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【名作迷作ザックザク⑮】法の目を搔い潜る金持ちたち…そしてヤクザの執拗な強請りに、憐れベテラン中年刑事の倫理は壊れゆく・・・ 和製クライムノワール映画『どろ犬』(1964)

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(・ε・`●)
 朝から概ね土砂降りの天気ですが、"雨の歌"といえばGLAYの1stシングル『RAIN』を真っ先に思い浮かべる、O次郎です。

この曲が収録されたアルバム『SPEED POP』までが純然たるV系サウンドですね。

 
 今回は1964年の邦画『どろ犬』についての書評です。
 普段から”未ソフト化””テレビ初放映”みたいな惹句に目が無いゆえ、CSの日本映画専門チャンネル"蔵出し名画座"枠は毎月観ていて、今月の放映作品が本作だったというわけでございます。
 自分が豚箱にぶち込んだヤクザの情婦に手を出してしまったやもめ暮らしの中年刑事が、それをネタに別のヤクザに情報提供を迫られる…。普通ならそのままお縄か、もしくはとことんまでアウトローに与していく展開ですが、この作品の主人公はそのどちらの道も固辞します。
 そんな彼が凶行に次ぐ凶行に及んだ心理は如何なるものであったか・・・読んでいっていただければ之幸いでございます。
 それでは・・・・・・・・・・・・グレイ・ザ・ナインライブズ!!!

トライガン、再アニメ化するってよ。( ・д・)



Ⅰ. 作品概要

 レア作品らしくWikiのページは存在しなかったのでご容赦をば。
 "ヤクザの情婦と通じた刑事"というプロットは数多く、本作のような主人公刑事菅井によるヤクザ2人・刑事1人の殺人は、保身と利己心に囚われた情婦側が刑事を唆して行われ、二人の立場が次第に逆転していく、という展開が半ば定石のように思います。

同年公開の佐藤肇監督作品『散歩する霊柩車』では、
本作で陰湿なヤクザの代貸を演じる西村晃さんが主人公の気弱なタクシー運転手役で、
春川ますみさん演じる高圧的な妻を殺すところから物語が転がり出します。

 しかしながら本作での主人公の強行はあくまで純然たる彼自身の意志によるものであり、ヤクザの元情婦の千代は穢れを知らずただひたすらに無知なまま主人公を信じ続けます
 それが主人公にとっての不幸であり、また同時に幸福でもあったということでしょう。

原知佐子さん演じる千代は何も知らぬまま打算計算も無く、
ただひたすらに主人公菅井との将来を夢見る…。
些かステレオタイプな女性像ながら、スレた中年刑事にはそれが新鮮に映ったに相違無い。

 また、本作の諸悪の根源は西村晃さん演じる代貸の山口ですが、要所で別種の悪もキッチリ描かれています。すなわち、物語冒頭で働き始めたばかりの若い女性の夜勤帰りを狙って車に誘って暴行した上司(女性の悲鳴を受けてのタイトルバックというのが凄まじい…)、あるいは看護師の女性に女優への道の口利きを餌に身体を要求して捨てたすえ自殺に追い込んだ人気俳優です。
 彼らは警察の取り調べも空しく示談金等で悠々と罪を免れたものの、漏れなく山口の恐喝の餌食になります。作中でハッキリと描写はされていませんが、法で縛られているがゆえに悪人を見逃さざるを得ない主人公の義侠心を利用する形で、山口が私腹を肥やしつつ返す刀で主人公を取り込んでいったことがわかります

もしこの作品世界にデスノートが有れば主人公菅井は真っ先に手を出していたはず。
というか、その後破滅の道を歩んだことを思えば山口が本作における
デスノートないしリュークだったということで。

 自分の行っている悪事の方が何倍も悪どいのに、ターゲットの人間の小さな罪を時に強く時に優しく責め立てて罪悪感を煽る・・・まさにヤクザ・オブ・ヤクザ、今でいうところのサイコパスの手口です。
 そんな狡猾を絵に描いたような山口を演じる西村晃さんですが、その弟分の千葉を演じる田中邦衛さんは非常にコミカルで本作における一服の清涼剤です。いささか頭が弱く鈍臭いですが、千代に靴やジャケットを買ってもらって喜ぶ姿は非常に無垢で可愛らしくすらあります。

