・前日譚・スピンオフなどで書き継いでいくということでもなく、脱稿ないしは校了というステップを欠落させたままリリースして、その後ずっと更改しつづけることを前提にした作品を書いてみるのも悪くないかもしれない──と思わないではないものの、作品をいつまでもイジりつづける作者の姿というのは、すこぶる醜悪なものかもしれないし、作者が死んでも、あるいは死んではいなくても書けそうになんかないのに、それでもなおオシマイにしてもらえず、未完になることが最初から定められている作品なんて、あまりにも気の毒すぎる、という気がしないでもないですが、でももしかしたらそういうのは、悪い意味で人間っぽい見方かもしれなくて、作品みずから変化を継続する、という形にできるのであれば、ひょっとしてアリかもしれない、と思わないでもありません。そんなのもう小説じゃないんじゃないの? と言われてしまいそうですが。


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