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マルチリンガルになりたいのでHHKBを買った話

こんにちは。突然ですがHHKBというキーボードをご存知でしょうか。
キーボードと言っても楽器ではなく、コンピューターに文字を入力するためのデバイスの方です。
ただ、HHKBは静電容量無接点方式という方式を採用しており独特の打鍵感と「スコスコ」や「コトコト」と形容される打鍵音が人々を魅了していてもはや楽器なのではないかという説も存在しています。

キーボードなんて文字を打ち込めればそれでいいじゃんとも思うのですが、仕事にプライベートに毎日使う道具にこだわってみるのも生活の質を上げるために必要なことではないかと考え、高級キーボードと呼ばれるHHKB Professional Hybrid Type-Sを購入しました。
とはいえ、特にこだわらなくてもよいものに4万円近くお金を使うのは勇気がいることで思い返すと5年近く買うか買わないか迷っていました。
ずっと迷いに迷いついに購入に踏み切ったので、これを読んでいるあなたも道連れにするために購入に至った理由を書き記しておこうと思います。

前置きしておきますが、HHKBを買ったからといってマルチリンガルになれるわけではないのでご注意ください。

HHKBとは

繰り返しますが、HHKBとはパソコンに文字を入力する装置、そして音を奏でる楽器としてのキーボードです。
静電容量無接点方式という機構を採用しており、底打ち感のない打鍵感が特徴です。
巷では変態配列と呼ばれる1日中キーボードに触れるようなエンジニアのために最適化されているとのことですが、正直僕はエンジニアではないのでそこらへんはよく分かりません。
ただ素人が触った感想として、これまで価値を見出すことができなかったCapslockキーの場所にCtrlキーが設置されているのでホームポジションを崩さずにショートカットキーを扱えるようになったのはありがたいなと思ったりもします。

キーボードは多くの人が毎日触れるデバイスなので、ものすごいこだわりを持つ人もいて、キーボード沼なるものも存在するようです。
キーボードにこだわりたいと言ってHHKBを買ってそのままキーボード沼にダイブしていく人もいると聞きます。
一方で一度キーボード沼に首まで浸かったのちに結局HHKBに戻ってくる人もいて、HHKBは沼の入り口であり出口でもあるという可能性もありそうです。

個人的にはキーボード沼にハマっているほどの余裕はないので、周りをキョロキョロせずにせっかく手に入れたHHKBと向き合いたいと思っています。


キーボードにこだわりたくなった理由

唐突ですが、僕はいわゆる国際協力業界で働いています。
「国際」という名から想像が容易いように英語を使いながら仕事をしています。
また、この業界では英語の他に業界でメジャーな言語を話すことが求められる場面が多くあります。

実際には英語(と日本語)でなんとかやっていくこともできるのかもしれませんが、元々終身雇用がなく人材の流動性が高い業界であるうえに、最近は平たく言えばみんな自分のことで大変なのでどこも資金不足でポジションも減っているため競争は激化しています。
周りの人が英語に加えて2-3か国語を操って仕事をしているなかで、英語だけで勝負できるほどの専門性などがあればよいですが、それもないのでひとまず周りと同じ土俵に立てるように何らかの言語を勉強する必要があります。

僕自身大学では第二外国語でフランス語を勉強していましたが、あまり興味が持てずに何も学ばないまま卒業しました。
大学院のころから3年くらいアラビア語を勉強しましたが、なかなか身につかず今も趣味程度に勉強?を続けています。
最近はやはりフランス語を話せないとキャリアのどこかで詰みが生じるという予感というか焦燥感に駆られて10年ぶりくらいにフランス語の勉強を再開しました。

ここでようやくキーボードの話に戻りますが、日本で購入したキーボードやラップトップの多くは日本語配列になっていて、アルファベットの他にひらがなが書いてあったりするのではないでしょうか。
これは勿論、他の国に行けば勝手が変わり、アラビア語圏ではアルファベットに加えてアラビア文字が書かれていますし、フランス語圏ではアルファベットを使いますが、文字の配列が変わったりします。
英語キーボードや日本語キーボードは「QWERTY配列」、フランスのフランス語キーボードは「AZERTY配列」と呼ばれています。

Windowsで他の言語圏のキーボードを使用したい場合はキーボードのレイアウトをインストールすれば手持ちのキーボードで使用することができます。
しかし、ソフトウェアの内部ではキーボードのレイアウトは変わっていますが、ハードウェアの記載が変わるわけではないので混乱が生じます。

例えば、アラビア語配列で「@」を押したい場合はShiftキーを押しながら数字の②キーを押すことになりますが、日本語配列のキーボードには「”」が書かれています。
反対に日本語配列で@が書いてあるキーを押すとアラビア語の「ج」が入力されてしまいます。フランス語配列で「A」を押すためには日本語配列キーボードの「Q」を押す必要があります。

頭が混乱しませんか?