作中終始舌っ足らずな喋り方は思わず笑ってしまうが、
もうこの時点で邦衛さんの独特の調子の片鱗が見えつつあるとも。

 そして恐喝に味を占めて額をどんどんエスカレートさせて自分の制止も聞かなくなった山口を始末するために一計を案じて毒殺し、無邪気な千葉に濡れ衣を着せたうえで彼自身も絞殺した主人公の振り切りぶりが一層際立ちます。
 主人公の犯行に勘付いた亀石誠一郎さん演じる若き阿部刑事が彼を逮捕しようとしますが、主人公は自分が骨の髄までデカであり、それに憑りつかれていることを叫んでその場を逃げ出します。
 弱きを助け強きをくじき、常に清廉潔白で公明正大……主人公は駆け出しの頃からずっとそれを己の矜持としてデカを続けてきて、その愚直さゆえに一度は家庭を失い、次第に心が荒んでゆく中で出会った純な女性が千代だったのでしょう。
 そして、もし彼一人であれば阿部刑事に追及された時点で自害していたかもしれません。刑事としての己に病的なまでのアイデンティティーを依存していたがゆえに失職したりましてや収監されたりといった自分は許せなかったことでしょう
 そしてそれゆえに、その美学を捨ててまで千代と地方へ逃げようと拳銃と毒薬を懐に忍ばせて出立したのは、彼女を事件の渦中に巻き込んでしまった事への罪の意識であり、また同時に自分の転落の切っ掛けを作った純真無垢なファムファタールたる彼女と死なば諸共、という相反する心情のもつれゆえだったのではないかと思っています。

”金と女に人生を売った狂える39才!”
今にして思えば、40手前で「この職しかない」と思い詰めるのは早計としか…。



Ⅱ. キャストさんについて

・菅井部長刑事役 - 大木実さん

松本清張さん作品でも刑事役。
若山富三郎さん版の『子連れ狼』でラスボス柳生烈堂も
演じられているそうだが・・・画像が出てこん。

 純然たる正義感から現実路線への端境期とでもいうような哀愁溢れる刑事像を体現されていました。当時41歳ということで役とほぼ同年齢ですが、ビジュアル的にも若手二枚目人と好々爺然としたベテラン勢との間の中間管理職感がいぶし銀で良し。


・宮坂千代役 - 原知佐子さん

本作ではなかなか大胆な濡れ場も。
日本人離れした佐藤允さんと並んでも映え負けしてないのが凄い。

 特撮映画の巨匠の実相寺昭雄さんの奥さんとして有名ですが、おもに中年になられてからの大映のTVドラマで活躍されたようで。新東宝出身という経歴がまずもってカッコイイ・・・。

・徳持刑事役 - 井川比佐志さん

何度も拝見しているとこの朴訥さが病みつきに。

 失礼ながらそこまでの二枚目ではないので初見の印象は薄かったですが、あからさまな二枚目や美女の多かったこの時代の映画の中ではその庶民派な風貌が却って目立ちます。
 『男はつらいよ』の映画版に先行したTV版で諏訪博士役を演じられたことがブレイクの切っ掛け、とのことですが、そもそもTV版が有ったことを初めて知った時には驚いたもので。



Ⅲ. おしまいに

 というわけで今回は往年の邦画クライムノワール『どろ犬』について書いてみました。
 この時期のハードボイルド作品はハリウッドのギャングものをそのまままねたような作品も散見され、銃でのドンパチがいかにも安っぽくて今観ると辟易させられるものも多いのですが、本作は墜ちていく一人の中年刑事の心情にフォーカスした造りになっているため、古さを感じず、西村晃さんのヤクザの怪演も手伝って最後までハラハラドキドキ観られました。
 この枠で放映される作品はレアものなので単純に感想そのものにもそれなりに貢献度があるかと思いますので、翌月以降もご紹介できればと存じます。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




雨ソングで他に思い出すのが何故かコレ。
俗に言うスルメソングってヤツか。
エリザベス・・・。=͟͟͞͞( ๑`・ω・´)

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O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)
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