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【名作迷作ザックザク㉛】殺しの舞台は希望を胸に抱いた金の卵が降り立つ60年前の上野駅! 徹底的に若者をスポイルする反社の魔手に精鋭刑事が挑む映画『七人の刑事 終着駅の女』(1963) 

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
 秋風薫れば 寂しくて誰かに寄り添って…O次郎です。

※秋口に差し掛かるとこの曲思い出すのよね。
2006年だからもう16年前の曲か……恐ろしい。(-.-;)

 今回は往年のモノクロ映画『七人の刑事 終着駅の女』(1963)です。
 今年の7月頭にDVDがリリースされ、娯楽映画研究家の佐藤利明さんがツイートで大絶賛紹介されていたのを見てポチろうか迷っていたのですが、こないだCSの日本映画専門チャンネルにて放映されていたので之幸いにと観てみました。
 結果、主役の刑事たちよりもあくまで事件主体というスタンスが、主要人物の個性が強くてナンボの現行の刑事ドラマと真逆のアプローチのため、のめり込みにくい部分は正直有りましたが、一方で当時の風俗や社会問題、あるいは警察と反社との対立具合が垣間見られ、今現在と似て非なる若者の空疎さが身に染みる脚本はなんともユニークでした。非常に地道で地味な捜査シーンの連続も今の世に於いては新鮮そのものです。
 果たして半世紀以上前のリアル路線の刑事ドラマが如何なるものであったか、読んでいっていただければ之幸いでございます。
 それでは・・・・・・・・・・・・"あきましておめでとう"!!

米澤先生が他のシリーズで忙し過ぎるのか、古典部シリーズはいっこうに続刊が出ず。
最新刊からはや6年か。(´・ω・`)


Ⅰ. 作品概要

 60年代初頭から70年代末まで断続的に放映されたTVの人気刑事ドラマの劇場版第一作が本作ということのようです。
 上述のように物語はあくまで事件が主体で各刑事は個性が極力排された捜査のプロフェッショナルで、各々の捜査活動を逐次集まって照らし合わせて一同で推理をしていく過程からするに狂言回し的とさえ言えるかもしれません。
 同じくCS放映で拝見した同時期の東映製作の刑事ドラマ『特別機動捜査隊』も終盤は各刑事の個性が目立つエピソードが多くなりましたが、序盤はやはり本作のように専ら事件中心の作り方が主流だったようです。

『特別機動捜査隊』の名編の呼び声高い第623話「ある夜の出来ごと」。
高熱の体調不良の畑野刑事が乗ったとある終バスに酒に酔った粗野な大学生二人が乗り込み、
バスジャックして乗客に乱暴狼藉の限りを尽くしそして・・・という物語。
ハリウッド映画『ある戦慄』(1967)に近いが、ラストはもっと陰惨で。
内容自体がひどくユニークな事件のエピソードであれば強烈に記憶されるが、
それだと往年の刑事ドラマが大事にしていたリアリティーが薄れて痛し痒しか。

〈あらすじ引用〉
上野駅のホームで、三十前後とみられる女が刺殺された。一見して安物とわかる女の黒いバッグには、北上行の切符が一枚入っていた。自分が抱き起したのが死体と判り、貧血を起こして倒れてしまっていた第一発見者の駅員が目を覚ました。彼は列車が出たあと倒れている女に気づいた。病人かと思って抱き起そうとした彼女の足元には白い鞄が落ちていたが、死体と判り気を失ってしまい、気づいたときには白い鞄が見えなくなっていたと言う。捜査本部は、白い鞄をポイントに捜査を始めた。駅で聞き込みをしていた中島刑事が売店の売り子から、列車が発車したあと白い鞄を持った小柄な男が走っていったという証言を得た。しかも、その男は初めて見る顔ではなく、ホームでよく見かける男だという。刑事たちは、客の代わりに列に並んで席を取るショバ屋と当たりをつけ、男を追った。二手に分かれホームに張っていた杉山刑事が置引きの男に気づき、掴まえた。男は常習犯の忠治と言い、縄張りがあることから事件当夜ホームにいたのは正という男であることが判った。正の居所を聞かれ、友達を売ることはできないと拒んでいた忠治だが、杉山刑事に睨まれ仕方なく正の家のドアをノックした。正は警察の取り調べで、置き引きをしたが、女が死んでいたなんて知らなかったと言う。そして、線路を逃げていく下駄のような足音を聞いたというが…。

 というわけで、実に地道に一つ一つ手掛かりを見つけて当たっていき、新しい証言が出る度に裏を取り、逐次捜査本部で集まって話し合い、少しずつ少しずつ真犯人に近づいていきます。
 途中で同時多発的に捜査が劇的展開したり、容疑者が消されて新たな問題が発生したり、あるいは犯人グループの悪巧みの場に刑事が居合わせたりといった展開の盛り上げ用のミラクルや緩急の付いたアクションは見られません
 それを退屈と言ってしまえばそうなのですが、終始テンポが良くあるいはスピーディーで観客の興をそそるように矢継ぎ早に展開される過剰にドラマ的な現代の刑事ドラマに比べ、テレビ黎明期に於けるコマーシャライズされていない事件ドラマの妙味が詰まっていると考えれば非常に意義深いものです。"ドラマドラマしていない事件""ドラマドラマしていない刑事"とでも評すればいいでしょうか。

