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【90年代あれこれ①】“風船おじさん...その愛と死”

“結論から言おう・・・・・・こんにちは!!” O次郎です。
今回は、私たちが幼少期を過ごした90年代に賑わったあれこれを思い出すプレイバックPART.Ⅱ企画の第一弾(ネタがややこしいな)として、風船おじさんについて語ります。
かなりエキセントリックな人として世間を騒がせつつ、最後は謎の失踪を遂げた方なので、「奇跡体験!アンビリバボー」の未解決事件特集にワクワクする人、コンビニやブックオフでついつい『ヤバすぎる!あの事件の真相』とか『実話ナックルズ』とか読んじゃうゴシップ好きな方々はどうぞ読んでいってください。
彼について初めてその名を聞く方のために、その人となりと起こした事件について順に追っていき、そのうえで彼が影響を受けた映画作品や記事報道等を受けての考察を載せておりますので、適宜リンクより飛んでください。

それではご一緒に・・・・・・(ドント)ルック・バック・イン・アンガー!!!

※画像は本編と関係ありません。…この画像見ると反射的に目の玉に風がビュッと来そうで怯えちゃう。

Ⅰ. “風船おじさん”ってどんな人?
Ⅱ. 炎上上等!! やらかしちゃった数々
Ⅲ. そして空の彼方へ・・・
Ⅳ. 結局、良い人?悪い人?
Ⅴ. 終わりに


Ⅰ. “風船おじさん”ってどんな人? 


大道芸人「風船太郎」。キャッチコピーは「あなたのハートにバンバンバルーン」。今から10年ほど前のTBSテレビ『あらびき団』への出演で一般の知名度を上げ、かくいう私もあの番組で知りました。 毎回、巨大風船から頭だけを出した風体でいろんな大道芸を恐る恐るやっては破裂してパンツ一丁になる、というのが鉄板パターンになってましたね。破裂した後にあらわになるダルンとしたオッサン体型も哀愁を誘って面白かったのですが、『あらびき団』のレギュラー放送終盤の頃にはボディービルに傾倒したそうで、ムキムキ体型になられてましたね。

※人生で一回ぐらいは自分も風船に入ってみたい…かな?
※最近では『水曜日のダウンタウン』の検証企画でスキーコースをこの姿で滑走されたりしてました。五十代半ばには辛いだろうなぁ...。
※マッスルバージョンの風船太郎さん。わたしはボディービル自体には興味は無いものの、2000年代に急逝されたマッスル北村さんの自伝『ぼくの履歴書』を読んでみたいのですが、絶版のうえに国会図書館にも蔵書が見当たりませんでした...ぐすん。

・・・・・・ハイ、ボケはこのへんでおしまいにします。
以下からがモノホンの“風船おじさん”の話です。すんませんでした...。

※一見すると温厚な普通のおじさんですが、幼少期の自分はその凶器の片鱗ともいうべき不気味なコスモをブラウン管テレビから敏感に感じ取って覚えていたのかもしれません。

 鈴木嘉和(すずきよしかず)さんは、80年代末から90年代初頭に自作のヘリウム風船による無許可野外飛行でマスコミを騒がせた“風船おじさん”の異名で知られる一般人です。概要はこちら
 1940年生まれとのことで、私の両親より一周りほど前の世代の方ですね。大きく3度にわたって世間を騒がせる事件を起こしており、次項でそれぞれに言及しておりますが、総じてみるに功名心が非常に高い野心家で、それがゆえに己の技量と説を過信し、スポンサー頼みの身の丈に合わない借金で自らを追い込んだ末の危険な賭けを繰り返した夢追い人、というような印象が濃厚です。
 彼と同じ“冒険家”というカテゴリーで、且つ連日のメディア報道の中でのそのビッグマウス感の目立った近年の人物として私が思い出したのが、登山家の栗城史多(くりきのぶかず)さんでした。2010年代に、「単独無酸素」という”前代未聞の偉業”感を殊更にアピールしながらの、登山中のインターネット生配信という「冒険の共有」という自覚的な革新性のミックスの様相にものすごく“ビジネス登山”感を感じ、メディアが報道する彼の足跡に感心半分呆れ半分、というのが当時の私の感想の紛れもないところでした。が、彼の場合はどうも彼自身というよりも彼にカネの匂いを嗅ぎつけたその周囲の人々が彼を危険な挑戦に追い立てた、というニュアンスが濃厚なようです。

※「大物感演出が気になるなぁ」という当時の私の感覚は時代遅れで、セルフプロデュースの一つの例として見習うべきなのかも。 

 また、彼が高校時代に観て影響を受けたとされる作品に1956年のフランス映画『赤い風船』があります。あらすじはこちら

※近年になってようやくソフト化されたようです。
※戦後間も無い昭和20~30年ごろは製作資金難とGHQ命令によるチャンバラ映画禁止の事情により邦画は絶対数が少なく、米ハリウッドや欧州の輸入洋画が公開作品の主流だったようです。先日逝去された藤子・A・不二雄先生による漫画家漫画の金字塔『まんが道』で漫画執筆の参考として出てくる映画作品も洋画が殆どでしたね。 
※これでも通学途中やで。
※石造りの乾いた街並みに原色の風船がよく映えています。監督のアルベール=ラモリスは後年に『素晴らしい風船旅行』という長編映画も撮っており、風船に魅せられていたようです。

