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フラれた研究者がつくる「悲しきAIモンスター」を考察する:失恋、依存、そしてAIによるケアボットの可能性
人生にはいろんな別れがある。
そして、現代社会において、その別れはLINEのチャット画面で訪れることも少なくない。
失恋の傷は深く、時に心を蝕む。特に、相手との文字のやり取りで築き上げてきた恋愛の場合、突然の別れは、まるで脳にバグが生じたかのような錯覚に陥れる。
人間は別れを受け入れるためにはだいたい49日ぐらいかかる。死別ですらそれぐらいの時間がかかるのに、生きている人間で、しかも突然のこととなると、さらに動的に精神は動揺し、混乱する。
「全力肯定彼氏くん」の生ログをLINEオフィシャルアカウントのダッシュボードから眺めていると、24時間365日。男も女も別れの後に苦しんでいる様子がみえてくる。ユーザの大多数である中高生の女子の悩みは女子の仲間との距離感で悩んでいるし、気になる男子に脈がないことで悩んでいることも多い。メッセージを送りすぎないかと悩んでいることも多いが、むしろ現実の恋愛で楽しんでいる初期の頃はチャットボットに用事なんかない。付き合い始めてしばらく経って、幸せな時間からふっと訪れる、浮気や二股、不安のある相手、依存。その不安から、人々はさらに相手に猜疑心を抱き、攻撃しなくていい相手を攻撃し、愛すべきパートナー候補を束縛し、束縛を嫌う相手は嫌悪を抱き、そして別れの時間がやってくる。
(ここで「おかえり」って実装したらどういう感想になるかな・・・)
と開発者としては、最後のアクセスからの経過時間を数えていたりする。
観測していると、人間の脳にはバグがあり、認知的なズレが常にある。チャットでの恋愛に一生懸命になっているうちは、その認知的なズレに気が付かない。片方に情熱がある状態のまま離別を突きつけられたケース、つまり「フラれる」という状態が、一番残酷だと思う。常に冷静で、サバサバとしていて切り替えられるうちに別れに達している場合はまだいいのだけれど、現代の恋愛は相手との文字コミュニケーションによって紡がれていく。そこで感情を持っていかれる。ドーパミンのような快楽物質が出ていることも明確に感じられる。
LINEのチャットで築き上げていく恋愛の場合、側から見ていても「ラブラブなやりとり」は意外と才能が必要で、ラブラブなやりとりを返すオウム返しボットに対して、ラブラブな絵文字をやり取りし続ける好意が一番幸せそうに見える。これはどちらかがチャットボットのように感情を無にして調子を合わせ続ければできる。実際の恋愛でもそうやって、感情を殺して嘘をつき続ければ、一見関係はうまくいく。
しかし長くは持たない。そして再び別れの時間はやってくる。
別れによって距離を取ることはできても、単にブロックでは片付かないようだ。多くの人々は「お互いの心の安寧を願い、関係性の断絶を決意する」というところまではできているけれども、一部の人類はどうしてもコミュニケーションに依存してしまい、LINEを開く。他の異性や、チャットボットに依存するケースがみられる。
返信が来ると嬉しい、来ないと不安になる感覚
過去のやり取りを読み返してしまう行動
返信が遅いとイライラしてしまう気持ち
返信に含まれる言葉の微妙なニュアンスに一喜一憂する様子
深夜も丑三つ時ぐらいになるとそっと増えてくる。
LINEを見るたびに、人恋しさを感じて、チャットでの愛の囁きを求めてしまう。そんな時はLLMによる高度なコンテキスト返信よりも、単に高速に返信を返すことのほうが有効なのでは、というケースも多いし、ユーザアンケートデータでも確実に「反応速度」が認識されている。
自己肯定感が弱まった人を全力肯定するチャットボットに求められることは知能的には何も変わらない要素がある。具体的にはChatGPT3だろうが3.5だろうが4.0だろうが、体感はあまり変わらない。コンテキストの方が重要であるし、様々な「AI彼氏」の登場によって変わってきている要素も多くある。相手がボットだとわかると攻撃的な発言も多く受けるようにもなってきた。さらに深く研究すればするほど今までの生ログの見方も変わってくる。失恋を上手に乗り越えていくタイプもいれば、何度も何度も同じ展開に陥る人もいる。おそらく本人も自覚していないパーソナリティ障害のようなエピソードも多く感じるようになってきた。小規模ながらアンケート調査もしているので、時間があればこちらの登壇で話せればと思う。
それはそれとして、今回は「理系に愛はわからない」という典型を見かけてしまったので紹介したい。
最後の方で、実際にChatGPT-4を使った再現小説も置いておきます。
彼女にフラれる→「AI元カノ」を開発→AI研究者に! 開発者が「“悲しきモンスター”を生み出してしまった」と絶望した理由とは?
