ファッションローとハッシュタグ IP_AC
まる@弁理士さんに続きまして、知財系のアドベントカレンダー「知財系 もっと Advent Calendar 2021」に投稿をさせていただきます、アパレル企業で法務知財を担当している10ruです。
今年も、法務アドベントカレンダーとのダブル投稿をしましたので、ご興味お持ちいただけましたら、こちらの「企業内法務担当者向けアカデミック活動のススメ」もご覧いただけると嬉しいです。知財アドベントカレンダーに関しては、昨年に引き続き、ファッションローに関する話題を書いていきたいと思います。ファッションローって何?という方は、もしよければ昨年のアドベントカレンダーをお読みいただければ嬉しいです。
今回のテーマは、ファッションローとハッシュタグ です。ファッション業界・アパレル業界における広告宣伝(PR)のツールとしてSNSは欠かせないものになっています。例えば、あらゆるアパレルブランドが、ブランドのオフィシャルアカウントを持ち、所属する販売員やPR担当は個別のアカウントを持ち、毎日のように、シーズンビジュアル、コーディネートを投稿します。
ほかにも、『モデルの◯◯さんとのコラボアイテム!』という商品は多くありますが、これは、このモデルの方とコラボする=著名性に乗ることは、もちろん、このモデルの方のSNSでも商品を紹介してもらうしてもらえることが期待されています。結果、一般的な周知性より、SNSのフォロワー数が重視されることも多くあります。
そのような状況で、SNSの広告宣伝ツールとしての機能をより強力なものにしているのが、ハッシュタグ(という機能)です。このハッシュタグをファッションロー的な視点で、今回は、取り扱っていきたいと思います。
1.ハッシュタグって何?
まず、ハッシュタグとは何かという話ですが、簡単に言ってしまうと、SNSにおいて特定の言葉をハイパーリンク化する機能です。用途は、以下のように、様々です。
(1)投稿
SNSを投稿する際に、関連する(させたい)言葉をハッシュタグ化し、投稿内容に含めることで、同じハッシュタグを持つ投稿と関連づけ、共通の関心事をもつ人に自分の投稿を読んでもらいやすくします。例えば、知財アドベントカレンダーで、共通のハッシュタグ「IP_AC」が用いられていることを指します。なお、インスタグラムにおいては、ハッシュタグが多く用いられている投稿は、いいねを獲得しやすいとされています。
(2)検索
近年は、グーグル等の検索に加えて、SNS内の検索もよく行われています。この場合、ハッシュタグ化されている言葉を検索することで必要な情報に精度高くアクセスすることができます。また、インスタグラムにおいては、ハッシュタグ化された言葉をフォローすることもでき、フィード(タイムライン)に特定のハッシュタグが付されている投稿を表示させることもできます。(ツイッターで#知財塾 を検索)
(3)表現方法
上記が一般的な用途ですが、ほかに、文章のように長いハッシュタグや複数のハッシュタグ化された言葉で文章を構成するものがあります。あまり深い意味はないようですが、「#」をつけることが、いわば、強調表現になっており、その文章を印象付けようとする意図があるようで、一つの文章表現の手法になっているように見受けられます。なお、もともと文章の一部としてハッシュタグ化された言葉は、使われていまおり(例 これは #IP_AC の投稿です。)、この発展系ともいえるのではと思います。
2.ハッシュタグと商標法(不正競争防止法)
(1)法律上の整理
ハッシュタグについて、上記の通りSNSにおける広告宣伝機能の一つととらえると、商標(不正競争防止法)との関係で、特に、整理が必要といえます。
この点で、2021年の注目すべき判決として 「#シャルマントサック」事件 が、あります。この判決は、おそらく初めてハッシュタグの商標権侵害について判断したものです。本判決は、メルカリ上で、ハンドメイド品を販売する際に、ハッシュタグ「#シャルマントサック」を使用した被告に対して、商標「シャルマントサック」を有している原告から、差止請求され、裁判所がこれを認めらた事件です。
裁判所は、類否について『記号部分(ハッシュ部分)は一見して明らかに記号であるため、特定の称呼を生じることはないと思われる。そうすると、本件商標と被告標章とは、称呼において同一であると認められる。仮に上記記号部分につき「ハッシュ」ないし「ハッシュタグ」又は「シャープ」の称呼を生じると考えても、本件商標と被告標章1 とは片仮名部分において共通することから、なお、両者は称呼において類似するといえる。』とし、ハッシュ記号を考慮しませんでした。
その上で、このような使用が商標としての使用に当たるかという点については、『①記号部分「#」は、商品等に係る情報の検索の便に供する目的で、当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であることを示す記号として理解される。このため、被告サイトにおける被告標章の表示行為は、メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等に「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより、被告サ イトへ当該利用者を誘導し、当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われていること、②被告の表示は、メルカリ利用者が検索等を通じて被告サイトの閲覧に至った段階で、当該利用者に認識されるもので、利用者にとって、それが表示される被告サイト中に「シャルマントサック」という商品名、ブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識することになり、「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものであるとの認識も当然に含まれ得る。 』としました。
