【配信を拝診⑭】罵倒されて仕事を覚えた人は自分が教える際にも罵倒する... 暴言とクスリと酒に塗れた厨房は"普通"なのか? 会社経営にも通ずるDisney+独占配信ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』の人間模様
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(*´・∀・*)
今日が『スプラトゥーン3』の発売日らしいけどそういえばシリーズ全くプレイしたことない、O次郎です。
今回は先月末からDisney+で独占配信開始となった海外ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』です。
先日のTBSラジオ『たまむすび』内の「アメリカ流れ者」コーナーにて町山智浩さんが紹介されており、さっそく配信中のシーズン1(全8話)を鑑賞してみた次第です。
高級レストランを訳有って辞めた若きシェフが亡き兄の残した破綻寸前のサンドイッチ店を立て直そうとするが、多額の借金や建物の老朽化、さらには新旧スタッフの深刻な軋轢等の問題が山積なうえにシェフ自身も爆弾を抱えており・・・。
あらすじを見るだけでも胃がキリキリしそうですが、全体としてはコメディータッチです。元から複数シーズン前提での制作予定だったからか、今回のシーズン1ではほぼ何も解決せずに終わってしまっており、そういう意味での爽快感は無いのですが、そもそも現実であればそんなに簡単に解決する問題ではなく、"作中であまりにも次から次へと矢継ぎ早に起きるトラブルの数々に笑うしかない”というのが本作の正しい鑑賞法のように思います。
ただ一方で特に主人公が抱えている問題は料理業界の根本的な体質と思しき側面があり、店のスタッフ間の不和はまさしくオフィスの人間関係そのものであり、見方によっては経営譚としても楽しめそうです。
一風変わったグルメドラマやブラックコメディー好きな方々、読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・・・・・・できらぁっ!!!
※そして昔、"9GOATS BLACK OUT"ってバンドが好きだったんですが、もし未だ彼らが活動してたら9/9の今日はきっとワンマンライブなり催してただろうな、っていう。
Ⅰ. 作品概要
※日本語版ページが存在しないため、翻訳等でご覧ください。
冒頭、主人公の若きシェフのカーミーが悪夢から目覚めて厨房で倒れ込むように寝ていた姿から始まります。なかなかのワーカーホリックぶりを感じますが、真面目な料理人ほどそうなってしまうのかもしれません。
以前、会社の上司に近所の小さなラーメン屋に連れて行ってもらったことがあり、非常に美味しかったのですがその営業スタイルを知って唖然。店舗は十坪ぐらいのカウンター席のみのラーメン屋で30代の独立したての若き大将と数名のバイトで回していましたが、大将がメニューも麺も試行錯誤の最中ゆえに出来が気に入らなければその日の営業は無し。営業時間外はバックの製麺機の脇に寝袋を敷いて即応態勢のうえ、寸胴のスープをかき混ぜすぎて腕を疲労骨折…。聞いてるだけでゾッとしました。(´・ω・`)
おそらく、材料費や人件費といったところではコストという定量的な部分なので妥協の余地が有るのでしょうが、クオリティーにプライドのある方ほど"手間"それも自分の手間を度外視して追い込んでいってしまうのだと思います。
その一方で、かつて勤めていたニューヨークの高級レストランでは上司から人格否定的な罵倒を常日頃から受けていたようです。それが彼の腕を磨いた面も無くは無いでしょうが、その後にたびたび夢で魘されたり、何より兄から受け継いだサンドイッチ店でのスタッフへの振る舞いにその長年のストレスが顕れてしまっています。
それが悪しき習慣であることは彼自身が身に染みて解っており、普段は冷静にスタッフと相対していますが、事態が切迫して追い込まれると途端に態度も言葉も粗暴になります。人間、追い込まれると本性が顕れる、とはよく言いますが、負の感情は下へ下へ、立場の弱い者へ向かってしまいます。
