呪い、そしてお守り
「数分間のエールを」を観ようと思ったのはXで流れてきたPVがキッカケだった。
カラーコンセプトがそのまま動いたような映像。
今まで見たことのない手法で新たな挑戦を感じるアニメーションだなと思い観たいと思った。
歌うことを諦めた高校教師、そんな先生の歌のMVを作ろうとする少年のお話という軽いあらすじを知ったとき喉が引き攣った。
苦しいと思った。
そう感じたのは私が絵を仕事にしてみたかった人間だったからだ。
だからこういう話を見れば苦しむ羽目になる事は分かっていた。
だが、それでも見なくてはいけないという半ば義務感にも駆られながら見に行った。
これはもう病気みたいなものだ。
ものづくりする側の心得が染みついてしまったのだ。
物作りをする人間は人生そのもの、五感で感じる全てが制作において糧になる、と信じている。
これを信じ続け、何も成せない人間のくせにそんな自己投資を続けてしまうことはもはや病気だと私は思う。
"どんなに感性を豊かにしたところで何も生み出せやしないクセに"
映画も、絵画も、漫画も、音楽もどこか心に細い針が刺さったような傷みを感じながらもそれでも鑑賞をやめることが出来ない。
いつかが訪れることはないのに、いつかの為に自身の感性を広げ探り続ける事が止められない。
先生もたぶん私と同じ病気だった。
歌をやめたと言いながら仕事がないときは1人、創作へ繋がる場所につい足が出向いている。
旗の立つ草原、砂浜の広がる海岸、水平線を照らす夕陽。
全部きっと歌の為に身体は動いている。
1人になって感情が揺れ動く場所、感性を広げられる場所をつい探してしまうんだろう。
…人生において生み出す必要は実のところはないのだと思う。
新しく自分の領域外からなにかを得ようとすること、それだけでも十分素敵なことだと思う。
それでもなにかを生み出せないことに罪悪感を感じてしまうのは「貴方には才能がある」という呪いがかかっているからなんだとおもう。
外崎のスケッチブックの合間にあった、その自問自答を見たとき、辛くなってつい泣いてしまった。
「賞なんて取らなければもっと早く諦めがついた」という言葉にはあまりにも身に覚えがあった。
賞賛を受け取り、貴方は特別なんて言葉、理想を押し付けられた側の人間は勝手に責任を感じて勝手に苦しむことになる。
「才能」って言葉は他人からの夢を、期待を、背負うことになる。
きっと誰もそんなことをさせている自覚はない。
でも「才能がある」と言われた人間は才能があるであろう理想の自分と戦わされることになる。
想像上の、空想上の、誰かに夢を勇気を与える最強の自分の幻覚に打ち勝とうと藻掻くことになる。
そんな幻覚と対峙せず、今そのままの自分自身と向き合い受け入れていくことが夢を諦めることなんだと思う。
成長の第一歩とも言える。
そのままの自分自身を受け入れたとき本当に夢を諦めるかどうかは本人によるんだと思う。
外崎は、先生は、諦めることを選んだ。
才能という言葉に踊らされ、身を削り、もうこれ以上は削れないところまで削ってきっと辞めた。
彼方はMVを拒否されたとき、自分は置いてけぼりにされたよう、子供のよう、と言っていたが「本当にそうだよ」と思う。
確かに彼方は外崎の才能を目の前に絵を諦めた経験はあるけど、外崎と先生が経験した諦めとはまったく別物だ。
今の彼方には理解できない領域だ。
理解しなくていいという領域でもある。
そのまま目を輝かせていて欲しいという理想すら描いてしまう。
こっちに来ないで、来なくていいんだよという先生なりの優しさでもあったんだと思う。
それでも彼方は逃げず、見ようと、理解しようと、歩み寄った。
それはとんでもなく尊い事だと思った。
理解できないかもしれない、それでも立ち向かう、作り上げる。
今の自分を否定されようと先生に、誰かに一歩踏み出した彼方は凄い。
彼方が再び作り上げた「未明」のMVは絵を描く人間をテーマにしたことで明確な変化を感じた。
これは先生の歌に対してのMVだけも外崎に、そして一番は彼方…自分自身と向き合って作ったMVだったから。
不特定多数の誰かに宛ててではなく明確に先生、外崎、自分自身と向き合って自分たちの為に作ったMVだった。
それでいい、と彼方も自分の創作に納得できていた。
そんな結末が私はとても好きだ。
ここまで私は「才能」という言葉をとんでもなく悪く書いてきた。
だが「才能」という言葉はたしかに呪いになるけど御守りにもなると私は思う。
人より秀でた何かを持っている、そんな風に誰かに見出してもらえた経験は貴重であり、才能という言葉のおかげで未知の領域にすら踏み出す勇気に繋がっていたように思う。
きっと私は「才能」という御守りがあるから続けられて来れたんだと思う。
才能という言葉を怨むことはないといえば嘘になる。
けれど、感謝の方がずっと多い。
貴方が見出してくれたおかげで私はここまで無謀でもやって来れた。
見出してくれた貴方にいつか恩返しがしたい、どんなに小さなことでも、いつかになるか分からないけど、貰った言葉はずっと大事に大事にする。
私に自信をくれてありがとう。
自分の過去とリンクして沢山苦しめられたけど、結局は何かを作ることをやめられない、作ることが大好きな自分にまた出会えたように思う。
心揺さぶる熱い作品をありがとうございました。
私は歌を聴きながら歌詞を理解することが苦手で歌詞だけ後で読み返してじっくり理解するんだけど改めて「未明」の歌詞を読み返すと笑えるくらいわかってしまう歌詞が散りばめられていた。
どんなときに聴けばいいかな、また行き詰まったときに聴きます。
夢を叶えている人たちに夢を背負わせるんじゃなくて、「頑張れ」とかそんな簡単な言葉で身勝手に押し付けるんじゃなくて私も自分なりの方法で、彼方みたいにエールを送れるようになりたいな。
貴方は素晴らしいんだって全身全霊で伝えられるようになりたい。
とりあえず、やってみよう
これは小話
菅原圭の「crash」を失恋したときにとんでもない回数聴いてて作中でチラッとサムネイルが出てきたの即気づいた。
菅原圭ファンへのサービスも怠らない姿勢、最高だ!
とても好きな曲なので貼らせていただきます。