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【名作迷作ザックザク㉑】プロトタイプ寅さんは"生きていた英霊"?! 妻子と決別した初老の日雇い人夫が出会ったもう一人の"息子"と育む親子愛の物語『父子草』(1967)

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(●´д`●)
 本日からお盆休み明けて出勤ですが、"夏ソング"というと星の数ほど名曲が有るのにふと当人の黒歴史とされている吹石一恵さんの「セピアの夏のフォトグラフ」を思い出して聴いてしまった、O次郎です。

※大ヒットゲームの悪名高き実写映画化作品ときめきメモリアル』のテーマソングにして、吹石一恵さんの歌手デビュー曲!
プロデュースがあの広瀬香美さんでイントロのコーラスも担当されているんですが、歌が始まるとそんな事前情報が頭からすっ飛ぶような"ザ・地声"の迫力…。
確か10年ぐらい前にYouTubeで夏ソングメドレーみたいなヤツ流してて発見したんですが、たまたま直後に連絡取った知人の僧侶にこの歌とURLを教えたら、「開始1:23ごろの拝んでる姿がきちんとしてる」との斜め上の回答。
さすが職業柄というかそれ以外にコメントのしようが無かったのか・・・。


 今回は1967年の邦画『父子草』についての感想です。
 CSの日本映画専門チャンネル"蔵出し名画座"枠の今月の放映作品が本作だったのですが、こないだの8月4日で渥美清さん没後26年ということでのラインナップだったそうです。
 渥美さんといえば兎にも角にも『男はつらいよ』シリーズですが、そのTVシリーズが68~69年、劇場版第一作が69年ということで、寅さんのイメージが確立する以前の主演作品です。
 とはいいつつも本作の中に於ける主人公は"喧嘩っ早くてぶっきらぼうだけど人情に篤い"というまさにその後の寅さんの原型とも言えるキャラクターでありつつ、その一方で戦争で人生を大きく狂わされた悲しい過去を背負ってもいる複雑な人物です。
 そうして家族も持たぬまま飯場を行ったり来たりの初老の男が出会った人々との交流で見つけた余生の生き甲斐と愛でる花。
 主演の渥美清さんのみならず助演の淡路恵子さんや若手時代の星百合子さん、石立鉄男さんのフィルモグラフィーとしても珠玉の一本化と思います。
 寅さん好きはもちろんのこと、往年の邦画の人情譚がお好きな方々、読んでいっていただければ之幸いです。
 それでは・・・・・・・・・・・・・伝説の樹!!

ちなみに上記映画版『ときメモ』では、
ゲーム版で主人公の幼馴染み且つ、主人公のあらゆるパラメータが高水準でないと
見向きもしてくれないラスボス的存在の藤崎詩織役が吹石さん。
もし今、再び実写化するならどういうキャスティングになるんでしょうか…。



Ⅰ. 作品概要と監督

※Wikiのページは存在しませんでしたのでこちらを。

 
 いろんなサイトのあらすじを確認してみましたが、ラストが実際の映像と若干異なるようです。

(あらすじ文面ラスト)義太郎、西村、竹子、美代子と揃って祝盃があげられた。食台の上では父子草の鉢植がすっかり咲き揃っていた。
(実際のラスト)合格の証である父子草の種の植えられた鉢の在るおでん屋で再会した義太郎、西村、竹子、美代子だったが、竹子と美代子の見ている前で出会った頃のように相撲を取り始める義太郎と西村。いつしか二人は実の父子が再開したように強く抱き合うのだった。

という感じでした。ソフト化や再放送の無かった作品のようですので、脚本の段階のものがそのまま実際の作品展開として流布したのかもしれません。

 本作の出色は、なんといっても全体としては朗らかな人情物語に仕上がっている一方で、戦争がもたらした悲劇がその中心に強く根ざしていることでしょう。
 監督の丸山誠治さんは戦前に東宝の前身であるPCLに入社した黒澤明監督や関川秀雄監督と同期ながら二度に渡って日中戦争に従軍した経験をお持ちで、その根底の実体験から来る非戦・反戦への思いが『太平洋奇跡の作戦 キスカ』『連合艦隊司令長官 山本五十六』『南十字星』等の戦争映画の大家として結実したのだと思います。