犯人を巡る捕物にしても双方動きが洗練されているとは言えずどこか鈍臭い。
今日の商業作品でならそうそうお目に掛かれないであろうそういう画を観られるのが魅力か。

 話の筋としては、ヤクザのしのぎを巡るいざこざ話です。田舎の貧困家庭を救うために出稼ぎで上京してきた若い娘が高級をエサにヤクザに丸め込まれてあれよあれよという間に連れ込み旅館での売春を強要され、監視の目を抜けて田舎に逃げようとしたところを逆上したヤクザ情夫に始末されてしまう。
 ところがその情夫が博打のサイコロ打ちの名手だったゆえに別の下っ端構成員が替え玉で出頭を強要されることからもう一つの悲劇が始まります。集団就職で上京しながら身を持ち崩した彼は自分をついぞ人として認めてくれなかったヤクザ組織ひいては都会に心底絶望し、冒頭の犠牲者の女性と同様に組織に売春を強要されている姉貴分を誘って田舎へ落ち延びようとし、組織の上役たちに狙われる羽目になります。事件は上野駅のホームで始まりましたが、クライマックスでの警察とヤクザの攻防も上野駅構内で展開され、往年の駅の光景は新鮮で、特に鉄道ファンには猶更響くことでしょう。

それぞれの刑事が各々の集めた証拠と自身の推理の擦り合わせ。
強烈な当て込みで捜査する一人に諫める周囲、という構図がドラマ的定番ですが、
集合知を生かした極めて理性的な捜査が展開されます。
画的な映えは無く、むしろ同じようなシーンが繰り返されて退屈ですらありますが、
そこが良いのです。


 ヤクザ側の替え玉工作を警察が察知してたゆえ、若い男女が続けて犠牲になることは防げましたが、その後の取り調べでの女性の受け答えが秀逸です。
 警察側の「何故自首したり警察に相談したりしなかったのか?」との問いに対し、「慣れたらどうでもよくなってきたし、田舎で暮らすよりはいくらかマシかとも思った。」とのこと。
 反社会的な組織が未だ社会の右も左もわからない若者を抱き込んで思考停止状態に追い遣るのは昔も今も変わらずか…となんとも厭な真理を衝かれた思いです。

円谷の特撮ドラマ『怪奇大作戦』(1968)の第16話「かまいたち」。
集団就職で小さな町工場で働きながらも周囲と馴染めない孤独な青年が
真空発生装置を拵えて夜な夜な若い女性をバラバラにする…。
逮捕はされるものの動機がわからないまま物語は幕を閉じますが、
同時代にこうしたドラマが描かれている時点で、社会科の教科書でしか知らない
当時の"金の卵"の若者が一様に明朗快活に日々を送っていたのではないだろうことは分かります。

 そしてキャストについて個人的にオッと思った点として、所轄の刑事役で出演されていた大滝秀治さんです。
 下積み時代が長く、若い頃から老け役が多かったとのことですが、本作でも実年齢30代後半ながら50がらみに見えるベテラン感でした(画像が出て来ないのが残念無念)。
 Wikiによるとなんと"取り調べ中に容疑者にカツ丼を食わせる"というステレオタイプな描写は本シリーズが由来だそうですが、本作でも一課の刑事たちが事件を目撃した風の浮浪者に振舞おうとするのに対して一宿一飯の恩恵に肖ろうとの常習犯だと一括して帰らせます。他にも他の事件の目撃者の前で何度も被害者の倒れた姿を実演確認する中で顔を泥で黒くさせながら「いい加減にしろ!!」と怒る姿など、本作では未だ下積み時代で出演時間も短いながらなかなかの印象を残されています。

後の代表作の一つとなる『特捜最前線』の最初の退場篇の第128話「裸の街Ⅱ・最後の刑事!」。
最愛の夫を殺した理由を黙して語らない妻に対し、
癌の痛みで苦しむ妻と相対する実体験を赤裸々に語る船村刑事の取り調べが胸をうつ…。
どうにかして全話観たいけど東映チャンネル再放送もデアゴスティーニ刊行の気配も無し。(´・ω・`)


Ⅱ. おしまいに

 というわけで今回は往年刑事ドラマシリーズの映画版『七人の刑事 終着駅の女』(1963)について語りました。
 今の目線で言ってしまえば"地味"となってしまいますが、エンタメ要素で粉飾されていないリアルな、それも60年前のリアルな事件と捜査が劇場映画のフォーマットに落とし込まれているという点で観ること自体が大変貴重な映像体験だと思います。

華が無い・・・・・・と一言で切って捨てるのはあまりに無粋ですが、なんとも朴訥。
今ならスポンサー受け云々どころかそれ以前に製作側が自前で待ったを掛けそうな気がします。
それゆえのリアル。嗚呼リアル。

 なんとも煮詰まってきた感が半端無いので今回はこのあたりで。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。



・・・からのエアリアル。(゜Д゜)


 
 
 

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O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)
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