商標的使用とは、一般的に商標が有する機能を発揮しているか否か、発揮していないのであれば、形式的に商標が使用されていたとしても権利侵害に当たらないとする理論です。本判決において、登録商標をハッシュタグとして使用することは、商標としての使用であることが明確になった点が、非常に重要といえます。
(2)実務的な影響
上記判決を踏まえ、実務的な問題に触れたいと思います。上記判決は、メルカリというプラットフォーム内で発生している事案ですが、SNS特にインスタグラムにおいては、直接購入できるショッピング機能が実装されたり、BASE等のECへの送客導線をなっているアカウントが多くあります。そのため上記判決の事情と同じように、ハンドメイドショップやリメイク商品を取り扱っている場合(業としてにあたるか、リメイクの程度による商標権侵害該当性等の別の問題も包含していますが・・)、ハイブランドのハッシュタグを全く関係のなショップが送客目的で付すケースは多く、商標権者側にとっては、有効な判決となったといえます。この判決を根拠に投稿の削除、ハッシュタグの使用停止は言いやすくなったと考えています。
一方で、今後、メルカリがプラットフォーマーとしてこのようなハッシュタグの使用の削除要請を受けた時に、削除に応じるかどうかというのは興味深いと思っています。ハッシュタグはメルカリの利便性を非常に上げている機能ですし、例えば、#〇〇〇〇(ハイブランドの名称)を多く無作為につけ、高級ブランドを多く取り扱っていることを示すために画一的に当該ハッシュタグを使用している場合でも削除に応じるのか等ケースの蓄積を見ていきたいと思います。
(3)実務的な課題
この判決を受けても、いくつかの課題は残っているものと考えています。
①文章的に使用されるハッシュタグ
まず、商標的な使用ではないと判断されるものの典型例が文章中の登録商標の使用です。例えば、説明的な文章や記事の中で登録商標を使用しても権利侵害とされることは、原則的にありません。しかし、先に書いた通り、ハッシュタグ化された言葉は、SNSの投稿中に文章の一部又は全部として利用されることはよくあり、この判決との関係で、今後、どのように評価されるのかは検討し続ける必要があると考えています。個人としては、従来は商標的な使用ではないと評価されていた文章中の利用も、本判決中のハッシュタグの評価である「商品等の販売を促進する目的」から導いて、商標権侵害と評価すべきではないかと考えています。
②指定商品との関係
次に、指定商品の問題があります。ファッションブランドにおいて、SNSが重要な広告宣伝ツールであることは記載した通りです。そのため、ブランドのオフィシャルアカウントやそのインフルエンサーのアカウントは、必ずブランド名をハッシュタグ化したものを付して投稿をします。
一方で、(当たり前ですが)当該ハッシュタグが誰でもどのようなアカウントでも使用することができ、まったく関係の無い投稿にそのハッシュタグを付けることも可能です。以前、複数のラグジュアリ―ブランドの最新投稿100件のうちどの程度、まったく関係のない(企業個人に関わらず、そのブランド名をに関する事象がその投稿内にまったく含まれていない)投稿がどの程度あるか調査したところ、多くのブランドの60%以上の投稿が当該ブランドと関係のない投稿となっていました(私はこれを汚染率と呼んでいます)。
こうなると、届けたいお客様へ届けたい内容を投稿しても適切にリーチできているか疑問です。(表示にかかるアルゴリズムの影響はうけるものの)前記判決によれば、商標権侵害に該当するような投稿を排除することができますが、ハッシュタグは指定商品を超えてリンクするため、まったく関係の無い、多くの投稿に自社ブランド名称のハッシュタグを付されてしまうと、フィード(タイムライン)が汚染されてしまい広告宣伝に影響がでるという問題は、依然として解消できていません。実際にあった事例としては、アパレルブランドのハッシュタグを検索しても表示されるもののほとんどが商標法上まったく関係の無い役務である美容室のアカウントの投稿になってしまうというものがあります。美容院側から見ると、ファッションブランドのハッシュタグを付すことでそのブランドが好きな女性に似合うカットを提供できるという広告宣伝に利用できることになります。
この問題は、登録商標をハッシュタグ化したときの、法的に予定されている機能と、技術的な機能との乖離から生じる問題であり、SNSの特殊性と広告宣伝ツールとしての重要性を踏まえて、今後の検討課題であると認識しています。
3.ハッシュタグと著作権法
