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【テレビっ子アゲイン⑤】現実のシリアルキラーのあまりにも侘びしい生活ぶりに胸が詰まる... 月曜ワイド劇場『深川通り魔殺人事件』(1983)

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(Ο-Ο―)
 小学生の頃のとある夏、クラスの男の子が自宅の裏山で見つけたウシガエルを大きい虫かごに入れて学校に連れて来て、教室のベランダでみんなで飼うことになったのですが、誰もが夏休み中の世話を念頭に入れておらず休み明けに・・・・・・・O次郎です。

当時実家に有ったけろっぴのぬいぐるみ見るだけでビクッとしたり…

  今回は映画ではなくテレビの話。その昔テレ朝で放映された二時間ドラマ『深川通り魔殺人事件』(1983)です月曜ワイド劇場の枠で放送された単発作品であります。
 当方、伊丹十三監督作品がわりかし苦手で、特にあの巨悪がのさばったまま終幕を迎えるフラストレーションと、胸が悪くなるような露悪的なセックスシーンがなんとも厭で厭で、名匠であることはわかりつつもどこか避けてきたような思いが有ります。唯一公開当時から好きなのはそうした要素が極力抑えられて陽性のコメディー感に溢れた『スーパーの女です。
 といいつつひょんなことから近々『マルサの女』を観る機会が有り、やっぱり監督のあの赤裸々なテイストに胃もたれしたものの名作には違いなく、マルサの華の無いオジサンオジサンしたおじさんたちの中でもとりわけ人情味を感じたのが大地康雄さんです。

あらためて勢ぞろい見ても華が無い…。
というか、海外から見た当時の日本人のステレオタイプな見た目をそのまま再現したような。

 そこで気になって調べたところ、伊丹監督が彼の登用の切っ掛けとして挙げたのが今から40年ほど前に放映された本作であり、どうせなら映画よりテレビ作品語ったほうが希少価値があるかなと書き始めた次第です。
 リアルタイムの放送時は僕は未だ生まれていませんでしたが、聞くところによると本作での大地さんの鬼気迫る演技を目の当たりにした当時の子どもたちには相当のトラウマになったとかなんとか…。
 コンプライアンスの厳しい今日においては本作のように実在の凶悪事件をドラマ化するパターンはめっぽう減ったように思いますが、その是非はともかくとして、あくまで一本のドラマとして観た自分なりの感想でございます。
 それでは・・・・・・・・・・・・けろりーぬ!!


そういえば『マルサの女』のファミコンゲームもリリースされてたんでしたね。
伊丹監督はコレと、その数か月後に同じくファミコンでリリースされた『スウィートホーム』も
プロデュースされてるのでマルサというかマルチというか・・・。しかも出来の評判も悪くなく。


Ⅰ. 作品トーンについて思うところをいろいろと

 全編通して言えることですが、とにかく大地さん演じる犯人の容量の悪さと無計画ぶりから少しずつ少しずつ道を踏み外していく現実との地続き感がリアルで、ヒロイックさが微塵も無いところは徹底しています。

家計に余裕が無いことを気遣って中学を出てすぐに上京して寿司屋で住み込みの仕事。
口下手ゆえにクレームを受け、先輩からは八つ当たりされ、
休日は上手いリフレッシュの仕方がわからない・・・。
当時の"金の卵"の相当程度の割合の人たちが抱えていたであろう鬱屈と失望のリアルさよ。

 また、休日にチンピラに絡まれた先輩(微妙に若い小林稔侍さん)が刺青を入れていたことから不良が慄いて退散した一部始終を見て憧れ、自分も両腕に墨を入れてしまいます。元々の腕っぷしや胆力が無いため、即物的な畏怖の象徴のアイテムでそれを補おうとするところがあまりにも卑小で暗澹たる思いにさせられます。

”俺に向かって言ってるのか?”ってね。( ,,・ิω・ิ,, )

 しかしながら張り子の虎というかなんというか、当然ながら中身はそのままで、実家に戻った際に父親に叱責されて思わず家から飛び出したり、自分が入れあげている場末のスナックのホステスの情婦に凄まれて逃げ回ったりと、ビッグマウスぶりとチキンぶりが同居しているのが悲しいかな…というところで。

高倉健さんの任侠映画に憧れてサムライを気取る、という稚気溢れる描写。
子どもがブルース=リージャッキー=チェンに憧れてカンフーごっこしたようなもんか。

 で、こういう実録路線の作品だとまず重要視されるのが犯人が最初に犯罪に手を染めるくだりとそこに至る心理描写ですが、直接的な描写はばっさりカットされています。そのへんは当時としてもお茶の間で流れるテレビ番組だからという抑制が働いたのかもしれません。
 しかしながら罪状がテロップで流れつつ主人公が捕まるストップモーションの中、男性のハミングがBGMとして流れる演出は最高に不気味でユニークでした。主人公はだんだんと抑制が効かなくなって犯罪の中身をエスカレートさせていきますが、その度にこの演出が為されて不気味さが相乗されます。

これで19歳のビジュアルかよ?!
という驚きですが、実際の犯人も老け込みが早かったようで。

※ハミングの不気味さでいうとまさにこんな感じです…。
 ちなみにこのCMなんや?という方はこちらのwikiページをどうぞ。

 上述の場末のスナックで彼をいいカモだとにらんだ男にシャブを売りつけられ、実家の金に手を出したり幻覚を見るまでになっていくわけですが、実際の犯人は薬で妄想を発症したかそれとも元々の被害妄想が薬で強化されたかは定かではないようで、本作でもそのあたりは敢えて曖昧にされています。

※CMついでにこちらも。こういうのは雑な内容の方が却って怖いですよね…。

 そして仕事の不採用が続いてついに自分より非力な女子どもを連続殺傷する凶行へと至るわけですが、それについても被害者感情に配慮してか、モノローグで済ませ、警察内部での現場検証に淡々と応じる主人公の様子を描き、通り魔の狂気が類稀な人間のものではなく姿勢に生きる人々の煩悶の延長線上から生まれるものであること、そしてそれゆえに対岸の火事ではないことを警告して物語は淡々と幕を閉じます。
 最後になりましたが、ナレーションを担当した江守徹さんの落ち着いた語り口が淡々としながらも染み入り、過剰な演出はせずに現実の延長線上の物語として本作を描く製作側の意図に見事に合致していました。

逮捕時に話題になったというブリーフ姿は一応中盤に出てきます。
あらためてヒロイックさ度外視だな・・・。



Ⅱ. おしまいに

 というわけで今回は懐かしの「月曜ワイド劇場」枠の『深川通り魔殺人事件』(1983)でした。
 実在の事件のモキュメンタリーという題材も現在では稀有ながら、山場を作るためにハッタリの利いた演出が盛り込まれた映画表現を見慣れた身としてはこの徹底したフラットな演出はクセになるものが有り、テレビドラマゆえのアドバンテージかなとも思いました。
 監督の千野皓司さんはテレビドラマ作品が圧倒的に多いようで、Wikiを見る限りCS録画のHDDの中に埋もれている作品名も見掛けたので、またぞろ観てみなくてはというところです。

 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




サガットのステージの後ろの仏像のポーズ。


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O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)
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