ニュージーランドで銃撃事件が発生した

日本人におけるニュージーランドのイメージは羊に占領された遠い遠い島国だと思っているのだが、実際はそれなりに近代化が進んだ国でもある。

しょっちゅう停電はするし豪雨になればそこかしこで土砂崩れも発生するが近代国家の一つとしてTPPなどのリーダーシップが欲しくて仕方がない国と言ってもいいだろう。

何年も前にクライストチャーチで発生した虐殺事件、その後にオークランドで発生した警察官射殺事件と重犯罪も度々おこっているが、先日ニュージーランドの最大の商業都市であるブリトマート近くのビルで銃撃事件が発生した。

犯人を含む3名が死亡、その他に6名以上の負傷者を出したが、高層ビルの中で起きた事件のため、屋上で作業者を警官が守っていた。これはビルの中に仲間がいるかもしれないからだ。逃げ延びた作業者たちはやること無いので食事しにいったようだ。

ニュージーランド・オーストラリア共催女子ワールドカップの初日に起きたこの事件はワールドカップフィーバーによって早々に忘れ去られるかもしれないが、この事件が示す深刻な問題が少なくとも1つ、大目に見ると3つ以上はある。細かな問題は数限りなくある。

この先の話をする前に犯人について少しかいておくことにする。

銃撃犯はMatu Tangi Matua Reidという24歳の若者で、名前を見る限りはマオリ系の若者に見える。

彼は実はドメスティクヴァイオレンスに伴う自宅謹慎中であったが、家賃を払わねばならないために、「自宅と職場の往復に限り」外出が許可されていた。これはニュージーランドでは一般的なようだ。

暴力の内容については記事にも書かれていたりそこかしこで紹介されているので細かくは言わないが、首を絞めるという最高で懲役7年になるらしい行為にまで及んだにもかかわらず再犯の危険性はないとの判断で自宅謹慎になった。

そんな彼がどうやら狙いを定めた二人を殺害するために、どこかで気づかれないように銃を手に入れて殺害に及んだ。殺害後この若者はビル内に立てこもったが、警官との銃撃の末に射殺された。

気になることの一つはニュージーランドにおける銃規制が機能していなかった点だ。

犯人のReidは足にGPSをつけられていたので行動は常に監視されていたにもかかわらずどこかで銃を手に入れることができた。怪しい箇所はいくつかあるようだが、「それが可能な状態」ということでもある。

そしてこれが議論を再燃させることになった。当然のことだろう。

ニュージーランドでは2019年のクライストチャーチ銃撃事件まで誰でも容易に銃を手に入れることができたのだが、この事件を契機として銃規制を開始した。それまでは誰がどの銃を何丁持っているかすらわかっていなかったので、今更規制をしたところで正直者が銃を正しく管理するようになるだけだろう。

こちらに一応銃規制についてのサイトを掲載しておくことにする。

2019年の改正時に、改正に伴って禁止になった銃器を買い戻すということも政府は行ったのだが効果はわからない。買い戻した銃器の数は発表されているが、割合は示されていない。

そして今年の6月の改正でどうも所有者の追跡を可能にしたようだ。つまり、2019年の銃規制、どうも海外ではジャシンダ・アーダーンを称賛するネタの一つだったもの、が最近になってやっと銃の所有者を記録する改正がなされたらしく、2019年の銃規制は一体なんだったのかといえば「法的に禁止する種別を定めで所有者から買い戻す」というものでしかなかったと言っていいだろうし、そもそも追跡できていなかったのだからできたかどうかなんて言うのはわかりようがない。

2021年の記事によると、600万ドルを超える予算を計上して行ったこのプロジェクトは6万丁の銃器を回収して、250万ドルくらいが支払いに充てられたのだが残った350万ドルはどこに行ったのかは知らない。

いずれにせよ「銃を手に入れようはずもないReidが監視の目をかいくぐってどこかで銃を手に入れて強行に及んだ」という背景から、ニュージーランドの銃規制が機能していないのではないかという問題が再燃している(今更感がすごい)。

今回の事件についてのいくつかの問題提起がなされた記事がある。

まず、Reidのドメスティックバイオレンスが「再犯の危険性なし」で自宅謹慎に留め置かれたのは本当に適切だったのか?だ。

なにかの一言が引き金になった彼は自分を制御することができなくなり、女性の顔面にものを投げつけて怪我をさせ、ベッドの上で馬乗りになって首を絞め、その後も暴行を続けた。

そんなやつは死刑にしろとまでは言わないが、単なる自宅謹慎以上の何かは必要だっただろうと思うのだが、この記事では「犯罪歴がそれほどあるわけでもないから」というのが理由だったようだ。

ニュージーランドはひたすらエビデンスに基づいて判断をする国なので、エビデンスがなければ何もないと判断されることは気をつけたほうがいいだろう。

裁判官や周辺の人々が「常識」で判断することはない。非常識だから死刑などということは流石に許されないが、ここまで常軌を逸した暴力に一足飛びに及んだ人に対しての判断ができないということはあまりにも危険だ。

この事件を受けて我らが首相クリス・ヒプキンスは何をしたかというと、この事件の直後に交通事故を起こして政治家が逮捕されて今は火消しに大忙しだ。

逮捕された政治家はキリ・アランという

要は警官にとまれといわれたのに無視して運転を続けて逮捕されたということのようだ。キリアランは将来を嘱望されていたが、これでキャリアの一切を失うことになった。

クリスヒプキンスが何をしたかというと、正直政治家としてできることはないので、被害者や犯人、対応にあたった警官にメッセージを送っただけのようだ。

クリスヒプキンスが首相になって以降、この国はなにかに祟られたかのようになっているが、レイバーに吹き付ける逆風は10月の選挙を踏まえてどのように働くのか興味津々だ。

私はブログの終わりをいつも「ニュージーランドに来ることはおすすめしない」とかいているが、これは別に定型句としてかいているのではなく、ジャシンダ・アーダーンが首相になって以降この国の状況がどんどんと悪くなっていることを踏まえて本気で言っている。

10月に行われる選挙で何が起きるのか、支持率の低迷したナショナル、レイバーが一体どうなるのかというのが問題だ。

こちらの記事によると、ナショナルとアクトの2党で45%くらいになるということが書かれているようだ。そしてレイバー、グリーンの2党で40%と書かれている。ちなみにマオリ党は7%とかなりの躍進をしているようだ。

レイバーとナショナルは支持率がどちらも30%台しかなく、極右、極左政党がかなり力をつけてきていることがここからうかがい知ることができる。

これまでの選挙でパターンとして起きてきたことを大雑把に言うと以下のようになる。

  • 大体の議席はレイバーとナショナルが獲得する

  • レイバーとナショナルはそれぞれの陣営と親和性の高いアクト、グリーンと連立する

  • マオリ党は固定議席分をもらうがそれを超えることはまずない

  • ニュージーランドファーストがバーター取引で力を持ちかねない危うさを常にはらんでいる(前々回の選挙で実際にそれが起きた)

このまま行くと、極左・極右政党が議席の3分の1程度を取ることになってしまうが、ここまでバランスが崩れたことというのは果たしてあったのだろうか、極右、極左政党が力を持ち、これまでの二大政党だったレイバー、ナショナルが力を失い、ニュージーランドファーストがまたもキングメーカーになり、マオリ党が無視できないレベルの議席をとってしまったときこの国はどうなるのか。

今はレイバー独裁というかつてあった状況が再来しているようだが、次回の選挙次第ではニュージーランドは大変なことになるかもしれないことは気に留めておく必要があるだろう。

そういうわけでニュージーランドに来ることはおすすめしない。

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