 わずか30分程度のショートムービーで、ストーリーらしいストーリーは無く、風船が意思を持つ理由付けも成されず、セリフも殆ど無いのですが、終始どこか浮世離れした画造りで、確かにアーティスティックな感性を持っている人には刺さりそうな雰囲気が有ります。 

※”赤狩り”の図。
※「キミらみたいなモンとはもう付き合っとられませんわ~。ほな、さいなら~!!」

 風船おじさんは後年、主人公と風船の仲の良さを妬んで奪い取ろうとする悪ガキたちを自分に「カネを返せ」と責め立てる債権者たちに、風船に誘われて何処かへ飛び立っていくラストの主人公を自分に重ね合わせ、しがらみを振り切る思いで飛び立っていったのかもしれません。 
 風船がらみで事件を起こす前は雀荘やレストラン経営もされていたようですがどれも上手くいかなかったようで、お金儲けの才能が無かったのが悔やまれます。そうでなくても、現代のようにクラウドファンディングの仕組みが充実していれば興味本位の視聴者の広範な寄付も期待できたかもしれず、借金が無謀な飛行の後押しをしてしまった、ということは言えそうです。  


Ⅱ. 炎上上等!! やらかしちゃった数々


①    横浜博覧会立て籠もり事件 

※「開催期間」の表記のところ、昭和天皇の崩御前に刷ったのか、「(昭和)64」の表記になってるのが泣かせる…。 

 半年間も開催されてたのに幼少期にニュース等で見た記憶が全くないなぁ。まあ、私は関西地方に住んでたので無理もないかもですが。 で、肝心の手塚治虫さんデザインの“ブルアちゃん”がこちら。  


※いまだに実写版は観る勇気が無いのよね・・・。『ワンピース』の実写化はどうなることやら。

・・・というボケを挟まずにおられないのが、私の悪いクセッ!!

「犯罪係数からして執行対象…お覚悟なさい!!」

今度こそ、モノホンの“ブルアちゃん”はこちらです。

※緑の地球・・・てことはナメック星?
※風船ははじけますがバブルはまだはじけてません。

 う~ん、2025年の大阪・関西万博のあの異様な、『超人バロム1』のドルゲ魔人みたいなキャラクターのデザインを最近見たところなので、手塚先生の良識の感じられる穏健なデザインには物足りなさすら感じてしまいます。 
 ともあれ、予想外の集客の悪さに悩んだ鈴木さんが自作したというブルアちゃんの着ぐるみの写真が見たいな~と思ったら、あっさり新聞報道時の記事が見つかりまして...。

※色はわからないけど、フォルムからして十分ハイクオリティー!
 ※ひそかによその国のパチモン感を期待していた身としては若干ガッカリ。

 スゲーちゃんとした出来映えやん!! それは大変結構なんですが、おそらくはこの着ぐるみの制作費に数十万~百万円程度は掛かったであろうことを考えると本末転倒な気はします。撮影会やサイン会までやっちゃったということで、権利関係の火種も容易に想像がつきますし。
 ただ、博覧会終盤に独自の客寄せとして設置したヘリウム風船ゴンドラは事前に教会の許可を得ていたうえ、自らの場外飛行は断念したようなのでまだ自制的な面も感じられます。


 ②    ヘリウム風船不時着事件
 横浜博覧会から3年後ですが、予定高度が400m(ヘリコプターの平均高度が500~600mぐらい)のところアクシデントで5,600mまで上昇してしまったとのことで、やらかし度も急上昇してますね...。
 酸素の量が人間の生命を維持できなくなる点以上の高度を登山用語で「デス・ゾーン」と呼ぶそうで、それが一般的には8,000m、すなわちエベレストの標高と近いわけですが、“ゴンドラですらない普通の椅子でそれだけの高高度まで急上昇しても、その後の挑戦を断念するだけの恐怖は感じなかった”、ということでしょうから、素人の目からするとそこからして既に理解の範疇を軽く超えてます。彼の眼前には先述の仏映画『赤い風船』のラストシーンの主人公のように、凡人の理解し得ない“ゼロの領域”が拡がっていたのかもしれません。

※一昔前のスクリーンセーバーみたい。
※『サイバーフォーミュラ』の福田監督。2022年4月現在『ガンダムSEED』劇場版の続報は無いですが果たして...。

Ⅲ.  そして空の彼方へ・・・


ファンタジー号事件 

 そして、消息不明となってしまった事件となるわけですが、自分が特に強い印象を受けたのが、出発日から日付変わった翌日深夜にSOS信号を発信し、結局それを撤回した件です。自分は後年、コリン=ファース主演の2017年のイギリスの伝記映画『喜望峰の風に乗せて』を観た際に、このファンタジー号の顛末を思い出しました。

