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[VHS発掘②]40年前からの反戦メッセージ... 米ソ核戦争の渦中の世界を描いて物議を醸した大作アニメ映画『FUTURE WAR 198X年』

 結論から言おう・・・・・・こんにちは!!( ゚Д゚)
 実家に居た頃、父親が『サザエさん』は大好きだったのに『ちびまる子ちゃん』は毛嫌いしていたバランス感覚が未だに理解できない、O次郎です。

『サザエさん』といえばワカメちゃんのクラスメイトでMrサイコパスの堀川くん。
壁のシミを弟に見立てて疑似キャッチボールしたり、
ひよこを「ワカメ」と名付けてその産んだ卵を当人に食べさせようとしたり、
家人の誰にも内緒で磯野家の軒下でオタマジャクシを飼おうとしたエピソードは知ってましたが、
カツオくんへの電話での「お兄さんと僕は赤い糸で結ばれている」発言や、
自室に浪平さんの写真を飾っているエピソードは最近になって知りました。
彼の不穏エピソードだけ観たいけど普通にリアタイ視聴してて偶然遭遇するのが楽しいんだろう。

 今回は、VHSでだけ観られる傑作映画の発掘企画「VHSだけ見つめてる」の第二弾、『FUTURE WAR 198X年』をご紹介しましょう。
 『渚にて』、『未知への飛行』、『ザ・デイ・アフター』、『ウォー・ゲーム』、『ターミネーター2』等々、多感な時期に核戦争の恐怖を描いた映画に衝撃を受けた方、知る人ぞ知る一昔前のカルトアニメ作品に興味のある方、トップ画像の懐かしいキャラデザにオッと思った方、どうぞご覧ください。
 文末に視聴方法も書いてますので、自分で観たいネタバレ許さんぜよな方はそちらのリンクまで。


Ⅰ. どんな作品?

https://ja.wikipedia.org/wiki/FUTURE_WAR_198X%E5%B9%B4

 日本の作品なので当然ながら日本は出てきますが、それ以外のアジア地域は中国の名が出てくるぐらいでその他の国は触れられておらず、もっぱら米ソ首脳部の暗闘にNATO軍およびワルシャワ機構軍が絡んだパワーゲームに舵を切っています。
 個人の描写については主人公とアメリカ人女性の技術者カップル、およびNATO軍兵士とドイツ人少女との悲恋のみにほぼ集約されており、尺の問題は有るにせよ描写についてかなり大胆な取捨選択が為されています。
 すなわち、架空の有人戦闘レーザー衛星”スペース・レンジャー”の登場によるICBM弾頭の無力化の実現によって逆にタガが外れていく東西の大国の首脳陣の苦悩と、実在する陸海空の兵器による戦闘シーンが本作の肝です。
 労働組合や有志団体のボイコットや反対の声を受けてシナリオが修正されていった、とのことですが、もしDVD以降のフォーマットでのリリースが有れば特典映像やブックレットの形でその変遷の経緯が語られることもあったかと思いますが、冷戦時代当時としてもセンシティブな内容であり、現在では違う形をとってのさらに待った無しの状況なので難しいでしょう。



Ⅱ. キャラデザとキャストと


・イメージイラスト - 生頼範義(おおらいのりよし)

 特徴的なアクの強いデフォルメ画は一目で彼の作品と判別出来ますね。

一番知名度の高い仕事といえばコレでしょうか。
ジョージ=ルーカスのお墨付きのうえで国際版ポスターになったとか。
西洋人の堀の深い顔立ちにはこの画風がすごく映えてると思うんですが・・・
僕としての生頼さんのデザインのファーストインプレッションはコレです!
インパクトは抜群なんだけど、中の挿絵も含めて日本人の顔にしては
パンチが強すぎてキャラクターのイメージがし辛かったのもまた事実…。
高校時代に古本で20冊全部集めましたが、
結局マイルドな絵柄になった集英社文庫版で買い直しました。
調べてみたら、過去には大友克洋さんデザイン版も刊行されていたようで。


・主演 - 北大路欣也(三雲渡)

 普段の俳優としての演技の時の声とまんま同じイメージで、その無骨さゆえに序盤のディスコのシーンなんかではちょっと笑ってしまったりしましたが、本職の声優さんとの絡みに違和感無し。
 ていうか、何度か観返して主人公なのにかなりセリフが少ないのに気づいて驚いた次第。

本作と同年の1982年の出演映画がコレと、怪作として名高い『幻の湖』でした…。
自分としては90年スタートのTVシリーズの『銭形平次』のイメージが強いですね。


・ヒロイン - 夏目雅子(ローラ=ゲイン)

 序盤は主人公とぶつかりつつも兄の死をともに乗り越えて愛を育むものの、中盤で崩壊する世界秩序の中での己の身の処し方を巡って袂を分かつ。
当時人気絶頂ということでの大抜擢でしょうが、国家指導者間の暗闘の中で”銃後を守る”的なステレオタイプなヒロイン感が強く、記号的なのがいささか勿体無かったのではないかと思います。

なんと、彼女の代表作が同じ82年公開でした。
同年の戦争大作映画『大日本帝国』にも出演。
個人的に芸人の椿鬼奴さんが彼女に似ている気がするのですが誰も共感してくれません。