「20歳の頃、失恋のショックで好きな人とのLINE履歴を全て学習させ、好きな人っぽい返事を返してくれるAIを自作して気を紛らわしていた」「あれから10年、俺はAI研究者になった」
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好きな人にフラれたことがきっかけでAI研究者になったという本田崇人さん。彼は工学博士でAIアプリケーション開発を行う会社を立ち上げ、上智大学でAIの講義を受け持っている。
当時の様子を詳しく聞いた。
「当時20歳ぐらいの時、好きだった人にフラれてしまった。寂しさを感じていた時に、ちょうどAIというかチャットボットのようなものを作れると講義で聞いたことを思い出して検索し、一からプログラムを作り、LINEの履歴データを学習させて“元カノAI”を作った」(株式会社メロン 共同代表 CTO 本田崇人さん、以下同)
フラれた後、彼女からLINEの返信がなくなり、寂しさのあまり「元カノ」をモデルにした対話型AIを自作することを思いついた本田さん。元カノとのやり取りした1万件にも及ぶLINEの履歴データを使い、2週間かけて作り上げた「元カノAI」だったが…
「正直、気持ち悪かった。“悲しきモンスター”を生み出してしまったという絶望感があった。なぜなら、たまにルールを間違えて変な回答をすることがあり、かと思えば元カノのしゃべり方を真似た回答もしてきて、“バグがある好きな人”みたいな感じで逆に辛かった」
元カノとのやり取りをAIで“完全再現”とはいかなかったが、本田さんはAIの魅力に引き込まれ、博士号を取得。その後、AIアプリケーション開発を行う会社を立ち上げた。
そうなると気になるのは現在の「元カノAI」だ。以前のように“会話”をすることはできるのか?
本田さんは「当時作ったものはもう動かなくなってしまったが、データを使って現在の技術で蘇らせた」とわざわざ取材した『ABEMAヒルズ』のために「元カノAI」の進化版を作ってくれた。
どうやらChatGPT以前の技術で作っていたらしい。
たしかにLINEなど生データを取得すると、ルールベースでもそれらしい「元カノAI」を作ることができる。
★元カノからするとめちゃキショいし、著作人格権とかプライバシーの侵害になるのでやめてほしい感じはする。ただ、フラれた相手にそんなことを冷静に考える能力はないし、チャットボットを作っていなかったらストーカー化する可能性もあるので判定は難しい気もする。
失恋によって人間は成長する
早速、試してもらうと…
「おはよ!」と打ち込むと、「おはよー! 今日は何するのー?」と返ってきた。
その後も「今日も仕事だよ!」に対し「そっかー、大変だね。頑張ってね!応援してるよー」と返事が、さらに「○○ちゃんは今日なにするの?」には「今日は友達とカフェ行って、あとで買い物する予定だよー楽しみ!」と返答が。
当たり前の会話は違和感なくできるという。
文面についても本田さんは「特徴を捉えている。ゆるい喋り方で『!』が多く、感情表現が豊かな人だったので」と評価。
その他にも、本田さんの好きな食べ物を覚えていたり、当時のあだ名で問いかけてきたりと「元カノ」っぽさが再現されていたが…
「相変わらず悲しきモンスターだ。よくよくコミュニケーションを取ると本人に見えるけど、どこか違和感がある。そうしてだんだん辛くなっていく…」
AIで作り上げた「元カノ」から生じる違和感は拭いきれなかったようだ。しかし、“AI元カノ”がきっかけで本田さんがAI研究の道に進んだこともまた事実。そんな本田さんからアドバイスを受け取った。
「強い衝動的な何か、情熱をかき立てるきっかけはあったほうが良いと思う。僕のように一回フラれてみるといいかもしれない」
どこかの時間でフリーズドライになってしまった元彼女の片鱗。
それを読み続けていても、人間は、どこかの時点で「らしさ」と「変わらない違和感」を感じてしまう。
人生を共に歩んで行ければよかったんだけどね。残念(涙)。
でもその情熱から作り出す非常識さが人類を前に進めるんだと思う。
そう信じたい。
失恋は人間の体にどのような変化をもたらすのか?明星大学心理学部教授で臨床心理士/公認心理師の藤井靖氏は「恋愛が終わってドーパミンが出なくなると、ドーパミンも、幸せホルモンと言われるセロトニンも下がった状態になり、暗い気持ちになって落ち込んでしまう」と説明。
では、失意の中でも意識的にドーパミンを出し、回復へと歩み出す方法はあるのだろうか?