『男ありて』(1955年)
主演の志村喬さんとしても思い入れのあったという引退間近のプロ野球監督のお話。
リアルタイムで氏を知らない世代としては往年の東宝特撮映画での好々爺然としたイメージの方が
強いんですが、世代的に考えてむしろ厳然とした家父長的な思考でないほうがおかしいか。

 で、本作の主人公である平井ですが、今でこそ妻子無しの気ままな日雇い人夫生活を送っていますが、かつては故郷である新潟県佐渡市で妻と幼い息子を養いつつの漁師生活でした。その全国何処にでも有る小さなしかし確かな幸せが、戦争への従軍によって途絶してしまいます。
 故郷に残してきた妻子に再び相見えることだけを夢見て戦地の地獄にも虜囚の辱めにも耐えてきた平井ですが、遂に帰国した彼を迎えてくれたのは年老いた父だけであり、待っていたのは既に妻子が自身の弟と再婚しているという残酷な現実でした。音信不通ゆえに死亡宣告されていたものの実は生き延びていたという”生きていた英霊”です。

終戦後も捕虜として実に五年間も抑留されていたという平井ですがその先は極寒のシベリアです。
五体満足で帰って来れただけでも奇跡的でしょうが、
その地獄のうえに祖国で待ち受けていた現実が彼を苛んだことを思うと・・・。

 ちなみに脱線しますが、私の父方の祖父も実は祖母の再婚相手です。
 祖母は元々は祖父の兄つまりは大叔父に嫁ぎましたが、従軍の末に大叔父は戦死し、祖父は帰還したために祖母は祖父と再婚しました。父には姉が二人居ましたが、上の姉とは異父姉弟ということです。
 直接的な面識こそ無いですが、もし本作のように戦死したとされた大叔父が後年に復員されたとしたらその心中は・・・と思うと胸につまる話です。

ディア・ハンター』(1976)
ベトナム戦争の狂気を現地ベトコンによる捕虜へのロシアンルーレットに集約して描いた傑作。
仲間と敵方の夥しい屍とこうした地獄の末にようやっと祖国に帰還したら
かつての恋人に既に別の相手がおり、自分は戦争で受けた心と身体の傷でまともに働けない…。
ランボー』や『アメリカン・スナイパー』もそうですが、
どの戦争も"戦争を生き抜いたゆえの地獄"という現実も生み出すわけで。

 作中二度、その故郷での回想シーンが流れます。一度目は復員時に浜村純さん演じる父親に事実を知らされて彼の膝で男泣き、二度目は更に遡って出生前の家族水入らずの幸せな日々・・・。
 いつものおでん屋台で女将さんの竹子に水を向けられてその経緯を吐露するのですが、それを頷きながら静かに聞く竹子役の淡路恵子さんも実に良い味を出しており、作中で彼女の出自については語られていませんが何かしらの訳アリなのを想像させるのが物語としても演者としても唸らせるところです。

物語終盤、苦学青年の西村との交流を通して互いの人間性を認め合い、
別名"父子草"と呼ばれる撫子を二人して愛でる姿は実の夫婦以上に睦まじい雰囲気です。

 物語を冒頭に戻すと、ガード下にあるおでん屋台で主人公平井と苦学生西村が出会うところから始まります。既にべろんべろんに出来上がっている平井が女将と晩飯に寄っただけの西村に理不尽に絡む様はまんま寅さんですが、この冒頭から終盤まで一貫して何かにつけて平井が歌い出す唄が、故郷の漁師町のみに伝わる民謡であることが解ると、彼の捨てきれぬ郷愁が思われてキャラクターに厚みが加わるのがなんとも監督の巧いところだと思います。

西村は浪人一年生。飛騨の田舎では高校までずっと成績一番だったことから東大受験するも撃沈。
元々浪人は許されていなかったことから「昼間は予備校・夜は夜警のバイト」という厳しい生活。
彼との喧嘩からすべての物語が始まり、彼との喧嘩で物語が終わります

