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『ファッションデザインと意匠法の「距離」』を読んで

とってもご無沙汰しております。。。

という、ツイートにすべては集約されているわけですが、すっかり更新がとまってしまいました。そんな中、当業界での勉強会でご一緒させて頂き、いつも示唆に富む御発表、御発言をされている中川隆太郎弁護士 の論考が掲載された工業所有権法学会の学会誌が届き、拝読しましたので、今日は、復習も兼ねて、noteを書きたいと思います。

ファッション業界で知財に関わる人は、必読の内容になっていますので、(非学会員でも購入自体は可能ですので)ご一読されることをおすすめします。

1 概観

『ファッションデザインと意匠法の「距離」』というタイトルや、前半に各種統計が引用されているように、ファッションデザインの保護手段として、意匠法は、あまり選択されません。その保護対象がデザインであるにもかかわらずです。実際、私の所属組織においても、登録数は、3件程度(失効済み)で、取得していないと言ってもよい状況ですし、積極的に取得しているという企業にであったことはありません。毎年の予算編成の時期に、検討にはあがるものの、結局は、様々な理由で、権利取得のアクションまでには届かず、その意味に「距離」ということばは、しっくりきます。

なお、すこし、前のデータですが、中川先生も引用されている「特許庁の委託事業によるファッション分野での意匠出願登録調査」は、他社動向を知るうえで、参考にしています。

2 ファッションデザインと意匠法

 まず、最初に私のこの分野における考えを最初に述べておくと、「無理して取得する性質のものではない」「しかし、根拠をもって取得する価値を見出せるかは常に検討しつづけるべき」です。

この論文(以下、単に「論文」とします)において詳細に分析されているとおり、手続き的(コスト、時間的なずれ、グレースピリオドとの関係)、実体的に、ファッションデザインと意匠法が相性が悪いです。

それは、論文においては、特に、手続き面については、特に以下のとおり、説明されており、そのとおりだと思います。

1シーズンあたりのデザインのバリエーションや商品数が非常に多いため(略)、すべての新しいデザインについて意匠登録を目指して出願手続きを行うことは、出願・登録費用の面で出願に要する労力(略)との関係で非常に大きな負担となり、とても現実的はありません。
「売れる商品デザインに絞って意匠出願すればよい」という議論は、極論すれば「当たり馬券だけ買えばいい」という議論に近く、現実的には難しい側面がある。
(アパレル商品の販売期間は3ヶ月で、意匠の比較的長い審査期間を考慮すると※10ru要約)「出願しても、タイムリーに活用できないのではないか?」という疑念が拭えず、現場でも二の足を踏むことになりやすい状況です。

従前では、上記の点に加えて、ファッションショーや展示会がとの関係で、短いグレースピリオドが障害になっている点が挙げられていまいましたが、論文の指摘のとおり、平成30年改正によって、(問題は残しつつも)、この点はかなり解消されたと、私も評価しています。それでも、いまのところ、出願していないので、まだまだ、問題はあるということかと思います。

この点の特に、出願対象の選定については、私の中で、チャレンジ(試案)の一つとして、MD(アパレル企業の仕事の役割の一つである、商品企画立案の業務)の業務の中に組み込めないかといことを考えています。アパレル製品は、商品数(バリエーション)が非常に多く、季節性も強いです。そこで、ブランドコンセプト(ポリシー)に基づいて、そこから導きだされるターゲットに向けて、(流行を取り入れたりしながら)、商品の構成(感度が高めな商品、定番品等々)を決め、カラー、素材を決め、マッピング、ストーリーを決め、価格を決めていく作業を、シーズンごとに行なっていくわけですが、この商品構成決定プロセスにおいて、知財権取得コストを踏まえ、設計していくということができないかと考えています。

実際に、アパレル企業以外では、パテントマップやポートフォリオに代表されているように、行われている作業だと思うのですが、ファッション業界においては、商品数の多さや、デザインであるという点から、このような分析はされていないと考えており、ここに活路がないかと考えています。少なからず、検討したことはあるのですが、現実問題として、権利すべき(利益の根幹になりえる)商品は定番品である点が挙げられます。定番品というのは、デザインとして一般的で(市場に受け入れられやすい)あるものが多く、つまり、意匠として、権利化しづらい、特徴の少ない商品となりやすく、このあたりが、もっと、詳細な検討をしていきたと思っています。(なお、検討した上で、やはり、権利化しなくてよいね、という分析にはなり、それはそれで有用と考えています)

次に、実体的な相性の悪さについてです。

この点の精査されている論考を、かなり少ないのではないかと思います。特に、テキスタイルの保護について、論文に指摘されているとおり、物品を跨いだ利用関係(意匠法26条)の成否が、非常に重要であると思いますし、この点は、判例の積み重ねも含めて、今後、もっと検討されてよい様に思います。学習机事件(昭和46年12月22日判決)に関する、

①利用する側の意匠が登録意匠(又は類似する意匠)の全部を包含していること、及び②登録意匠(又は類似する意匠)の特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別しうる態様によって包含していることをが必要とされてきました。そうすると、織物地自体と、その織物地(又は類似の織物地)を仕立てた衣服やバッグ等との間で「その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別しうる態様において全部を包含」しているとの関係が成立しているか、必ずしも判然としません。

という、論文の指摘(危機感?)は、そのとおりだと思います。

そのほかにも、論文では、著作権法との関係についても、述べられています。


おそらく、紙面(というは、論文自体が、学会発表をベースにしたものですので、時間の都合でしょうが)都合だと思いますが、不正競争防止法との関係の分析も、ぜひ、機会を改めて、また、お聞きしたいなと感じましたが、この分野の、今の状況をキャッチアップするには、不可欠な論文と思いました。大変勉強になりました。ありがとうございました。

もう少し書きたいことがるのですが、時間制限を課して、書いているので、いったん、終わりにします(笑)また、書いてみるかもしれないですし、書いてみないかもしれません(笑)



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