初めてアラビア語を勉強しはじめたときにこの壁にぶち当たりました。
どうしたかというとSurface proを使用しているのでアラブ首長国連邦のオンラインショッピングサイトでアラビア語のSurface pro用のタイプカバーを取り寄せて、アラビア語を打つときはアラビア語配列のタイプカバーに付け替えて入力していました。便利。
日本語配列はブラインドタッチができるので、次第にアラビア語配列のタイプカバーをつけたままにして、手の感覚だけでキートップに書かれた文字とは違う文字を打てるようにもなりました。

サウジアラビアから取り寄せたSurface Proの
アラビア語タイプカバー
アラビア文字が美しい


無刻印とマルチリンガル

前述のとおり、これまでは入力する言語を変える際に物理的にキーボードを取り換えることで対応してきました。
しかし、この物理的にキーボードを取り換えるのはSurface Proの環境でしか使えないのと、フランス語もラインナップに加えて3つのタイプカバーを使い分けるのも面倒くさい。

そこで白羽の矢が立ったのが無刻印のキーボードでした。
無刻印であればソフトウェア上でキーボードの設定を変更してしまえば手元のキーボードはたちまちそれに対応したキーボードになるし、キートップには判断を誤らせるような余計な情報もありません。
修羅の道ではありますが、増やしたソフトウェア上のキーボードの数だけブラインドタッチをできるようになれば言語の数だけキーボードを物理的に増やしたも同然です。

つまり3つの言語(キーボード)を操ることができればHHKBは実質1/3の価格で購入することが可能です。
使える言語が増えれば値引き率はどんどん上がっていきます。お得!
HHKBはエンジニア向けのいわゆる理系製品だと言われていますが、多くの文系も含めたマルチリンガルになりたい人にも非常にオススメということが証明されましたね!

因みにHHKBはキーマップ変更ツールを使って任意の文字を任意の場所に変更することができます。
例えば僕の場合、日本語配列HHKBの左上はデフォルトではEscキーになっていますが、どうしても日本語入力と半角英数字入力の切り替えに使う癖が抜けずにキーマップを変更してます。
キーマップを変更しても刻印ありキートップだと手元の刻印はそのままで混乱を生じさせるだけなのでキーマップを変更するつもりの人は最初から無刻印を買ってしまったほうがいいかもしれないですね。
キーマップ変更の試行錯誤は別の記事で紹介する機会があれば良いなと思いますが、この変更はHHKB本体に記録されるため、接続するPCを変えても自分が変更した設定のまま使うことができます。


日本語配列か英語配列か

HHKBには無刻印か刻印ありかという選択のほかに、日本語配列か英語配列かという大きな選択も迫られます。

英語配列は究極に合理化が目指されていて、キーの数も60個で69個の日本語配列に比べて9個少なくなっています。
そのため独立した矢印キーがなかったり、Fnキーと組み合わせる必要があったり少し癖が強くなります。

この選択は少し迷いましたが、普段の自分の生活を振り返り、矢印キーは結構使うなという実感があったのと、キーが多い分だけキーマップ変更の余地があるのではという思いに至り、日本語配列を選びました。
英語配列はミニマムなデザインですっきりとしているのですが、小さな筐体にキーボードが所狭しと並んでいる日本語配列の方が個人的に好みだったという点も日本語配列購入にいたった理由でもあります。
これまで使ってきたキーボードがずっと日本語配列だったこともあり、初めての60%キーボードでしたが後述する部分以外は特に大きな躓きはなく使えています。

ただ、無刻印モデルの販売は英語配列のみで、日本語配列を無刻印で使いたい場合は刻印ありモデルを購入し、別売りされている日本語配列用無刻印キートップを購入する必要があるので余計にお金がかかるのと使わない刻印ありキートップが手元に余るというデメリットがあります。


使ってみて気が付いた無刻印のむずかしさ

この投稿を書いている段階で無刻印HHKBを使用して1ヶ月ほど経っているのですが、おおむね満足しています。
特に打鍵感は最高で、キーボードを打つために仕事をしていると言っても過言ではありません。

ただ、今のところ普段は英語と日本語しか使わないので日本語配列でのみ使用していますが、思っていたより無刻印の難しさを感じる場面もあります。

自分ではブラインドタッチは出来ているつもりでいました。実際にアルファベットの入力では特に困ることはありませんが、意外と一番上の段に配置されている数字のブラインドタッチが出来ていないことに気が付きました。
特に5-8くらいの数字を打つときに誤って隣の数字を打ち込んで削除して打ち直すことも多いです。
小学生の頃、タイピングを練習したときに使ったソフトはアルファベットだけで数字の入力はサポートされていなかったから仕方がないですね。

また、HHKBはホームポジションを崩さないように設計されており、それがゆえに省エネで高速なタイピングが実現できます。
更に高みを目指すのであれば、あらゆるショートカットを覚えてキーボードから手を離さずに仕事を出来るようになる覚悟が求められるのでしょう。
外資系コンサルに転職した知り合いから、初日にPCからマウスを抜かれてこれで仕事をできるようになれと言われて驚いたという話を聞いたことがありますが、合理性を求めるとそういう風になっていくのでしょう。

しかしなかなかそのような覚悟を決めるのは難しく、マウスを使うことも多いです。
時には片手にスマホや紙の資料を見つつ、もう片手でPCを操作するというような場面も意外とあります。
そういったときにキーボードに刻印がないと困るなと思う時もあります。

僕のブラインドタッチはあくまでもホームポジションに両手が置かれている前提で習得されていて、例えば右手でCtrl+cを押そうと思うと「C」のキーがどこだか分からなくなり「X」や「V」を押してしまうのです。
その他キーボードの右側に配置されている記号もよく分からなくなります。


良いキーボードを買ったからといってマルチリンガルになれるわけではない

最後に繰り返しますが、HHKBという強力な武器を手に入れたからといって自身の言語スキルがあがるわけではありません。
それどころかキーボードに直接関係しそうなタイピング速度も別に速くなるわけでもありません。

しかし、仕事や勉強に使う道具にこだわることで向き合う姿勢がポジティブになり、より楽しく働いたり学んだりすることができます。
(そうでも思わないとキーボードに4万円使った自分の精神状態を保つことができない。)

HHKBはエンジニアやライター向けという言説は多いですが、複数言語を勉強しているそこのあなたも、無刻印HHKBという玄人の沼に入り込んでみませんか?というお話でした。

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