【名作迷作ザックザク⑱】祝!日本初上映! 生きることがただただ下手くそな女性が受け身に過ごす無味乾燥な現実... 無気力・無関心・無感動な根岸季衣さんが無謀・無計画・無思慮な大竹まことさんと行きずりの旅路『WANDA/ワンダ』(1970)が捉えた世界
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(ฅ^・ω・^ ฅ)
"暑い"と言えば、『幽☆遊☆白書』の蔵馬VS海藤の禁句ゲームを思い出す、O次郎です。
今回はリバイバル上映作品の米インディペンデント映画『WANDA/ワンダ』(1970)です。この7月頭から日本初上映という触れ込みでミニシアターに掛かっておりますがようやく観てきた次第です。
出演した映画はさほど多くないもののブロードウェイの舞台でも活躍し、エリア=カザン監督の奥方としても知られる女優さんのバーバラ=ローデンが監督・脚本・主演した野心作です。
60~70年代というと米国でもまだまだ女性の進出は進んでおらず、日本だと田中絹代さんが50~60年代に重鎮監督の成瀬巳喜男さんや溝口健二さんにやいのやいの言われながら何作か監督しつつも思うようにはいかなかったようですが、本作はバーバラ=ローデンの半自伝的な映画として彼女の十全なコントロール下にあったようで、映画的でヒロイックな演出を一切排した空疎な人物と乾いた世界が終始一貫して展開されています。
一風変わったインディペンデント系映画がお好きな方々、ちょっくら読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・・・・”ショットガン!!!”
Ⅰ. 作品概要
※日本語版ページは情報が薄いので以下に英語版のリンクも貼っています。
※翻訳等でご参照ください。
話の筋からすると、「仕事を解雇され、求められるまま夫と離婚して子どもも引き取ってもらい、行く当ても無く彷徨う中で出会った強盗の男性と旅をする中で彼が企てる銀行強盗に巻き込まれていく」ということで、通常であれば犯罪が次第にエスカレートしていって破滅していく様をヒロイックに刹那的に描くクライムドラマを想像しますが、残念ながらというか幸いというかそうはなりません。
一応は銀行強盗が物語のクライマックスに来てはいますが、それはあくまでその時点で彼女が関わっていた男性デニスの企てへの協力を乞われたからであり、冒頭で住む場所が無いから妹夫婦の世話になったり、夫に請われたから離婚して子どもを渡したり、行く当てが無いから強盗のデニスに同行したりと、その場その場の行き当たりばったりの受動的な行動の経過でしかありません。
本作の主人公であるワンダは、一応は美人ではあるものの常に眉間に皺が寄っていて自然と不幸を招き寄せ、若くは無いものの(当時演じるバーバラは30代後半)言動に幼さが目立ち、何事に於いても意志薄弱で意欲の無さゆえに他人に邪険にされたり体良く利用されてしまいます。幸せになろうという意欲が空回りする破滅型の女性とは丁度コントラストを為すような、不幸を回避するだけのバイタリティーの無い女性です。
勤めていた縫製工場は"上達せず、縫うのが遅過ぎる"と解雇され、その日その日の食事にも事欠いて近所のおじさんに小銭を借り、日中眠たくなって勢い入った映画館で寝入った隙に所持金をスられてしまう…。言うなれば道徳の授業でいうところの"生きる力"に乏しい、積極的に他者と関わり、自らの意志で働き掛けるのが難しく、またその必要性を認識出来ない人物のようです。
最後までその調子が淡々と続くのですが、ひとえに彼女を諭し導くアドバイザー、親御さんや教師、友人すらも居ないことが彼女の最大の不幸でしょう。
で、再婚相手を見つけて人生をやり直そうとしている夫との離婚裁判を消化試合のようにサッサと済ませ、行きずりの関係の男性からも置いてきぼりにされ、一文無しの状態で立ち寄った深夜の閉店間際のバーでいよいよというほどもなく出会うのが、バーテンを襲って気絶させてレジの金をせしめていた小悪党のノーマン=デニスです。
