「STOP!ワクハラ」は明記されていますーワクチン差別についての官公庁や自治体の方針
最近、ワクハラという言葉を聞くようになりました。ワクチンは任意接種ですが、打たないことで不利益になる状況に置かれている人がいるのも事実です。この状態を、国や自治体はどう見ているのか。どのような指針を打ち出しているのか。それを調べて記事にしてみました。大変長くなってしまいましたが、最後までお読みいただけますと幸いです。
同調圧力を感じる人は少なくない
ワクチン接種開始直後の2021年5月、「打たないといけないような独特の空気」、つまり同調圧力が作られてしまっているというアナウンサーの発言がニュースになりました。
『バイキング』伊藤アナ、ワクチンは「打たなきゃいけないような独特の空気」発言で物議
これはアンケートの結果にもあわられていました。学生に対するアンケート(岡山・倉敷新型コロナウイルス感染対策市民審議会実施:出典)では22.6%(5人に1人以上)、30代から50代に対するアンケート(ORICON NEWS:出典)では36.8%が圧力を感じているという回答が得られています。
退職の強要、出社制限、受診拒否まで
日本弁護士連合会が行った「新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」の結果をみると、第1回(5月14日、15日実施)では接種希望に関する相談が含まれているのに対し、第2回(10月1日、2日実施)はワクチンの強制・不利益、ワクチン非接種者に対する差別・不利益などに関する相談が寄せられており、相談内容が変化している様子が伺えます。
第2回新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン 第9 相談の具体的内容(概要)から一部加筆
看護師
「『ワクチン接種しないなら、医療法人の方針で退職してもらう』と言わ
れ、退職した。労働基準監督署に相談している。同様の理由で退職した他
の看護師もいる。」
会社員
「2回接種者のみ出社可、未接種者はPCR検査が陰性であれば出社可。
接種者のみバッジを付けている。未接種の理由を同僚からしつこく聞か
れる。」
自営業者
「精神科に週1回カウンセリングのため通院している相談者が、医師に『ワ
クチンを打っていない』と話すと、医師から『ワクチンを打って下さい。
打たないとカウンセリングは続けられない』と言われた。」
改正予防接種法の附帯決議に差別禁止を明記
こうした状況について、国や官公庁はどう考えているのか。そもそも、どういう方針になっているのでしょうか?調べてみると、今年2021年の春頃には「指針を作成する」と報道されていました。
ワクチン差別防止へ指針 河野担当相
指針は確認できませんでしたが、法律の附帯決議に関連する文章があることがわかりました。それは、2021年2月13日施行の「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律」(出典)の附帯決議です。改正法の施行前、第203回臨時国会(令和2年12月1日)において、衆議院厚生労働委員会から「予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」が提出されており、その中で下記のように明記されていました(出典)。
予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
一、新型コロナウイルスワクチンの接種の判断が適切になされるよう、ワクチンの安全性及び有効性、接種した場合のリスクとベネフィットその他の接種の判断に必要な情報を迅速かつ的確に公表するとともに、接種の判断は国民自らの意思に委ねられるものであることを周知すること。また、ワクチンを接種していない者に対する差別、いじめ、職場や学校等における不利益取扱い等は決して許されるものではないことを広報等により周知徹底するなど必要な対応を行うこと。加えて、これらの周知を行うに当たっては、ホームページ、SNSその他の各種ネットサービス等の様々な媒体を活用し、国民がそれらの情報に容易にアクセスできる環境整備に努めること。
この附帯決議に対して、田村大臣がこのように答弁しています(報道はこちらとこちら、会議録はこちらとこちら)。
2021年1月27日の参議院予算委員会
260 ○国務大臣(田村憲久君)
これなかなか難しいのは、それによって差別、偏見が生まれてくる、差別、偏見が生まれてくるという問題もあります。一方で、確かに、ワクチン証明というものがあれば、この方は比較的安全、完全とは言えません、これは感度の問題がございますので、というような問題もあります。これ非常に難しいところなんですけれども、やはり偏見、差別というものが生まれないように、そういうことができるのかどうか、慎重に考える必要があろうというふうに思います。
2021年2月5日の衆議院予算委員会
○田村国務大臣
これは予防接種法のときも御答弁させていただいておりますが、そもそも、努力義務という形でお願いはしておりますけれども、打つか打たないかは御自身の御判断でございますので、それに対して、接種というものを義務づけるような形で各職場で何らかの差別的行為があるということは、これは我々としては看過できないというふうに考えております。
残念ながら、附帯決議そのものに法的拘束力はないようです(出典)。しかし、立法府から行政府に対して法律の運用に注文をつけており、国会で大臣から「差別が生まれないように考える必要がある」「差別については看過できない」という発言を引き出したというのは非常に重要なことだと思います。
法律案が可決された後、その法律案に対して附帯決議が付されることがあります。附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。附帯決議には、政治的効果があるのみで、法的効力はありません。
官邸や厚労省等のサイトにも明記
では、行政府である官公庁では、どのような扱いになっているのでしょうか。確認したところ、首相官邸(内閣官房)・厚生労働省・法務省のサイトに、ワクチン未接種者に対して差別的な扱いをしないように注意を促す文章が明記されています。