ハッシュタグは1で書いた通り、表示として機能する場面が中心ですが、創作的な表現として使用される場面があることは否定できません。SNSの機能上の制限として、使用できる文字数は、ツイッターで100文字、インスタグラムで99文字のようですが、ここまでの数はないものの、格言やスローガンと言ったある程度の文字数を含む言葉がハッシュタグにされているケースは見かけます。交通標語事件、スピードラーニング事件、YOL事件等、短い文章であっても、著作物性が問題となるケースは、ありますので、流行りの表現で、ある程度の語数をもつ場合は、(特にただ乗り目的で)利用にあたって、注意が必要かもしれません。
また、歌の印象的な歌詞の一部を見かける場合があります。特に、最近、流行しているショート動画(数分程度の動画で拡散されやすい)では、歌唱も伴い利用されていますが、こちらは、多くのSNS運営会社が利用許諾契約をジャスラックと結すぶことで解決されているようです。
4.ハッシュタグと景品表示法
(1)優良誤認
今年、SNSを用いたサプリメントの広告宣伝に関して景品表示法違反(優良誤認)と判断され、ハッシュタグの記載内容について言及されたおそらく初めての事案がありました。
具体的には、サプリメントを販売する企業が、15名のインフルエンサーに、「#バストアップ」「#胸大きく」などハッシュタグ付きのキーワードを商品の写真とともに投稿するよう指示し、消費者庁が豊胸効果を示す根拠の提示を求めたが、示されなかったというものです。全国の消費生活センターには、「効果がない」などの苦情や相談が約1800件寄せられようです。
優良誤認は、商品・役務の品質、規格その他の内容について著しく優良であると誤認させる不当表示を指します。本件との関係では、ハッシュタグが、景品表示法上の表示に該当するかどうかという視点があり、通常、同法上の「表示」は、 顧客を誘引するための手段として、事業者が、自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う、広告その他の表示とされ、例として、包装、ポスター、CM、ウェブサイト等があげられるところ、ハッシュタグがここでいう表示にあたるということ、及び、具体的に付されているハッシュタグの内容が、実務的に非常に参考になります。例えば、以下のようなハッシュタグが「表示」を構成しているものとして言及されています。「#ジュエルアップ」、「# jewelup」、「#バストアップ」、「#バストケア」、「#ボディケア」、 「#育乳」、「#美乳」、「#美容」、「#女子力アップ」、「#マシュマロボ ディ」、「#美ボディ」、「#サプリメント」、「#バストアップサプリ」、「# バストサプリ」、「#バストアップ効果」、「#バストアップしたい」、「# 魅力アッ」、「#胸大きく」、「#bustup」、「#bustcare」 及び「#bodycare」
前述のようにインフルエンサーを起用したマーケティングが一般的になりつつあります。しかし、インフルエンサーによる商品紹介は、ステルスマーケティングと評価される可能性が否定できず、ステマと思われないようにするために、業界団体であるWOMJがガイドラインを漫画化したものを公開していますで、この点も、注意が必要であり、ガイドラインがとても参考になります。
5.ハッシュタグとパブリシティ権
最後に、パブリシティ権との関係についても、少し言及しておきたいと思います。パブリシティ権は、一般的には、「著名人が社会的に 著名な存在であって、顧客吸引力を有することから、経済的利益・価値を生み出すことになり、このような経済的利益・ 価値もまた、人格権に由来する権利として、当該著名人が排他的に支配する権利」とされている氏名・肖像を対象とする権利であり、ファッション業界においては、ショーや素材の広告宣伝素材の被写体、芸能人とのコラボレーション商品との関係などで処理が必要な権利です。
ハッシュタグとの関係では、当該芸能人が一緒に撮影されている写真、テレビ出演・雑誌掲載の事実を告知するような場合などでブランド名と併せてハッシュタグ化された芸名が使用されているケースを見かけます。例えば、コレボレーション商品を制作する契約等、当該ハッシュタグを使用する前提となる契約が存在すれば、問題にはなりませんが、単に自社の商品を着用してくれているだけの明確な契約関係がない場合等にそのようなハッシュタグで自社アカウントにひきつける行為は、まさに芸能人の顧客吸引力にただ乗りする行為であり、注意が必要と考えています。私の知る限りでは、このような事例で裁判になった事例はないものと認識していますが、業界慣習の強い、芸能・ファッション業界では、問題になる可能性は否定できないと考えます。(同じくらい、人的なつながりが取引に強い影響をあたる業界であるため、〇〇さんなら、大丈夫といった法務泣かせな結論もあるところですが笑)
5.最後に
極めて冗長な内容になってしまいましたが、ハッシュタグに関わる事例は今後も増えていくと思いますので、引き続き、情報収集して、深く検討していきたいと思います。少しでも業務の参考、何かのヒントになれば幸いです。
(なお、ハッシュタグは、♯(シャープ)ではなく、#(ハッシュ、いげた)のようですが、判決文みると、ちょっとよくわかりません 笑)
次は、Fubuki|「医薬系"特許的"判例」ブログ さんです。
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