そのまま彼が泊まるモーテルに身を寄せて関係を結びつつ、行く当てが無いゆえに彼の旅路に着いていきますが、このデニス氏(作中ワンダはずっと”ミスターデニス”と呼んでるぐらいの距離感)の小物ぶりがせせっこましくてこの作品世界を絶妙に侘びしく彩っています。
ダンディーに見えなくもない風貌ながら普通に中年ながらのダルンとした体型、道中で年老いた父親に会いに行くも渡そうとした小遣いをコソ泥で得た汚い金と喝破され、かつての強盗仲間は加齢と我が子の世間体のために足を洗っていて荷担をあっさり断られ、嫌がるワンダを強引に協力させた銀行強盗は事前調査がガバガバで脅迫の凄みも薄く容易く警察への通報を許してしまい、敢え無く包囲されて呆気なく射殺・・・。
本物の自信が無いゆえに虚勢を張り、機転と融通が絶望的に効かないがゆえにちょっとしたハプニングですぐにパニックに陥る、というめちゃくちゃ厭なリアリティー溢れる愚か者ぶりです。
そこでどうにも思い出しちゃったのがオーストリアのクライムホラー映画『アングスト/不安』(1983)です。
母親に虐待されて育ったことから特異な性癖と慢性的な殺人衝動を抱えるシリアルキラーが保釈中に瞬く間に何人も殺して憐れムショに逆戻り、という話ですが、"相手の目に映る恐怖心が見たい"という欲求をやたら高邁な思想に盛り立てて脳内でモノローグで語るものの、いざ忍び込んだ家の住人が自分の思い通りの反応を示さないことに癇癪を起こして衝動的に殺すことを繰り返し、その遺体を自分の理想の見立てのために引きずり回します。
強盗と殺人という相違はあれど、行き当たりばったりに稚気を喚き散らすお粗末な犯罪という意味では非常に似通っています。
監督であるバーバラが本作の思想性は明確に否定しているようですが、男性に従順というよりもむしろ無抵抗・無思慮ですらある主人公の言動がたしかに逆説的に規制規範への批判のように見えなくもありません。
デニスが死んだことで居場所を失ったワンダはヒッチハイクの末、僻地のロードハウスの酒席の中でプッツリと物語を終わらせますが、その直前のヒッチハイクの過程で彼女に乱暴する男性を拒絶して逃げ出す行動に出ています。
その末に見せていた彼女の涙が芽生えた彼女の自意識であり、能動的な生きる意志だと信じたいところですが、それすらもそうとでも考えないとやり切れない傍観者ゆえのお仕着せに過ぎないかもしれず、当初の観客のモヤモヤをモヤモヤのままに、物語的な主人公の成長を描かないままに、純文学的な味わいを残してエンドロールが淡々と流れていきます。
Ⅱ. まとめ
というわけで今回は米インディペンデント映画『WANDA/ワンダ』について語りました。
本作は主演のバーバラ=ローデンと助演のマイケル=ヒギンズ以外は本職の俳優ではなく、さらにはその二人の演技はそのほとんどが即興だったとのことですが、そこでもう一本思い出したのが"カツシン"こと勝新太郎さん監督・主演の刑事ドラマ『警視-K』です。
一般視聴者からは散々な評価を下されたうえに製作費高騰や撮影遅延で打ち切られたそうですが、一方で"日本のヌーヴェルヴァーグ"との評価も得たとのことのようで。
物語フォーマットを取っているからといってそれがそのまま物語然とした物語であるとは限らない、という突き放しの快感というかなんというか。
また、同じく主演女優が監督も務め、同じく受動的に人生をやり過ごしてきた女性についての『モースト・ビューティフル・アイランド』という映画がありましたが、そのラストの荒涼感・虚無感はやはり得も言われぬものが有ります。
他にもおススメのインディペンデント系作品がございましたらお気軽にコメントいただければ大変ありがたいです。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
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