まず、首相官邸の特設サイト「新型コロナワクチンについて」では、項目「新型コロナワクチンは、全額公費(無料)で受けられます」に次のように記載されています(出典)。
外国人も含め、接種の対象となるすべての国民が、全額公費(無料)で受けられます。受ける方の同意なく、接種が行われることはありません。職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない方に差別的な扱いをしないようにしましょう。
これは、英語版のページ”COVID-19 Vaccines”でも、同じ内容になっています(出典)。
また、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策本部が事務連絡として発出した「新型コロナワクチン接種証明の利用に関する基本的考え方について(令和3年9月 15 日)」では、次のように記載されています(出典)。
【ワクチン接種に関する正しい理解の増進】
ただし、ワクチン接種を受けるかどうかは個人の任意であることなどからワクチン接種の有無又は接種証明の提示の有無による不当な差別的取扱いは許されません。
次に、厚生労働省ですが、「新型コロナワクチンQ&A」の『Q. 新型コロナワクチンの接種を望まない場合、受けなくてもよいですか。』に下記のように記載されています(出典)。
職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないよう、皆さまにお願いしています。
同ページには、Q&A(一般の方向け)(令和3年12月7日版)への案内がありました。確認すると「1. 政府の方針」の『問9. 新型コロナウイルスワクチン接種が、地域・職域で進んでいます。一方でワクチン接種を受けていない人に対する偏見・差別事例があるとも聞きます。私たちは、どういった点に注意して行動すべきなのでしょうか?』では、次のように記載されています(出典)。
2.ワクチン接種を受けていない人に対する差別的扱いの防止
新型コロナワクチンの接種は強制ではなく、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いをすることは許されるものではありません。
特に、事業主・管理者の方におかれては、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行うようお願いいたします。
これは、同様に案内されている「Q&A(企業の方向け)(令和3年11月12日版)」の「10 その他(職場での嫌がらせ、採用内定取消し、解雇・雇止めなど)」の問10でも、同一の回答内容になっていました(出典)。
また、同様に案内されている「経済団体等への協力依頼(令和3年7月13 日)」では、労使団体の長宛の文書に、下記のように記載されています(出典)。
1 労務管理の基本的姿勢
(5)新型コロナワクチンの接種について
一方、ワクチンの接種は強制ではなく、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われるものであり、職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの不利益な扱いをすることは許されるものではない。
法務省では、人権擁護局のページ「新型コロナウイルス感染症に関連した偏見や差別をなくしましょう」で次のように記載しています(出典)。
新型コロナワクチンの接種に関連した不当な差別はやめましょう
政府は、新型コロナワクチンの接種について、国民の皆さまに受けていただくようお勧めしていますが、接種を受けることは強制ではありません。
新型コロナワクチンの接種に関連する不当な差別はやめましょう。
海外でもニュースに
このように、誰もが確認できる官公庁のwebサイトで(少々探しにくいところにはありますが)、差別をしないように促すメッセージを明記しているのは世界でも珍しいということで、海外の一部のメディアではニュースになっています。
日本政府は市民に「ワクチン未接種を差別しないでください」と告げる
ワクチン未接種に対して「差別しない」、日本政府は市民に告げる
日本は、ワクチン未接種者を「差別しない」ことを国民に強く求める
ただ、どれも目立つような書き方をしていないので、知らない人も多いかも知れません。自国民がよく知らないことを、海外メディアが取り上げているのも不思議な話しです。もっと広く国民に周知し、徹底するように指導してもよいのではないでしょうか…?
ワクチン未接種者への差別禁止条例が誕生
こうしたなか、12月11日、つくばみらい市議会で、ある条例が制定されました。
茨城・つくばみらい市議会 コロナワクチン未接種者への差別禁止に
ワクチン未接種者への差別を禁止する内容を、既に制定されていたコロナ感染者に対する差別禁止を定めた条例に追加したのです。こうしたワクチンの差別禁止に関する法律は、全国でも珍しいとか。
他の自治体ではどうでしょうか。調べてみると、いくつかの自治体で同様に条例を制定していることがわかりました。
2021.6.18 ワクチン非接種の人への差別禁止 明石市が条例改正へ
2021.11.9 新型コロナワクチン未接種 偏見や差別を防ぐ共同宣言(兵庫県)
共同通信が2021年10月に都道府県単位で実施したアンケートでは、8県が「条例で未接種者への差別を禁止している」という回答をしています。
ワクチンの接種は任意です。国民ひとりひとりがしっかり判断できるように、決して強要や差別がされることがないように、こうした動きが他の自治体で広がることを願っています。
<記事をお読みになった方へ>
最後までお読みいただき、ありがとうございました。皆様がお住まいの自治体がまだ条例を制定していないなら、一言、要望を伝えてみませんか?
こちらの記事が参考になれば幸いです。
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