 平井がしょっちゅう喧嘩を吹っ掛けては毎夜西村に投げ飛ばされますが、徐々にお互いが気になっていき、彼が風邪をひいたと聞いた雨の夜に「たまには飯場のみんなにおでんをご馳走するから鍋に入れてくれ」と頼む平井に「西村さんの見舞いに行くんだろ」と女将が看破してそれにぶっきらぼうに照れる渥美さんの可愛らしいこと…。

見舞いに行った西村宅で親交を深める二人。
そして「来年東大に受かったらお前の勝ち、落ちたらお前の負け」との勝負を仕掛ける。
同じアパートの美代子にも"こまっしゃくれ"と悪態を吐く姿もなんとも微笑ましい限り。

 それからはそれまでの宵越しの銭を持たない大盤振る舞いを止め、西村にバイトを止めて勉強に専念してもらおうとせっせと金を溜める平井の姿。
 社会の厳しい現実に直面しながら必死に勉強する青年西村の姿に会えない息子の姿を重ねたことは容易に判りますが、彼に大金を渡そうとしたところ、「実は実家から仕送りが有ったんだ….母さんからは父さんに内緒で5千円。父さんからは母さんに内緒で3千円…」という言葉を聞いて実の両親からも応援されていることを悟って咄嗟に起こり出してしまう展開はなんとも微笑ましく巧みなシーンでした。
 現代というかもう十年後のドラマだと「恩着せがましいことするなよ!」とか「自分の息子に重ねやがって!迷惑なんだよ!」みたいな大映青春ドラマ展開に持ってかれそうですが、そのへんの余計な捻りが無いのが今観ると心地良いです。
 要所に挿入される飯場での平井の姿もなかなか興味深く、彼を慕う好色な弟分に自分の"入れあげている女"の話をする件はなんともコミカルです。

寅さんではまず見られない、自身が"労働者諸君!!"の一人になっている姿。
彼を慕う弟分を引き連れて移った別の飯場での落石に巻き込まれて彼が大怪我を負うのですが、
彼が助からないと聞いた時の悲痛な表情もまた苦しくも必見です。

 また、西村へのお金を女将さんに渡して直接会わずに別の飯場へ旅立ってしまう姿は、マドンナにフラれてまた旅烏に戻る寅さんそのものなのですが、本作ではそのまま去りっぱなしでも旅先で事故死してしまうような悲劇も無く、春先にきちんと西村の受験結果を確かめるべくおでん屋に舞い戻ってきます。
 余情を重んじる監督や演出家であれば、上述のように平井を去ったままにさせたり、女将さんが亡くなっていたりするものですが、本作ではそうした不幸は訪れず、父親の借金の所為で夜逃げした西村の恋人の美代子も舞い戻ってきての四人揃った大団円。序盤に屋台でチンチン電車に自分の歌を邪魔された平井が騒音に悪態を吐くのに対して女将が「あの音も嬉しい時は嬉しそうに、悲しい時は悲しそうに聞こえんのよ」と返しますが、最後に平井が「チンチン電車も合格を祝ってらぁ!!」とさりげなく伏線を回収するのもニクいところです。

しかし女将を演じる淡路さん、本作時点で未だ30代半ばだったってのがまた・・・貫禄あるなぁ。

 全体の筋を見るとやや出来過ぎというか、ご都合主義的な感は否めませんが、それが演出によって白けることなくここまで心地良く感じられるのは偏に演出の妙でしょう。
 また前述のように、主人公平井の戦争による暗い過去が根底にあるからこそ、それでも生き甲斐を見つけてがむしゃらにひたむきに生きる姿が共感を呼ぶのだと思いました。


Ⅱ. キャストさんについて一言二言

・平井義太郎役 - 渥美清さん

散歩する霊柩車(1964)
チョイ役の霊柩車の運転手役。
西村晃さん演じる小心者の主人公が春川ますみさん演じる高圧的な女房を殺害したことを悟り、
主人公を強請ろうとする無表情・無感情ながら凄みの有る役どころが新鮮でした。

 本作では『男はつらいよ』の寅さんの延長線上というか、それに先んじるプロトタイプとして違和感無く見られましたが、『拝啓天皇陛下様』での純朴で愚直な青年や『八つ墓村』での包容力のある金田一など、他の作品への出演も少なくないだけに今後チェックしていきたい気持ちが強まりました。
 本作終盤、飯場で咳をしながらきにせず働く姿がありましたが、もしかすると長年の肉体酷使がたたって病気を抱えていたのかもしれません。作中では作品トーンに水を差すからかそのあたりは言及されていませんでしたが、青年西村とそれに連なる人たちと"家族"になりえた以上、その生き方に悔いは無かったことでしょう。

