ほんのり金木犀の香りに包まれて― iichiko DESIGN 展
緊急事態宣言解除で何が嬉しいって、閉鎖していた各地の美術館や図書館が復活したこと。うっかり9月に出かけて(緊急事態宣言による)臨時休館を知り、涙をのんで帰ってきたはるひ美術館。月が変わったのでリベンジしに行ってきた。
見に行ったのは焼酎「いいちこ」の歴代ポスターや雑誌宣伝を一堂に見学することのできる「iichiko DESIGN 」展。河北秀也氏の監修によるこのポスターの歴史は長く、1984年からずっと続いている。通勤や通学の途中、地下鉄の駅に時々現れる「いいちこ」のポスターには何度も心洗われた。
たいていは美しい風景写真の中、まるでかくれんぼでもするかのように、ひっそりと佇む酒瓶。"iichiko"のロゴも目立ちすぎず、画面によく馴染んでいるので探してようやくわかる。「ああ、やっぱりそうだったか」と
地下鉄構内に掲示されるB倍版ポスターは毎月新しいものが出る。それが30年以上も続いているのだから相当な量だ。一方はるひ美術館はコンパクトな建物で、展示室の数も多くないし、広い部屋があるわけでもない。それで前期と後期で分けて展示入れ替えをすることで、展示できる量を確保していた。
さらにポスターの展示ということで、展示室1の作り方が面白いことになっていた。室内に駅構内のような柱や階段、狭めの歩道を設置し、歩きながら壁のポスターが自然に目に入るようにしてあるのだ。そして柱にもコピー。
これは、図らずも(いや、織り込み済みだったのかもしれない)高低差が生じ、人がたまるスペースがなくなることで、密を避けて作品を鑑賞できるつくりになっていた。設計したひとすごいなと思ったら、建築家の人が会場デザインをしたという。どうりで。
さらにびっくりしたのは、全ポスターを掲載したカタログが無料配布されていたこと。はるひ美術館恐るべし。おかげで帰宅してからも美しいポスターをしみじみ眺めることができた。おりしも近所の金木犀が香り始めたばかりで、空気感は最高。
展示室2ではボトルデザインの展示があって、これも河北氏の監修で、ため息がでるほど美しい。プロダクトデザインの極北といっても良いシンプルさ。よいボトルに優れた広告。いいちこは幸せなお酒だ。同じ部屋でTVCMの総集編も見ることができ、決して悪くないCMなのだが、やはりポスターの存在感が際立つ。この展覧会の解説で初めて知ったが、河北氏はいいちこの広報にかかわることすべてを取り仕切ること、しかも製造会社は一切口出しをしないことを条件にしてこの仕事を引き受けたという。
下戸ゆえに、お酒そのものは飲んだことがないけれど、ポスターで十分酔わせてもらった。