より自然なハイブリッドセミナーの配信技術
先週末は、第4回大分区域麻酔セミナー(ハイブリッド)でした。すっかり定着したZoomISOのオペレーション。フル活用!。たった一つの機材トラブルが最後の最後までこの配信を難しくしたが、それはさておき今回のハイブリッド配信はこれまでと大きく違う画面構成を考案した。
ハイブリッドセミナーで必要となる配信画面について
このnoteではすっかりおなじみとなった”ハイブリッドセミナー”とは、そもそもどのようなものか。コロナ禍で、多くの学会やセミナー、研究会だけでなく日常的な会議から夜の飲み会まで多くのことがオンライン化した。緊急事態宣言下では、完全オンラインも余儀なくされたが、宣言解除され、さらにワクチンの接種状況や個人個人の感染リスクなども踏まえ、また、いわゆるアフターコロナに向かうために可能な範囲で制限解除、あるいはやり方を変えていく。さらに、この2年でオンラインの良さを感じた人が多いことも事実。実際、ハイブリッドセミナーの開催案内をしてオンライン参加希望者が続々と申し込みをしてくれる。そういう、今まで埋もれていた市場を大切にするために、従来通りのオフライン形式でありながら同時にオンライン配信もしていくのがハイブリッドセミナーだ。
ここで難しくなるのは、双方を同時に行うということ。
オフラインの会場には、従来通りの方法で演者のスライドをスクリーンに映すだけでいい。映像キャプチャーデバイスを用いれば、PCの出力を配信機器にも入力してスライドを配信することもできるが、会場の臨場感や演者の身振り手振りといった”プレゼンテーション”を配信するためには演者の姿をカメラに映し、それを小画面(PinP)で映す技術がある。
更に図にあるように、オンライン演者の場合は現地スクリーンにZoomなどの配信ツールの画面と音声を会場に流す必要がある。
これを”同時に”行うというのが非常に難しい。
Rolandのビデオスイッチャー:V-8HDは、3つのHDMI出力を備えており、そのうち1つはMulti view(HDMI入力信号確認)として、2種類の出力端子がある。設定で、1つはPreview(画像加工前)1つをProgram(画像加工後)という2種類の出力ができる。
画面分割を用いた配信技術
さて、演者の身振り手振りといった臨場感あるプレゼンテーションを配信するのに、画面端に小さく出されるPinPにどれほどの効果があるかは疑問だった。
少し脱線するが、オフラインと比べてオンラインセミナーはなかなか集中力を保ちにくいという問題がある。その理由の一つは、オフラインセミナーの場合は参加者はスライドばかりを見ているわけではない。演者の声の抑揚に応じて、演者席や座長席、会場の周りの景色に目を配りながら、演者のジェスチャーもみながらスライドの内容を強弱つけながら理解する。そのような非言語情報を、オンラインに乗せるのは非常に難しい。オンラインでは、参加者は演者のスライドを見続けるしかないのである。いや、そもそもひたすらスライドしか配信されない。先程、オフラインの例で述べたように、スライドばかり見るのではなくその時の演者の姿も見たい、PinPでは小さすぎて効果がいまいち。そこで、画面分割「SPLIT」の機能を使う。
いま、多くのプロジェクターがフルHDMIに対応するようになり、プレゼンテーションスライドも16:9の縦横比で作成可能である。この、HD配信時代に、あえて4:3の比でスライドを作り、当然左右に黒抜きができるのだが、そこを画面の片方に寄せて、寄った分のスペースに演者のカメラを映すことができる。オンラインプレゼンテーションに慣れば、配信画面でこのようにスライド側を向いてしゃべることができる。
V-8HDでは任意の2つの映像を選んで、自由な比率で画面分割=2画面構成を作ることができる。さらにV-8HDはこのSPLIT合成の画面を左右に動かすことができる。これは、固定カメラに演者を写したとき、真ん中に映らなかったときに固定カメラを操作することなく左右に動かすことができるので非常に便利。
さらに、セミナーといえば質疑応答のセッション。オフラインのみならず、オンラインでも質問が出て、ビデオ・音声ONで対談するととても有意義なハイブリッドセミナーになるだろう。ZoomISOというツールを使うことで、Zoom参加者を自由に一人一人にウィンドウを割り当てられるようになったので簡単にZoom参加者でもSPLITを組むことができるようになった(それまでは、非常に苦労していました)。
このような対談画面を作ることもできる。
さらに、演者・座長・質問者の3画面構成(SPLIT+PinP)も含め、講演形式のセミナーで配信画面構成についてはある程度形ができあがった。
果たしてリアル会場にリアル演者の映像はいるのか
さて、ここで問題が出てくる。SPLITの機能は、右画面と左画面の2種類の入力を指定して画面構成をするのだが、1つはPreview用、1つはProgram用に割り当てられるボタンを操作する。つまり、SPLIT画面は配信にのるだけでなく現地のスクリーンにも投影される。
このSPLITを活用しだしたときに、どうしてもリアル会場にスクリーンの隣りにいる演者がスクリーンにも大画面で映し出されるという”違和感”の中で会を運営していた。
正直、リアル会場のスクリーンには演者のスライドを映し出すだけでいいのだ。例外は、Zoomからの質問者に答えるときのみZoomの画面を映し出す必要がある。