・女将の竹子役 - 淡路恵子さん

映画作品より個人的には「アウト×デラックス」のイメージか。
晩年までゲームに没頭されていたようなのでスゴイ…。

 古い映画でもこれまであまりお見掛けした印象が無かったのですが、自分が疎い『社長』シリーズクレイジー映画によく出られていたようで納得。
 生前早くからかなりのヘビースモーカーだったようで、その影響かどうかはわかりませんが本作中ではその美貌も然ることながらそのハスキーボイスがどうにも印象的で、上述のように当時まだ30代半ばだったようですが堂々たる貫禄を感じさせました。
 本作では夫も子も有ると作中で語ってはいましたが、事実はどうあれ、平井との良い雰囲気がなんとも勿体無かったところではあります。序盤では悪態を吐く平井を苦々しく思っていたのを終盤、「(おでんを)不味いっていってくれなくちゃ」「ババァって呼んでくれなくちゃ」って返していたのがなんとも可愛らしいものでした。

・西村茂役 - 石立鉄男さん

CSの東映チャンネルフリークなので印象は『鉄道公安官』。
べらんめぇ口調にパンチの利いたアクの強い風貌なので、
本作でのビジュアルと演技は若い頃とはいえあまりに以外で…。

 本作で一番びっくりしたのが彼です・・・。
 後年の豪快な三枚目のイメージからは想像もつかない純真で線の細い青年役だったのでまービックリ。大学に入るための浪人生役ですが当時既に20代半ばだったというのも驚きです。劇場映画への出演が案外少ないようでお若い頃の作品に触れる機会が無くそれでかもしれません。
 もし本作での苦学生がかなり反抗的な性格のキャラクターであれば後の代名詞的な早口のまくしたてや甲高い調子の片鱗も見られたかもしれませんが、その正反対とも言える本作の演技は貴重かとも思います。

・石川美代子役 - 星由里子さん

特撮好きとしてはモスラ対ゴジラ』(1964)
手柄に逸る勝気な若手感がなんとも可愛らしい…というと問題ありそうだけど
その表現がピッタリな具合で。

 Wikiに表記の有る"癖のない庶民的な美貌"というのが本作でもまさしく当てはまっており、酸いも甘いも嚙み分けた女将さんと高コントラストの怖いもの知らずなお嬢さん感に溢れていました。
 作中では特に西村の職場の夜の学校でプールで足をバタつかせる姿がなんとも健康的な色香に溢れており、本作の陽性のトーンに見事に合致しています。作劇とはいえ、父親の事業の失敗をものともしないその明るさは新世代を象徴していたように思います。
 余談ながら彼女や女将が多用していた"まぁ・・・"という言葉遣い、この時代以前の映画やドラマでしかすっかり見なくなりましたねぇ。


Ⅲ. おまとめ

 というわけで今回は傑作人情喜劇にして、『男はつらいよ』の寅さんのプロトタイプともいえる悪童の如き男が主人公の『父子草』について語りました。
 あらためて物語を反芻すると、作中悪人は一人として登場せず、それがゆえに否が応でも戦争の悲惨さに思いが向けられます。戦争や抑留生活そのもののシーンが登場しないがゆえにより一層、主人公の受難の過去が思わされることが結果として本作を重層的にしつつ、単なる娯楽作品に留まらない秀作に押し上げているように思います。
 今回も思わぬ拾いもの作品でしたが、またぞろ来月以降もこのCSの日本映画専門チャンネルの"蔵出し名画座"枠の作品について書いてみる所存です。

 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。



ちなみに『男はつらいよ』シリーズで個人的に一番好きなのは男はつらいよ 望郷篇』(1970)
長山藍子さん演じるマドンナの傍で汗水垂らして油にまみれて豆腐屋の仕事をする労働者寅さん。
作中で忘れられないのがオーバーオールに労働者ポーズのコレ・・・・・・マリオやん!!


 



 











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