見出し画像

不完全で完璧なあなたへ




数年ぶりに大好きだった従兄と電話をした

優しくて 面白くて 賢くて 器用で 運動神経が良くて 面倒見が良くて 常に話題の中心にいる 14個離れた幼いあたしの1番身近だった王子様

絵にかいたようなエリート街道を駆け上がった彼も いつの間にか結婚し今では2児の父だ


上の従姪が まだ小さな小さな怪獣だった頃に1度だけ会ったことがある

落ち着きなく実家のリビングを隅から隅まで徘徊し あたしの下位が記録されたテストを片っ端から引っ張りだした

そんな彼女との2度目ましてはテレビ電話で

携帯の仕組みすらまだ理解していないであろう彼女は 目の前に映る誰かもわからない女に戸惑い恥ずかしがった


ほら 英語でなんかおしゃべりしてみな

そう従兄に促されて英会話に通うらしい彼女はたどたどしく 1から10まで英語で数を数えてみせた

抜けるセブンとナインに微笑みつつも パーフェクト と褒めれば従兄の苦笑いが聞こえた

全然パーフェクトなんかじゃないよ


パーフェクトだよ

あたしは返した

確かに英語で正しく数を数える ということに関しては不完全かもしれない

だけど 英語で何か喋る ということに関しては文句なしのパーフェクトだよ


数十億を動かしていたエリート銀行員だった従兄は この前転職し更に給料を上げた

その内一家でアメリカに赴任することが既に決定している


小さな小さな怪獣だった彼女はまだ2歳か3歳だ

ようやく小さな怪獣になった頃だ


海外留学が丸1年を超えたあたしでも 自分の英語が完璧だなんて台詞 後10年こちらに住んだって言えないことは明瞭で

自分の母語にすら 日本語というそこはかとなく奥の深い複雑な言語を持った身としては 完璧 なんて言葉は使えないだろう




あたし達は皆 不完全 だ

必ず何かを持っていて 必ず何かが足りない

それを人であれ物であれ 頼りながら使いながら補って生きている


そして同時にあたし達は皆 完璧 だ

生きることに関してはもうプロだろう

母親のお腹の中に小さいながらも宿った時 あたしたちはもう完璧に生きることを成功させた

そして1人1人の素晴らしき個性を必ず持ち合わせている

それ以上に誰かが何かをあなたに求めるのならば それは彼らの不完全な部分だ




優しくて 面白くて 賢くて 器用で 運動神経が良くて 面倒見が良くて 常に話題の中心にいて エリート街道を駆け上がった王子様は 白馬に乗れなければイケメンでもなかった

幸せ太りでお腹がぽっこり出た 垂れ目のへらへらしたどこにでもいるようなにぃちゃんだ


もう15年以上も前になるのか

あたしが小さな小さな怪獣だった頃の憧れ




今度帰れる時は小さなお姫様に何かお土産を買っていこう

1から100まで英語で数を数えてもらおう


そしてあたしは彼女に言うんだ

パーフェクト




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?