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第4火曜日のレコード・ガイド「黄色と車が印象的なジャケットのレコード」

京都は出町のカフェ・バー・S.O.U.にて、毎月の第4火曜日にBGMがてらレコードをかけるイベントをやっている。そのイベントに合わせてレコード・ガイドの制作を始めた。それがこちらの「第4火曜日のレコード・ガイド」である。ぼくが偏愛している音楽、アルバム、アーティストについての愛と思い出を書き連ねます。第1回は、製作したイベントのフライヤーにちなみ、「黄色と車が印象的なジャケットのレコード」です。


『Magical Mystery Tour』 Beatles

ぼくの初めてのビートルズは「ハロー・グッドバイ」だった。中学1年生になって、初めての本格的な英語の授業が始まった。英語に親しみを持つためか、授業の中で、洋楽をみんなで歌うという訓練があり、その最初の曲が「ハロー・グッドバイ」であったというわけだ。教卓に置かれたラジカセから流れる曲に合わせて「ハローハロー」と歌っていた少年が、10年後に京都のレコード屋で「Magical Mystery Tour」を手に入れていようとは夢にも思わなかった。

景気の良いファンファーレ曲で始まり、この時期のBeatlesにはもれなくついてくる薬漬けでハイになっていたのがよく分かる曲を聴き、その後に控える名だたる名曲たちを駆け抜ける。最後はこれまたファンファーレ曲「All Need Is Love」がかかり、アルバムが終わる。美しい起承転結というか、うまくできたライブのセットリストというか、上品なコースディナーのようなアルバムを聴き終えた後は、なぜか、グレン・ミラーの「In the Mood」か、Beatlesの「She Loves You」のどちらかを聴きたくなるという。



『愛の世代の前に』 浜田省吾

海までドライブに行きたいけれど肝心の車がない。そこで、恋人のお父さんの車を盗み出す計画を立てるためハンバーガーショップで恋人と待ち合わせる。そして夜が更ける頃に作戦を実行し、誰もいない海まで、盗んだ車で街の灯りを背にして走り、夜が明けるまで浜辺でふたり毛布にくるまる。

そんな昔話を思い出したのは、たまたま仕事で懐かしい場所を訪れ、例のハンバーガーショップに立ち寄ったからだ。客はぼくの他に誰もいない。ぼくはコーヒーとハンバーガーをテイクアウトして、昔と同じ道を海まで走る。あの時と違うのは、今乗っている赤い車が自分の車だということと、助手席に誰も座っていないこと。ボブ・ディランの「Like a Rolling Stone」を聴いていると海に着き、浜辺に車を止め、タバコを吸いながら、彼女は今何をしているだろうかということをひたすら考える。

このジャケットにある夜の浜辺と赤いクラシックカーにまつわる物語は、「ラストショー」を聴くまでわからないのである。



『Tradition』 CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN

伝説的なバンドには「解散」と「再結成」がつきものだけれど、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN(以下CHO CO PA)はこの若さにして「解散」と「再結成」を経験しているらしい。というのも、地元の幼なじみ3人組によって小学4年生という若さで結成されたCHO CO PAは小学5年生で「解散」している(Wikipedia調べ)。そして、満を辞して2021年に再結成。本格的な音楽活動の開始という意味でCHO CO PAの誕生を2021年とするならば、このバンドは生まれながらにしてすでに伝説であると言えるのかもしれない。

このバンドの魅力はなんと言っても音の種類の多さであると思う。それも、音楽的ではないただの音を採取して、加工して、音楽にしている。例えば、なんだかわからない像の頭部をポクポク叩いたり、水を張ったグラスの縁を撫でたり、さらにはハーモニカを加えた人間のスネを大きなハンマーで殴ったり(通称:弁慶ハンマー)。だから、彼らの曲の旨味のどこかには、スネの痛みに耐え兼ねた苦痛の悲鳴も隠されているのである。




『T-Wave』 高中正義

白いタキシードと黒い蝶ネクタイを身に纏ったヒゲのおじさん。パームツリーの下に止まった赤いオープンカーには美人外国人女性(名をKATHLEENというらしい)。高中正義の「T-Wave」は見るからに胡散臭いけれど、ぼくはその胡散臭いおじさんっぷりが気に入り、とあるレコード屋でこのアルバムを見つけた時は迷わずにレジへ持って行った。そこには、ギターの名手・高中正義であればハズレることはないという、ぼくの趣味嗜好から来る確信もあった。

ぼくがこのアルバムで特に好きなのが、B面1曲目「My Secret Beach」。瀬戸内海の穏やかな海を散歩しながら聴きたいような1曲だ。そして、この曲はアルバムの中で唯一のボーカル曲で、高中正義自身が歌っているという。ぼくはこの曲で高中正義の歌声を初めて聞いたのだけれど、なかなかムーディーないい声をしているから少し驚いた。高中正義が白いタキシードを着て、ディナーショーでムーディー歌手のように歌っているのを想像するとなんだかクスッと笑えてしまう。



『TAKE TEN』  PAUL DESMOND

レコードコレクションがまだ1枚もないのにも関わらず、思いつきでターンテーブルを購入したぼくに、まとまった数のレコードをプレゼントしてくれたおじさんがいる。たまたま訪れたお店で、ターンテーブルを買ったという話をすると、「これ処分するつもりだったから持って帰っていいよ」とジャズのレコードを10枚ほどくれたのである。その中にはデイブ・ブルーベックのライブ盤や、ソニー・クラーク、”オスピーさん”ことオスカー・ピーターソンなどがあり、うち1枚がポール・デスモンドの「Take Ten」だったのである。

その中でぼくは、特にこのアルバムが気に入っているので、うちではよくこのアルバムがかかっている。特に本を読む時なんかは、歌が入っていなくて、音の数が少なく、テンポがあまり速くない方がいいので、だいたいこのアルバムを選ぶのだけれど、「Take Ten」の途中でデイブ・ブルーベックの「Take Five」と聴き比べたりしているから、あまり読書が捗らなくて困っている。


第21回 第4火曜日のレコード・DJ
2024.10.22 19:00〜
出町桝形商店街内、S.O.U.にて
入場無料、要1ドリンクオーダー

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