【名作迷作ザックザク⑳】~"初4Kリマスター放送"その4~ 純朴な農村青年を皇軍飛行士へ錬成する国策映画は"フルメタルジャケット"どころか"トップガン"ばりの青春譚?! 『ハワイ・マレー沖海戦』(1942)の描く"戦時下での青春"
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。⊂(・ω・*)∩
終戦記念日の近いこの時期、昨深夜に「お祖父ちゃん…!」と寝言を言いながら目を覚ました自覚のある、O次郎です。
この5月から『シン・ウルトラマン』の公開を記念してということで、CSの日本映画専門チャンネルで円谷特撮映画が4か月連続リマスター放送されてます。
5月は『モスラ(1961)』、6月は『フランケンシュタイン対地底怪獣(1965)』、7月は『マタンゴ(1963)』と来て、今回は『ハワイ・マレー沖海戦(1942)』です。
※先月までの放送の3作品の記事は以下の通りです。よかったらついでに読んでちょ。
戦争映画、それも第二次大戦とその前後期を扱った作品は日本にとって当事者だった直近の戦争ということで題材としてあまりにもドラスティックで、旬の俳優さんや重鎮監督、銃後の物語といういわばクッションが無いとなかなかしんどいものが有るのでそのど真ん中な作品を観る際には相応の覚悟を持って、という個人的前提がございますゆえ、本作は存在そのものは知っていながらもなんだかんだで通らずに今回が初鑑賞でございます。
戦中当時の海軍省主導の国策映画、ということで皇国史観を背景とした銃前銃後のあらゆる面での戦争全肯定と強烈な精神論を事前に覚悟し、実際相当程度それは有るのですが、一人の飛行機に憧れる農村青年の自己実現とそれに伴う苦悩を描く青春映画の色合いも強く、終盤のミニチュア特撮の爆撃と航空機の迫力も戦後特撮へ繋がる片鱗を感じ、そのあたりの自分なりの見解を書いてみようと思います。
特に本作未見で翼賛映画ゆえに敬遠されている方々に本作品がどんな印象か探りがてら読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・ワールド・アット・ウォー!!
Ⅰ. 作品概要と現代にも響く細部の凄さ
今回全編通して視聴してみてまず感心したのが、今の時代でもそれと解るような青春映画としての確固とした外殻を持っている点です。
具体的に挙げれば、
〇家族とともに主人公の青年が農作業に精を出すある夏の日、近所の海軍兵学校生の年長の幼馴染みが夏季休暇で帰郷。その落ち着いた佇まいと秘めたる丹力に憧れを抱く。
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〇再会を喜ぶ二人。意を決して幼少からの飛行機好きが高じての海軍入りの夢を打ち明ける主人公に対し、飛び込みでその覚悟のほどを試す先輩と、それをクリアして母親への海軍入り口添えをしてもらう主人公。
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〇晴れての海軍兵学校での訓練生活。威厳たっぷりの予科練分隊長に、自分と出自を同じくする立身出世と尽忠報国を夢見る若武者たち。厳しいながらも日々の上達を実感する訓練と、仲間たちとの僅かながらも楽しい余暇。
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〇月日は流れて許可された夏季休暇期間。壮健に成長した主人公の姿を頼もしく見る家族がご馳走で温かく迎える。また同じく休暇で帰省しながら、これが根性の別れになるかもしれぬと胸を熱くする先輩と主人公の友情。
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いよいよ始まる実機訓練と不意に訪れた実戦の機会。
その訓練中に命を落とした仲間の無念も背負い、視界不良の中飛び立った主人公の渾身の急降下爆撃が炸裂。さらには連携の行き届いた波状攻撃で米軍真珠湾基地に壊滅的打撃を与える大戦果。
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最後は、別部隊の仏印基地から発進した攻撃機が戦艦プリンス・オブ・ウェールズを撃沈し、大本営が戦果を発表してさらなる激戦への覚悟を奨励しての幕引き。
という具合です。
特に主人公義一と同郷の先輩立花との邂逅のシーンは作中時間を経つつ二度繰り返されて丁寧に描かれており、お互いの健闘を称えて互いの高みを目指す姿はまさに夏空のように爽やかです。
一方で非常に明るく健全過ぎる軍隊生活が描かれており、戦後の作品で見られるような、単なる位階のみならず人間性まで縛り付ける理不尽な縦社会や陰惨な私的制裁は一切描かれていません。
しかしながら海軍省が国威発揚と志願者募集のために製作した映画、ということなのでそうした暗部を隠すのは当時であればなおさら已む無し、という気もしますし、たしかこの前々年公開の同じ海軍を扱った『海軍爆撃隊』ではその実際の過酷な環境の描写ゆえに志願者が減ってしまったことで本作で巻き返しを、という思惑があったという言説を読んだこともあります。
そして全体としては戦争肯定の内容ながらも、その細部に於いては隠しようのない戦争のもたらす不条理もきっちり顕れているのが、本作が戦後に於いても幾度も再公開の機会を得たりソフト化されて愛されている一つの由縁でしょう。
主人公についてはその大前提としては"飛行機好き"であり、そこにまずもってのアイデンティティーが有ります。先輩に「ぜひとも飛行機乗りに、それが無理なら整備士でも、戦闘機の部品工場でも、飛行機に携われる仕事ならなんでもやりたいと思います」という覚悟を示していますが、それは当時として飛行機に携わるなら軍しかない、という現実に巻き込まれる形での志願とも言えるでしょう。
また、主人公義一や先輩立花の母親たち(主人公の母親を演じるのは"日本初の本格的映画女優"の英百合子さん)は帰省の際に逞しくなっている我が子を頼もしく思うものの、「軍に入った時点で自分の子ではないと思っている」という決意を示すその表情の苦悩は隠しようもありません。
そしていよいよ実機訓練と真珠湾攻撃のシークエンスがクライマックスに来ますが、実物大の艦橋セットと実機での発艦は今見ても大迫力です。
真珠湾の模型も実に見事で、後年GHQに実際の記録映像だと信じ込まれたというハワイ山間部での編隊飛行はモノクロ映像であることがより臨場感を高めており、さらには急降下爆撃のキリモミ描写はさながら必殺技の如きヒロイズムを生み出しています。
全てが美化されているのは間違いないものの、それだけに戦中当時の理想が当時の技術と俳優の粋を集めて形にされた結晶のような趣があり、あらゆる現世の艱難辛苦に耐えて最後の最後に大立ち回りを演じて華と消えていく戦後の任侠映画はこの延長線上に有る、と言えるのかもしれません。
Ⅱ. おしまいに
本作の公開は1942年12月3日ですが、公開の同月に主演の伊藤薫さんが実際に兵役召集され、その翌月に戦死されているというのが現実との地続きを否が応にも感じさせます。
美男、美女が揃う当時の銀幕俳優の中に在って垢抜けない風貌であったとのことですが、なればこそ上述の先輩(東大卒の"学士俳優第一号"の中村彰さん)との郷里での邂逅シーンは好コントラストにして名シーンになっていたと思います。
その中村彰さんも出演されている戦中末期の『加藤隼戦闘隊』(1944)がこのお盆時期に同じくCSでリマスター放送予定とのことで、そちらもチェックしてみる所存です。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。