物語終盤に主人公が起こしたボヤをただ茫然と見つめてしまうシーンがありましたが、過去勤めていた高級レストランでボヤを起こした際にも、"このまま店が燃えてしまえば苦痛から解放される…"という考えがよぎるほど追い詰められていたのでした。
ボヤの件はさて置き、他人への罵倒や口の悪さは店のスタッフにも共通するところがあり、飲食業界そのものが抱える闇であることが暗に示唆されてもいます。
そして主人公は実はアルコール依存症を抱えていてセラピーにも通っており、加えて不安障害の薬を常用したりと、慢性的な症状を抱えていることも明らかになってきます。
彼が敬愛していた兄のマイケルにしても拳銃自殺という衝撃的な最期を迎えており、その背景にやはり飲食店経営や借金の苦しさがあったことは明らかです。
彼らの場合は主たる債権者が叔父であるのでまだその責めは同情的ですが、本質的な徒弟制度を由縁とするパワハラ体質とそれが連綿と受け継がれてしまう体質ゆえの依存症の温床化という業界の闇がとにかく深いものであることが本作を観るとよくよく伝わってきます。
現実で転職活動をする際に"専門性の強い職場はよほどの覚悟が無い場合は避けるべき"みたいな話が良く出ますが、まさにその一例でしょうか。
作中で描かれている料理人の過酷さとそこから来る病について言及しましたが、以下は主人公を取り巻く作中の登場人物たちについてです。
Ⅱ. サンドイッチ店の、クセが凄すぎるしかし現実に厳然として存在するリアリティー溢れる"シェフ"たち
・リチャード(レジ担当) - 演 : エボン・モス・バッハラック
・シドニー(副店長) - 演 : アヨ=エデビリ
・マーカス(パン/ケーキ担当) - 演 : ライオネル・ボイス
・ティナ(その他料理担当) - 演 : リザ・コロン=ザヤス
というわけで老若男女さまざまな事情を抱えたスタッフが居り、まさに会社組織の縮図のようです。
現状の問題点を挙げることは実は容易ゆえに新入社員からでも指摘出来るが、今現在の状況は一朝一夕の産物ではなくそれなりの事情ゆえの体制であり、劇的に変えようとすると必ず古参スタッフの反感や予期せぬデメリットが噴出する危険があり、かといって現行体制を看過していたがゆえに今のままでも次々とトラブルが発生して改革どころではなくなってしまう…。
一個一個の要素を考えるとまさしく老舗企業が等しく抱えているであろう問題であり、それゆえに本シーズンでまるで好転の気配が見えなかったのも非常にリアルかなとも思えてしまいました。
しかしながら一貫して言えるのはお互いにリスペクトし合うことが何よりも肝要であり、どんなに苦しい時でも、むしろ苦しい時こそ何が何でも互いの敬意を遵守することでしょう。
作中では新メニューや新ルールの導入による混乱や設備の不具合、相互連絡の不徹底や優先順位の不共有といった実に様々なトラブルが発生しており、それらが演出としては面白おかしく展開されていましたが、元を質せば全ては信頼関係に行き着くということを言外に訴えているのは流石だと思いました。
Ⅲ. おしまいに
というわけで今回はDisney+独占配信の海外ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』について書いてみました。
日本でも名前をよく耳にするようなスター俳優は出演されていませんが、それだけにストーリーとキャラクターに集中でき、専門職の宿命的な闇と会社組織の人間関係の普遍的な難しさを感じつつ、表ではトラブルの連続をコメディーとして割り切って楽しめる良作だと思います。
本家アメリカでは既に7月にシーズン2が配信開始されたそうですが、あの問題山積でクセが強すぎる面々がほんの僅かでも希望の一歩を踏み出せたか、日本での配信開始が待ち遠しいところです。
他にも皆々さまのおススメの配信ドラマございましたらコメントいただければ恐悦至極にございまする。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
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