#0118 仕事を終えて
今日はピアノを弾いた。
幼少期からずっと習っていたが、社会人になってからめっきり弾く機会がなくなっていた。時折、頭のうちに響く、かつての旋律。
今日は仕事が実に忙しかった。忙しくて、家に帰ってからも、なんだか落ち着かないでいた。仕事はとうに終わっているのに、私の心はまだ会社にいた。
ピアノを弾こう。そう思った。そうすることが、今の私を救ってくれるような、そんな気がした。
戦場のメリークリスマス、久しぶりに弾いた音は初めて聴く音だった。初めて自分の音を聴いたようだった。いや、この日生まれて初めて、私は自分の奏でる音楽を聴いたのだった。
これまで、幾度となく弾いてきた、先生の前で、親の前で、見知らぬ人の前で、そして私の前で。
にもかかわらず、私はこの日初めて自分の音を聴いたのだった。今まで聴いてきた音は誰かに向けられた誰かの音だった。上手く弾くために弾いた誰かの音楽だった。
けれども、今日は私のために、私に向けて弾いたのだった。
初めて、私はピアノの音を聴いたのだった。
水が自然と身体に溶け込み、潤いを与えあっていくように、ピアノの音は私の中へ溶け込んでいくのだった。
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