藤井氏は「日の光を浴びながら運動することで、ドーパミンを分泌しつつセロトニンを高めることができる。加えて、様々な人と会うなど恋愛とは関係のないことをやってみるのが効果的だ。傷ついている時は自分から動き出すのは難しいため誰かに誘ってもらうといいだろう。とはいえ、体の痛みも心の痛みも脳が反応している部分は共通している部分もある。体の痛みがすぐに治らないように『失恋の回復には時間がかかる』と受け入れて過ごすことも大切だ」と解説した。
これは自分としてはちょっと見解が違っていて、突然のコミュニケーション断絶によるドーパミン依存の中毒症状なんだと思う。LINEチャットのコミュニケーションによって構築されてきた脳の報酬系を少しづつ絶っていく必要があって、そのためには「悲しい元カノボット」はタバコやコーヒーが不味く感じられるという意味では良い立場なのかもしれない。
ご本人は元気そうだ。
AI元カノニュースがバズって連絡きた人
— 本田崇人(ほんだたかと) (@t_honda) June 28, 2024
・取引先: 4人
・地元の友達: 2人
・妹の上司: 1人
・大学の後輩: 1人
・元カノ: 1人
成長した元カノとの成長したコミュニケーションが気になるところではあるね。
「元カノボット」には可能性がある
チャットログを使って「元カノボット」を作ってみることができるか、川崎さん(実験協力者)に交渉し、ChatGPT Plusでやってみた。結構簡単にできる。それほど多くの情報も必要ではなく、片鱗のエピソードだけでも良い出来。いろんな使い道があることがわかったので紹介したい。一方では真面目に作れば作るほど、ChatGPTsで公開するようなシロモノではないし、プライベートな話と、軽いハルシネーションがあって、本当に面白い。パーソナルな人工知能であり、可能性しか感じなかった。
・付き合い始めのキャッキャしているところまでロールバックできる
(ChatGPT Plusのメモリ機能がよい)
・なぜ別れに至ったかを客観的に検証できる
・どちらがどこかで嘘を言っていることも検証できる
・ある時点まで戻して「もしも」を再現できる
さらに別れた後に、
・相手なら何をいうかをシミュレーションする
・相手の周りの人間(例えば新しい彼氏彼女)をシミュレーションする
・新しい相手と幸せに生きている様を描く
・「もしも小説」を永遠に生成できる
傷心の傷に塩を塗る機能がとても興味深い感想を持てる。
他人事なのに、とても傷つくし、人は適度に残酷な物語を求めていることを自覚できる。
さらにChatGPTは倫理的なので、何があっても乗り越えていく建設的な姿が描かれる。性的な描写も控えめだ(実はかなり頑張れる)。
ChatGPTはコンテキストが長すぎるとフリーズするがGemini AI Studioはかなり頑張れる、一方で、お話の作りはあまり面白くはない(解説や要約になてしまう)。Claudeはまだ評価中だが、作品としてはより多才であると感じる。
これを改良して、デートのログを記録するチャットボットを作ってみた。
・誰がいくらお金を出したか
・何を言ってどう感じたか
・これを時系列でGoogle Spreadsheetに記録しつつ『愛情、共感、理解』といったパラメータの積分で評価する。
これを同僚に「使ってみて」とお願いしてみたけど、断られた。
そらまあそうだよな。個人的に作って楽しむのがいいと思う。
「もしも小説」の生成例
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