有人戦闘機選定とF-35に期待されること―グリペンともドローンとも違う―

珍しく専門に「近い」話をしよう。「F-35じゃなくてグリペンでいいじゃない」「ドローンを大量に入れろ」という議論がつい最近になっても白熱している現状を憂いている。

 日本がF-15戦闘機の後継としてF-35戦闘機を選定したのち、2020年にはアメリカ国務省と国防総省が100機を超えるF-35戦闘機の日本に対する輸出を承認した。この日本の戦闘機「爆買い」は、トランプ政権1期4年の中で一度に最も大量・高額な戦闘機輸出の承認となった(一度に全機そろって納入されるわけではなく、数年にわたって少しずつの納入となる)。この時、「トランプへの忖度だ」「グリペンでもいいではないか」といった議論が紛糾したことは記憶に新しい。
 しかし、この議論が2022年になってもまだされていることには正直疑問を禁じ得ない。持論をうっすら手軽に展開しつつ、ざっくりこの手の議論に反論したい。

 まず、サーブ・グリペンを使用しろ、という議論についてである。スウェーデンのサーブ社が開発・生産を行う戦闘機「グリペン」は、小型軽量、割と高性能であるが、何より素晴らしいのは「運用の柔軟性」と「高度な整備性」だといわれる。しかしながら、日本の周囲の国際情勢は欧州のそれとは異なる。つまり、NATOという強力な価値観を共にする巨大な多国間軍事組織が日本の近隣にはなく、代わりに存在するのはJ-31戦闘機やJ-20戦闘機などの第5世代戦闘機(高度なステルス性と情報通信システム、共同交戦能力を備えた最新鋭世代の戦闘機)の開発・運用を推進する中国、傑作機Su-27をはじめとした航空産業が強く、Su-57といった第5世代戦闘機を要するロシア、背中にはいうまでもなく世界最強の軍事力を誇る米国がおり、世界の中でもハイエンドな軍隊たちが睨みあうのが東アジアであり、日本の航空自衛隊はその最前線で防空を担う要撃部隊である。
 このような状況の中でグリペンに期待できるのは、平時のスクランブルや偵察などであるが、第5世代に比肩しうる戦闘力や拡張性については疑問が残る。少なくともF-35にできてグリペンにできない任務の1つとして、前線の偵察任務が挙げられるだろう。

 さらに微妙なのは「無人機」に関する議論だ。まれに時間あたりの運用コストを比較し「有人機より無人機のほうが安価だから、領空に接近する無人機に対して有人戦闘機2機で迎撃に出るのは愚か」という議論を耳にする。
 これを否定する理由が3点ある。
①有人戦闘機F-35とハイエンドサイズの無人機(MQ-9B)では購入時の1機当たりの単価はほぼ変わらない
②スクランブル任務では発見、追尾、警告、警告射撃から必要に応じて迎撃戦闘まで移行してシームレスに遂行する必要があり、特に後段に行くにつれて無人機では遂行が難しい
③領空に接近する航空機はレーダーでとらえた時点では機体の区別がつかず、相手がどのような航空機なのかは「行ってみなければわからない」
 これらの理由から、もちろん無人機の活用は日本でも検討すべきであることは承知の上で、要撃任務に無人機は現状のところ不向きであるといわざるを得ない。

 なお、「よって日本では無人機が不要である」という稚拙な議論にも筆者は反対する。南西諸島空域の支配を高めるべく平時から無人機を飛ばしてパトロールを強化することはできるだろうし、災害時の情報収集などもわざわざ戦闘機を飛ばさなくともよくなる。

 これらの任務を遂行可能な選択肢としてF-35が選定されたのであれば、合理的な判断だと言わざるを得ないだろう。つまり、単純に「要撃任務用のグリペンと有事の偵察用の無人機」を両方買うよりは、F-35でよいのではないか、ということだ。日本の防衛予算、購入可能な物品には限度があり、その中で日本が期待した役割が最も高いコストパフォーマンスで達成できる(少なくとも今回ネット上で紛糾する視点においては)のが今回の選択だった、ということだ。

日本でどのように軍事アセットを活用するか、という議論は常に詳細に詰めるべきであり、こういった議論が提唱され続けることは望ましいが、何年たっても同じ議論から前に進まなかったり、不毛にもほどがある議論はこれっきりにし、洗練された議論を今後とも行ってゆくようにしたいし、世の流れとしてもそうなるよう期待したい。

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