※こないだ公開された『キングスマン』の三作目にもチョロッとでも出演してほしかったナ。
※実在のビジネスマンの伝記映画。彼も経営する会社が行き詰まり、ヨットの不具合と破産の危機の中で行くも地獄戻るも地獄の航海に身を委ねる。 

 実在の実業家が単独無寄港世界一周航海に挑戦し、彼も公開中の死の危険の中で一度は無線でリタイア・救助を求めようとするのですが、結局はスポンサーやその他利害関係者の期待の重圧の中で言い出せず、そのまま絶望的な旅路を続けてしまいます。 
 周囲の制止を振り切ってまで飛び立った鈴木さんですから、さぞや夢と野望に満ちた勢いのまま飛び立ったと思いがちですが、旅立つ前にマスコミの殺到を予見して家族を事前にホテルに避難させていたりするので完全に周りが見えなくなっていたわけでは決してなく、であるならば方々からの多額の借金や抵当に入れた自宅のことも念頭にあった筈です。それまでのやらかしと比べても最後にして最大級の大勝負ですが、「冒険を成功させてのメディア露出」という金勘定有りきの、皮肉にも風船への熱情とはそれまでで一番かけ離れた出立だったのでは?と思ってしまいます。


Ⅳ.  結局、良い人?悪い人?

 鈴木さんが失踪後、残された借金は奥様が払い続けたということですし、支援者の方がその肩代わりをされたこともあったようですから、大前提としてそうした面での責めは負うべきであろうと思います。
 しかし一方でその破天荒な生き方が文化人に与えた影響も大きいようで、彼に敬意を表して彼をモチーフにした戯曲や楽曲も生まれたようです。中でも、私の好きな筋肉少女帯のアルバム『レティクル座妄想』収録の「飼い犬が手を噛むので」の歌詞について言及します。

※94年発売の名盤。他の曲だと「香菜、頭をよくしてあげよう」が個人的おススメ曲です。

”(一部抜粋)
ただし!
狩りに行く前に
自分は頭がいいという
証拠を提示してください
君たちが
まわりのくだらない人たちとは
自分はちがうというのならば
その証拠を見せてください

証拠なき者は
犬人間とみなし
狩られる側にまわってもらいます
君たちが
くだらないかそうでないかを決める
素敵な審査員のみなさんを御紹介します
ルイス・キャロル
アリス・リデル
フーディーニ
バーニー・ヒル
トーマス・F・マンテル
ライヒ
ケネス・アーノルド
フェデリコ・フェリーニ
マリリン・モンロー
マーク・ボラン
ジム・モリソン
カスパール・ハウザー
江戸川乱歩
エルビス
ザッパ
ツタンカーメン
コナン・ドイル
芥川龍之介
そして風船おじさん、以上
順不同、敬称略でごさいます”
 
 毀誉褒貶が激しい人だったり、誰もが知る傑物だったりに混じっての風船おじさん締めですね。なんとなくですが、もしこの曲が実際の10年後に作られていたとしたら、オーケンさんならニール=ホラン氏もこの審査員の中に入れていたような気がします。


※「一人ごっつ」のお題に出てきそうな一枚…。
※2004年のアテネオリンピックの男子マラソン。スポーツ全般あんまり興味無いんですがコレは覚えてるなあ。 


Ⅴ. 終わりに 


 彼の奥様が彼の失踪後、2000年代に入ってから風船おじさんについて語った『風船おじさんの調律』という手記を発表されています。

国会図書館で閲覧してみました。

 奥様が風船おじさんが作ってしまった多額の借金を返済されていた、ということなので愛蔵相半ばする感じかと思いきや、とんでもない。彼の人品と勇気を全肯定されており、三人の娘さんとともに彼の生存を一途に信じ続けられているようでした。以下にその思いが端的に表れた一節を引用いたします。

"この人が生きていたら必ずや、世の中の見えない部分に役立つ、彼はみんなのことを考え、みんなのためにピエロになれる人です。
彼の命のかわりに私の命をささげるから、どうか神様、彼の命をお守り下さいと、ずっと祈り続けています。
どうぞ、愛を下さい!"

 その一方でマスコミはかたや面白半分、かたや辛辣という具合であり、当時の週刊誌の「無謀でズサンで無責任-フジTVが舞い上がらせた風船男(週刊文春92.12.17)」という見出しからだけでもそれは明らかで、奥様も上記の著書の中でそれに関しては苦言を呈されていました。
 ここまで相対する人によって極端にその評価が変わっていることに唖然とするばかりです。

 というわけで、ビッグマウスが過ぎるんだけど、何かそのまま素通りしづらい不思議な魅力を発している人。メディア報道の中だけでなく、もしかすると皆さんの身近にもそんな人がいるかもしれません。そんな時は、あくまで傍から眺めるだけに留めておくことを強くお勧めいたします。そういう人は得てして失敗した時、本人よりもその周囲の人の方が何倍も痛い目を見ることになるのが常だからです。 
 では、よろしければみなさんがふとした時に思い出す90年代の珍事やエキセントリックな人物を教えてください!

それでは、“結論から言おう・・・・・・さようなら!!” 


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O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)
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