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「民藝」ってよく耳にするけど結局何なの(MINGEI展@名古屋市美術館)
名古屋市美術館で12月22日まで開催しているMINGEI展についての感想です。
「民藝」て言われても今ひとつピンとこないなぁ…と思い続けて10年くらいになる。なので名古屋市美術館でかなり大掛かりな「MINGEI」展が開催されると聞いてもあまり心躍らず、見に行く気持ちが湧かなかった。
スイッチが入るきっかけとなったのが、豊田市民芸館で見てきた「アイヌの美しき手仕事」。この展覧会では、主に日本民藝館と静岡市芹沢銈介美術館から取り寄せたアイヌの衣装や道具が展示されており、なかなかに味わい深く、「民藝」と呼ばれる品々の良さが少しわかった気がした。この展示を見てきた翌日、部屋の整理をしていたら偶然「MINGEI」展のチラシが目に入り、よく見てみると「アイヌの美しき手仕事」と同様に、日本民藝館や静岡市芹沢銈介美術館から借用してきた品がいくつも紹介されているし、しかもモダンで味のあるものたちばかりだ。
——これを見逃すと後で悔やむかもしれない
という声が心の中で聞こえた。
次の金曜日の仕事終わりに、いつもと反対方向の電車に乗って名古屋市美術館へ向かった。金曜の夜だけでも夜間に開館しているというのは実にありがたい。
今回の展示は入口が2階に設置されている。このパターンは久しぶりだと思いつつ足を踏み入れたら、見慣れたはずの展示室が異世界になっていた。民藝の品々で構成されたモデルルームが出現している。これは、1941年に日本民藝館で開催された「生活展」の再現だという。日本民藝館といえば柳宗悦が設立した、民藝運動の総本山みたいな美術館だ。
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どの品も味わい深く、さらにコーディネートされた状態で見ると「ていねいな暮らし」の世界が立ち現れる。和の品だけで構成されているのかと思ったら、イギリスのスリップウェアや棚など海外の民藝的な製品も半分くらい取り込まれていて、「和」のテイストが勝った和洋折衷のリビングダイニングが展開されていた。心落ち着くことこの上ない。
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そこから先は「衣・食・住」のカテゴリに分けて民藝の品々が紹介されていた。このあたりの品については、確かに良いけれども「柳宗悦フィルター」を通して合格したものばかりだから、割と個人の好みなのね、と思うものも多かった。もっともこれらの品は飾るためのものではなく、使ってこそ良さが出るタイプなので、部屋に置いて毎日ながめてこそ魅力を発揮するのだろう。
階段を降りて1階の展示室に入ると、違う世界が現れた。琉球の世界を紹介したのちは(なにしろ北方の品々=アイヌ関連の品は豊田の民芸館へ行っている)、世界各地の民藝的な品々の紹介、そして現代も作り続けられている民藝製品の紹介となった。解説によると、「民藝」と呼ばれるべき品は、人の手がかかっていなくてはならないということで、昔ながらの手法で作られている日用品のうち優れたものなのだが、現代では得難くなっているようだ。技術が発達して、機械による大量生産が当たり前になった今の時代にあえて、効率の良くない手仕事でものを作ることの意味。そうして作れたものを選んで使うことの意味。そういったものに焦点が当てられているように思った。
最後は再びインスタレーションとして、現代のアーティスト、テリー・エリス/北村恵子による現代の民藝を使用したリビングルームを見せている。これは、冒頭の柳宗悦によるリビングルームと比べてみると興味深い。
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これで展示は終了だが、次のスペースにはお約束のグッズ販売コーナー。かわいいデザインのものから使い勝手の良さそうな工芸品まで取り揃えてあり、財布の紐を締めるのが大変! いやはや、美術館にとっては大事な収入源のはず。
そして今回の展示でいちばん印象に残ったのが、会場のつくりがありえないレベルで丁寧だったこと。とても手が込んでいるのにそれを意識させないさりげなさに感動した。たとえば、白い糸を暖簾のように垂らして感じよく目隠しをする間仕切りの方法。無駄なスペースを作らない壁の組み方。パネルの下地を木目風に塗り、展示品と雰囲気を合わせている点。台座はいつもの白地ではなく、独特の光沢を持つ和紙を採用することで、展示品の味わいを引き出している。キャプションに使われている用紙は和紙のような風合いを持ち、時の流れを感じさせる。ホワイトキューブとも呼ばれる無機質な美術館の展示空間を、民藝の考え方に沿うように作り変える見事な展示のやり方、それが一番印象に残ったのだった。
そして、結局「民藝」て何なんでしょうねぇ。
骨董品や古美術の世界と重なる部分もあるだろうけど、必ずしも古くなくても良いので、少しはみ出す感じがする。たぶん、個々のモノについて使われる言葉ではなく、誰が何をどうやって作ったか、またそれらのものがどのようにして使われてきたのかという、ライフスタイルに対して使われる言葉、と考える方がしっくりくるのだろう。
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