【名作迷作ザックザク㉗】60年代ロンドンの虚飾の中で人知れず生まれた女郎蜘蛛... ジャッロ的な幻想快美感に誘われながらも結末はミステリーで肩透かし?!な映画『ラストナイト・イン・ソーホー』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。( ・ิω・ิ)
幼少期に風邪で学校を休んだ際の一番の記憶はNHK教育の『さわやか三組』、なO次郎です。
※学校休んだ日以外にも小学校低学年の頃は道徳の授業なんかで観ることがあったけど、なんか微妙に後味悪い結末の話もあったよな~、っていう。
学校からの帰り道、一緒に帰ってる友人たちと"それぞれに帰路が分かれて一人になるまで「さわやかさんくみ~~」の輪唱を延々続ける"とかいうアホ丸出しの遊びをしたりしてました。( ゚Д゚)
今回は2021年のイギリス映画『ラストナイト・イン・ソーホー』のお話です。
予告編は度重なる上映延期があったためか劇場で観た覚えが無く、作品全体のけばけばしいサイケデリックな原色の世界観に興味は有って観ようとしていたものの国内では年末公開ということで他にいろいろ観たい作品がバッティングしてしまい結局スルーしてしまっていました。
しかしながら未だに各種映画サイトでトレンド入りしているのを目の当たりにしてこれは押さえておかねばとようやく鑑賞しての個人的感想あれこれです。最新映画ではないにしろ、ネタバレ含みますのでお気を付け下され。
それでは・・・・・・・・・・・・NHK高校講座!!
※時間帯がお昼を過ぎたあたりから番組が高校講座に移行。今現在はタレントさん起用したりして面白く観られるようになってるみたいだけど、昔は大学の先生なんかが延々一人喋りしてる構成ばっかりだったんで試しに観てみても途中で寝落ち・・・( ´・д・)
Ⅰ. 作品概要と物語展開に思うところと
精神的に不安定だった母を早くに亡くした主人公エロイーズは田舎町で祖母に育てられ、念願叶ってロンドンの美容系専門学校に入学し、都会の洗礼を受けながらも懸命に歯を食いしばって生活する。
そんな矢先に彼女は夜毎夢枕で憧れの60年代のロンドンに生きるナイトクラブの美しき歌手へと姿を変え、その目くるめく体験が現実の学校での創作活動に活力を与えたのも束の間、往年の都の裏の顔をまざまざと見せつけられ、その暴力的で下卑た記憶に夢と現実の境界を失っていく・・・というもの。
その悪夢とは具体的には、歌手サンディが恋人となった筈のナイトクラブのエージェントのジャックに店の太客たちとの夜毎の性接待を強要され、挙句はジャックとの口論の末に刃物で殺害されてしまう、というもの。
エロイーズに父親との記憶が無く、ロンドンでの奔放でまんまパリピなルームメイトたちとソリが合わず早々に別の下宿へ移ったことからも明らかなように、強い男性不信・男性嫌悪の意識が根底にあり、それが夢の世界でのサンディとの強烈な同調を引き起こしているうえ、作品全体のトーンにも重なっているようです。
そのあたりはWikiにも参照されている通り、ロマン・ポランスキー監督の『反撥』の影響が強く出ているように思います。
もう一方のインスピレーション元として言及されているニコラス・ローグ監督の『赤い影』はまさしく作中の娘の幻影が着ている毒々しい赤のレインコートが象徴的ですが、本作では中盤のハロウィーンでの原色ファッションや町のネオンとそれを反射する土砂降りの雨にそれを強く感じます。
夢の中のサンディを性の捌け口としてしか見ていないクラブのVIP客の瘴気と何度も刃物でサンディを刺すジャック(そうえいば"切り裂きジャック"ってことでもあるのかな?)の狂態と鮮血のフラッシュバックの連続に、すっかり精神を病んで現実と妄想の区別が付かなくなっていく過程は非常にスピーディーで映像に危険な快美感があり、そのあたりに往年のスラッシャー映画あるいはジャッロ的美学が顕れており、それに祖母ペギーからエロイーズへ継承された60年代のポップスが華を添えています。
このあたりに当時を懐かしむシニア層と当時に憧れる若年層との評価の最大値が重なり、それが巡り巡って本作の評価の絶対値を底上げしていると思われます。
ただそれゆえにラストに向けてのミステリー的帰結には賛否が分かれるところでしょう。
エロイーズが夢の中で同化した60年代のサンディは、実は現代の下宿先のオーナーである老婆ミス・コリンズその人であり、クラブの人気歌手とは名ばかりの娼婦のような生活に耐えかねた若き日の彼女は遂に彼女を手籠めにしようとする男たちを次から次へと刺殺し、女衒さながらの恋人ジャックすらもその手にかけていた、という事実。
ミス・コリンズは自らの手で殺めたケダモノたちの死体を自らの居所に封印し、その漏洩を防ぐべくオーナーとなったわけで、奇妙な第六感とはいえその秘密に気付きそうになったエロイーズを葬ろうとしたもののエロイーズのボーイフレンドのジョンと警察の手でなんとか阻止され、トラウマを克服したエロイーズが自身のショーを成功させてめでたしめでたし…。
往年のスラッシャー映画やミステリー映画としてはこうしたどんでん返し的現実回帰で順当なのですが、序盤から中盤にかけて展開された夢と現実が交錯するパラノイア映画としては残念無念な結末であり、個人的には幻想は幻想として幕を閉じて欲しい派なので、”勿体無いな”というのが全編を観終わっての紛れも無い感想です。
Ⅱ. 監督だったり俳優陣だったりについて
・エロイーズ=ターナー役 - トーマシン=マッケンジー
純朴な田舎少女から垢抜けた女性に変貌していく様は見事で、ホラー映画として観た場合のスクリーミングクイーンぶりもなかなか。
ただ、作中で夢の現実への浸食がピークになった際にクラスメイトの女性を刺し殺そうとしてしまった件が作中全く罪に問われていなかったのは如何なものか・・・まぁ、そこは脚本の話だけんども。(´・ω・`)
・サンディ役 - アニャ・テイラー=ジョイ
非常にクセが強いもののそれゆえに印象的な美貌ゆえか最近は特にフェミニンな役が多いのがいささか気掛かりで、本作での役どころもまさにその延長線上でしたが、『マッドマックス』シリーズのスピンオフ作品の『フュリオサ』で主演とのこと。力強い役どころで是非とも新境地を見てみたいものです。
・ジャック役 - マット・スミス
・監督 - エドガー=ライト
監督デビュー作の『ショーン・オブ・ザ・デッド』がゾンビ映画だったもののコメディー分野でこそその才気を溢れさせてたイメージがあるので、本作のようなコメディー無しのガッツリホラーは新鮮新鮮。これまでの監督映画は軒並みヒットしているうえに本作もきちんと跳ねているようなので、今後もホラー作品にも力入れて欲しいかも。
Ⅲ. おしまいに
というわけで今回は、2021年のイギリス映画『ラストナイト・イン・ソーホー』について書きました。
上記のようにラストの持っていき方と結末はちと好みではないところがありましたが、サイケでおしゃれな雰囲気を上手く映画に落とし込んでおり、60年代オールディーズの再評価にも多大に貢献したという点でも良作だと思いました。
長くトレンド入りしている映画をちょくちょく観ますが、実際に観てみるとなるほどというか、やはりそれだけ世人を惹き付けるマスターピースが含まれてるんだと感心することが多いものです。
とりとめが無くなってきたのでこのへんで。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
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