 


Ⅲ. 今だからこそ印象的なあれこれ

・序盤のディスコでの何気ない口論

数年前、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の4K復刻上映を観た際にも、
「高品質なものはみんな日本製だよ」というマーティーのセリフに
思わず失笑してしまいました…。

 ローラ「自動車、コンピューター、テレビジョン、それにディスコ、ダンスまで。アメリカのお株、みんな盗ってしまうつもりなの? いまにミサイルや宇宙兵器まで…。」
 渡「君はやっぱり典型的なアメリカ人だ。アメリカ人はリベラルで親切で素晴らしい国民だ。しかし、常に世界のナンバーワンでなければ我慢しない。手を差し伸べながら、相手に一歩下がることを要求する。アメリカが滅びるときがあるとすれば、その独り善がりが原因だろうね。」

 バブル期に入ろうとする当時の日本への米国の警戒感を端的に表した一説ですね。その後、”プラザ合意”という形で一歩下がりつつそこからバブル崩壊を経ての長期経済低迷でどれだけ後退したかを考えると、なんとも皮肉なわけで。


・”スペース・レンジャー”計画責任者を拉致したソ連の原潜を、米国が機密保持のために核魚雷で撃沈した件への対応について会議するクレムリン

米国側は国務長官、ソ連側は国防相がそれぞれ主戦派として国家元首を煽る。

 クツーゾフ第一副首相『(開戦を主張する)ブガーリン国防相の考えはあまりに危険です。手を打ちましょう。』
 オルロフ書記長『ブガーリンの開戦論は間違っていない。食料にせよ石油にせよ、既に我々は略奪でもやらなければならないところまできている。我が国の自然条件はあまりにも厳しく、友邦諸国はあまりにも貧しすぎるのだ。』

 開戦に逸る閣僚をいったんは諫める書記長ですが、側近にその苦しい胸の内を明かします。”資源が乏しいがゆえに版図を拡げ、それがゆえに余計に確保すべき資源要件が厳しくなる”という拡大政策の根源的な矛盾が端的に評されているように思います。

・ソ連原潜内での将校とウクライナ人兵士との会話

物語のクライマックスで平和の祈りを捧げて更新する群衆の中に
彼の妻子の姿が描かれ、このシーンがその伏線になっています。

 ウクライナ人兵士『少佐殿、アメリカと核戦争になったらウクライナもやられるんでしょうか? キエフには妻と子どもが居ます。もう帰国予定が一ヶ月も延びているのですが…。』
 将校『その奥さんや子どもたちを我々が守る。』

 あまりにタイムリーな描写で、本作を観直していて思わず絶句してしまいました。今の状況が無ければ、当時の東側陣営の力関係の描写としてしか捉えらなかったはずです。

・各国主要都市が核で消滅し、世界的厭戦ムードの中で主戦派が拘束されるシーン

初代ガンダムのギレン総帥の「せっかく減った人口です。」
というくだりを彷彿とさせるセリフです。

 ブガーリン「アメリカは完全に戦意を喪失している。あと三十分で我々は国土を三倍に広げる。地球上の人間は半数に減る。その結果、エネルギーも食料もバランスが取れ、人類は第二の繁栄期に入る。」

 人と資源を各国のパワーバランスの要件としてしか見ていないことが一目瞭然の恐ろしい言説。人と資源が根絶やしにされて汚染された土地を”国土”と呼べるのでしょうか。



Ⅳ. 総括すると?

 本作の最大の肝が、核を保有する大国同士の核兵器の応酬ですが、それがゆえに”開戦の一撃”、つまりは米国による最初の核魚雷発射があまりに浅慮で性急過ぎたように思います。
 また、相当にデリケートな部分とはいえ、各国首脳部が爆心地の放射能汚染による不毛化をほぼほぼ斟酌せずに応戦に終始していたのも飛躍が過ぎるように感じました。
 ともあれ、そうした現実との符合と矛盾を自分で考える意味でも、本作のメインターゲットとされていた当時の中高生に何かしら訴える力は有ったのではないかと見ます。漫画家の安彦義一さんは本作をして「戦争を真剣に考えるためのフィルムとしてはアニメは不適である」と指摘されたそうですが、実写作品では訴求が難しいターゲット層にこの問題を考えてもらう、という点では少なくとも意義のある作品だったのではないでしょうか。



Ⅴ. 視聴方法

 現在、日本国内ではVHSビデオでしか観られない本作ですが、渋谷のTSUTAYAに在庫があり、首都圏の方はレンタルで観られます。
 
〇場所: 渋谷TSUTAYA
〇料金: 下画像ご参照下さい。 
 ※準新作がセールの時はVHSレンタルも対象になるようです。
 ※VHSデッキレンタルも可
〇その他: VHSデッキの出力は3色ケーブルなので、再生時に
3色ケーブル→HDMIの変換器が必要

※VHSは貴重品ということで全品「準新作」扱いなり。若干お高いけどまぁ、しょうがないか。


 そんなこんなで、よろしければみなさんの知ってるカルト傑作、はたまた駄作なんだけれどもどうにも忘れられない味のあるカルト珍作を教えてください!
それでは・・・どうぞよしなに。
 

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O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)
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