とはいえ、オンライン配信のためにSPLIT画面を組むと、リアル会場のプロジェクターへの出力もSPLIT画面になってしまう。より多くの出力系統を持つV-160HDなら、SPLITに影響されない出力に割り当てればできるようなものを・・・。
V-8HDのリアル出力をAUXにする
とまぁ、V-160HDの妄想記事を書いているときに、書きながら気づいた。
『V-8HDのoutは何もPreviewやProgramじゃなくてもいいんじゃない?』
それが、AUXという設定。正直このAUXの使いこなし方がまったくわからなかったのだが、これはとあるHDMI入力の映像を固定しておくことができる。
つまり、例えば演者PCのスライドをHDMI 4につないでいるときに、会場プロジェクター用のHDMI out 1をこれまではPreviewを割り当てていたのを、AUXを割り当て、AUXにHDMI 4を割り当てておけばたとえどのような画面合成をスイッチャーでしたとして、out 1はHDMI 4に固定されるのだ。
このようにして組んだ、先日のオペレーションシートの一部がこちら。
このように、現地演者の場合は配信側はSPLITやPinPを組んだりといった技術を使っているが、基本的には現地スクリーンには演者スライドを表示するのみ。Zoomで質問が来たときのみ、配信側にはZoom質問者と演者の2画面が配信されているが、現地スクリーンにはZoom質問者の画面のみが表示されるという仕組み。現地に2画面はいらない。だって、そこに実際いる人をわざわざスクリーンで見る必要がない。
唯一、オンライン演者の場合のZoom質問者のときのみ、二人ともオンラインなので画面を組んで映す必要がある。このときだけ、少し操作が煩雑化する。
苦労した割に、当たり前なこと
さて、というわけでこれまで苦労してようやくここまでたどり着いた感がある。ここに来てようやく、対比して考えられるATEMシリーズとは完全な差別化も図れたわけだ。
その苦労の割には、結局、現地セミナー側は演者のスライドがスクリーンに表示されるというごくごくアタリマエのことが行われているだけで、オンラインでその時どうなっていたのかとか知る由もない。逆もしかり。
実は今回、このように自分の中では大きな革命的な技術の変更があった。しかし、それに気づくのはこれまでアカデミーに毎回参加してくれていて、かつ現地と同時にオンラインも見てる参加者・・・。つまり、スタッフ的な人しか気づき得ない。仮にスタッフがモニタリングしたところで、『あ、現地にはスライドね。オンラインは質問の時はSPLIT組んでるね』程度にしか気づかず、実はこれまでと同じことをしているだけ。両方を同時に見て、かつ以前と比較した人にしか気づかれない。
これを、”大きな”革新と言えるのか、実は微妙。
たった一つの機材トラブルが引き起こした苦労
今回、例によってプログラム進行表示端末を用意して、その予備端末で映像なども流す予定だったのだが、メインで使うV-8HD→PCのビデオキャプチャーがリハーサルの途中で機能しなくなったことに気づいた。慌ててそのサブ端末用のビデオキャプチャーを流用して難を逃れたが、おかげでサブ端末が映像用で使えなくなってしまった。サブ端末の役目を、V-8HDのHDMI 8にすべてを集約させてしまったので、画面や音のトラブルが発生して、もちろん原因がわかってるから即座に対処はできたんだけど、何重にも重なったトラブルをその都度対処し、かつ上記のような新技術(の割に誰にも気づかれない)を操作していたので、正直死ねた。さいごのセッションなんてほんとブチ切れてて、会場が薄暗かったのがせめてもの救いだが、ホント不機嫌でそれが全面に出てしまったのは反省した。
そもそも、V-160HDの妄想記事を書いてるときに思いついたことを無理やりV-8HDに実装し、ギリギリの状態だった。当日は会場のスピーカーが使えずに結局プロジェクターのスピーカを使うようになったりもあり。そもそもコロナ禍に加え地震の影響で来れなくなった人もいたりして本当に限られたスタッフの中での運営だった。
いつもだったら、「第4回大分区域麻酔セミナーの配信技術」的なまとめ記事を書くが、正直今回は反省というものをしていない。それよりも、『あの局面をよく乗り越えられたな』というTips集をまとめ、うまくいったことに目を向けることにした。その都度、その場で最良の判断が求められ、結局配信の一部に画像の不鮮明さがあったがそれもいつも通りオンデマンド版という形で乗り越えることにした。なんだかんだ、アカデミーの経験が役に立っている。途中、カメラの電源が切れているのにも、V-8HDのMulti viewで気づくこともできた。
ここ最近、毎回言っている気がするが。これがV-8HDの限界点じゃないかな?
世の中には、より多くの機能を備えた機材がたくさんある。中には確かに、プロ仕様や凝ったことができるため、高度技術=「すごいねー」的なものもあるが、その反面、参加費をいただいてセミナーを運営するのであれば”セーフティーネット”にも気を配り、保険は何重にかけておくに越したことはない。しっかりと保険をかけ、その保険を活用できるようにシステムを組みながら、それでいてもなお出張対応のコンパクトハイブリッド配信システムの軸はずらしていない。
今回の配信卓(自分の席)。