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Yの中心でアートと社会が出会うとき

何の話かというと、瀬戸現代美術展2022の話です。
(9月17日~10月23日まで、瀬戸市内の菱野団地で開催。500円のチケットで期間中何度でも観覧できます。駐車場あり。詳しくはhttps://www.facebook.com/seto.cae2022/  にて)

3年前は閉鎖した工業技術試験所で開催され、ものすごいインパクトを残していった瀬戸現代美術展、今回は場所を瀬戸市内の菱野団地へ移しての開催となった。入居が始まってちょうど50年になる菱野団地は、黒川紀章が基本設計を担当したということで、建築関係の人には結構有名ではないかと思う。

地元民にとっては、菱野団地といえば迷いやすいことで有名。というのも道が碁盤の目になっておらず、すべての道路がカーブして予想外の方向へ導かれるからだ。実は、この団地を上から眺めるとYの字型をしており、三本の線の間にそれぞれ八幡台、萩山台、原山台という名前の団地が入っている。Yを形作る線は団地内の幹線道路である。そして三本の線が交わるところ、つまりYの中心に「菱野団地中央広場」があり、受付と出発点がそこにある。

今でこそほとんどの店がシャッターを下ろすかデイケアサービスになっているかであるが、中央広場には商店街があり、郵便局、銀行、行政サービスコーナーもそろっていて、かつてはイベント用ホールもあった。明らかに菱野団地の中心街である。そして興味深いのが、中央広場から3つの各団地へはゆるやかで長い歩道橋がかかっており、車の行き来が多い幹線道路をいっさい渡ることなく移動できるようになってる造りだ。車の動線と歩行者の動線が被らない設計になっていると同時に、立体的な交差が独特の景観を生み出す。車と人を分けるだけでなく、生活エリアと商業・公共サービスエリアもはっきりと分かれており、設計者の理想がそのまま形になったかのようだ。

作られたのが1970年ごろという昭和真っ盛りの時代なので、住民の高齢化が進んだのち、空いた部屋には海外ルーツの人々が多く入り、団地内のスーパーや店は8割方なくなってしまった。が、一周回って昭和レトロを新鮮に感じる若者が増え、団地そのものの設計デザインはまだ生きている。

今回、瀬戸ゆかりの人々が作り出した現代アートの祭典はこういう場所で行われた。

会場は3つに分かれており、最初が商店街の一角、次に商業ビルのワンフロア、そして最後に一番ボリュームが多い施設、真貴幼稚園の旧舎だ(真貴幼稚園は近くに新しく園舎を建て直し、この春そこへ引っ越した)。前回に引き続き、よくぞこんなにうまい具合に展示に使える物件が見つかるものだ。いや、逆なのか。役目を終えて解体を待つばかりの物件は表に出ないだけで実は多いのだろう。

さて、初めましての作家さんもそうでない作家さんも、色々な個性があるなあと楽しんで見てきたので、その中から印象に残ったものを紹介する。何しろ点数が多いので、コメントは控えめにしてガンガン画像を乗せていくのでよろしく(何を?)

その1 中央広場テナント会場(受付があり、チケットが買える)

鷹野健《あつまったものをかさねる》
商店街の看板がまるで麻雀の牌…舞台は廃業した店舗

その2 菱野ウィングビル(トイレが使えるのはココ)

MITOS《間、赤》
よく見ると画面の赤は筆跡らしき筋があり奥深い
栗木義夫《encounter 45 with barrak.》
どこにでも転がっていそうな廃材に命がやどる


昭和レトロな商店街の突き当たり。
目隠しというより、風よけかな。

その3 旧真貴幼稚園(ここがメイン)

城戸保《立体駐車》
この作家さんの写真は廃墟系が多くて大変好み
古畑大気《suberbs》
園児用プールにてこの幼稚園の立地環境の再現、面白い
馬場奈津紀《もう、ひとつの世界》
この幼稚園に通っていた子たちの服を貰い受けて旗に!
木曽浩太《おひるねのじかん》
まずはカーテンで室内を暗くして…
木曽浩太《おひるねのじかん/ぺんぎん》
引き出しをあけるとお昼寝中の動物たちが…!
塚本南波《丸い窓》
室内にあるモノを擬態したテイストは三年前と変わらず楽しい
塚本南波《棟(スターハウス)》
これぞ菱野団地を象った形、Yの字です
植松ゆりか《ほふる園》
3年前からホラー度アップ。恐ろ美しい。天井から下るリボンはあばら骨?
植松ゆりか《ごっこあそび》
お医者さんごっこするにも内臓は空ですが…
後藤あこ《知らない方角》
鏡を利用したトリッキーな面白さ。3年前とは違う方向性
安藤正子《小さい海》
壺の中にはスピーカー。波の音が響いてくる。子供の服が蓋代わり。
小杉滋樹《ギリギリ》
初めましての作家さん。なんだかパワフル。


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