旅の秘訣は、目の前に起こる出来事を川のような心で楽しむこと
自分は怒っている。
ちょうどサンセットの時間になり、夕日が地平線に美しい光を残しているHua Hinの浜辺を歩きながら、少年はそう感じていた。
タイに来て3カ月。
ワクワクと共にこの国に旅をしに来たわけだが、実際どうだ。
そのワクワクを打ち消すようなことばかりじゃないか。
もし”ワクワク度”が火の大きさで例えられるのであれば、いまやそれはキャンプファイヤーをした次の日の焚火みたいなものだ。
街のバイクタクシーは明らかに高い値段を要求し
それに追い打ちをかけるようにカードは使えなくなる。
他にも口を開けば湧き出る温泉のように愚痴は出てくる。
少年はトラブル続きの毎日にうんざりしていた。
というのも、彼が思い描いていた旅とは
少なくともサービスに見合ったお金を要求するバイクタクシーや
少なくとも1ヶ月に1回はお金を下ろすのを許してくれるATMがあることだったからだ。
そう思いながら数メートル先に、いい感じにもたれかかれそうなヤシの木の陰をみつけ、”よいしょ”とため息とともにそこに座った。
さて、今日の夜はシンハ―ビールを飲みながら、パッタイでもいただこうか。
また、あのバイクタクシーに乗らなければいけないのか。
などと考えていると
"Can I sit next to you?"
横から声が聞こえた。
見ると、そこには肌をラテン色に焼いた女性がのぞき込んでいた。
私もそこに座らせてほしいの
少年は旅中は「来るもの拒まず。去る者追わず」のルールを特別に採用しているため、喜んで彼女のために腰をずらして席を空けた。
どうやら彼女は以前までは数年間程世界中を旅していたが、今はメキシコに住んでいるそうだ。
タイには久しぶりに旅をしに来たそう。
浜辺から見るサンセットは素敵ね。
と伸びをしながら話す彼女に少年は心を許し、最近の出来事について話した。
少年が話し終えると、彼女は一言こういった。
旅の秘訣は「目の前に起こる出来事を川のような心で楽しむことよ。」
彼女が”じゃ、そろそろ帰るわね”と言って歩いて去ったあと、少年は彼女の言葉の意味が分かったような気がしていた。
そして、「旅」とはなにかも。
旅とは自分との対話
初めての場所、初めての人、初めての体験を通して、時間をかけながら自分自身と向き合っていくもの。
そもそもよく考えれば、自分は全く違うところにいるのだ。
場所だけでなく、言語も食べ物も、文化さえも違う。
トラブルがあるのは当たり前。
様々なトラブルを川のように、逆行することなく受け入れる。
そして、それを全て楽しむ。
それが”旅をする”ということなのだろう。
人は昔から旅をしていた。
それがいま続いているのは、まだ見えぬ何かを求めていたからだろう。
もう少年の心に怒りはなかった。
目の前に起こる出来事を川のような心で楽しみ、自分と対話していこう。
もう暗くなった海を眺めながら彼はそう誓った。
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