虫垂炎で入院、そしておしっこジジイとおしっこレース
なんと虫垂炎で入院していた。
ことはじめ〜手術
2020年8月16日の日曜日、盆休みの終わり。バイクが壊れるわ連休が終わるわで死ぬほど憂鬱なまま迎えた夜。腹が痛い。特に右側に偏って痛い。ストレス性の胃痛か? だって休みが終わるの嫌すぎるもんな。この時はそう思っていた。しかしそれにしても痛すぎる。
翌日も痛いので仕事を休んで病院へ行った。なんだかよくわからんが胃腸が原因だろうということで胃腸の薬と痛み止めをもらった。この痛み止めが全く効かなかった。ふざけんなよ。痛み止めを飲んでるのに痛いのはズルだろうが。
その翌日も痛みが増すばかりなので別の大きな病院へ行ってみる。CTスキャンの結果
お医者様「虫垂炎ですね」
虫垂炎。いわゆる盲腸。腸にぶら下がってるなんの役にも立たない器官の虫垂が炎症を起こす病だ。ボンバーマンがドクロのパネルを拾ったときになることで知られている。
(今調べたら虫垂は人体のなんの役にも立ってないよ派と虫垂は人体に必要だよ派で争われているらしいです、俺はもう取っちゃったので前者を支持します)
無知な俺「虫垂炎って何が原因でなるんですか」
お医者様「ある日突然なります」
そんな理不尽な。生活習慣が原因とか言われる方がまだ納得がいく。運が悪かったと思うしかないのか。薬を処方してもらい、二日後また見せにくることに。保険を使っても料金がたっけえ。
二日後。
お医者様「う〜ん、手術しましょっか」
俺「はい」
入院と手術が決定した。痛いのは本当に嫌だが手術自体は一度されてみたいと思っていた。入院も、治験で閉じ込められていた時の経験を除けば初めてだ。少しワクワクする。
手術の説明を受ける。腹に数カ所小さな穴を開けてマジックハンド的なやつで虫垂を取ってしまうらしい。当たり前と言えば当たり前なのだが、悪いところを物理的に取っちまえば悪くなくなるというのが面白い。
入院前に様々な検査を受ける。採血されているときに「腕に針が刺さってそこから体液がダダ漏れしている」というのがなぜかツボに入ってしまって笑いを噛み殺すのが大変だった。マスクをしていてよかった。その後点滴や注射で逆に体内に液が入ってくるというシチュエーションにも笑いそうになっていた。
耳を少しだけ切って血が止まるまでの時間を測る検査(名称不明)を受けている時にも「なんて暴力的な検査なんだ」とツボに入ってしまい、これも笑いを堪えていた。その暴力的な検査をしているのが普通のおばちゃんというのがまたツボだった。おばちゃんが「キエーーッ!」などと言いながら刀で人の耳を切断しまくる様子をイメージしてしまった。初めての手術を前に興奮して想像力がバグっていた。(当然おばちゃんはキエーーッ!などとは言わないし耳は少し傷をつけるだけだ)
ついでに新型コロナの検査も受けさせられた。特に何も言われないまま入院が決まったので陰性だったのだろう。
一度帰宅して荷物をまとめて病院へ戻る。全身麻酔で意識が完全に飛ぶので万一に備えて家族を呼ぶように言われたので親に来てもらう。
手術室へ徒歩で向かう。映画などではベッドか何かに寝かせられて運び込まれるイメージがあったので拍子抜けだ。手術室ではなぜかとなりのトトロのオルゴールアレンジが流れている。俺はトトロに合わせて腹を切られるのか。腹へのパスポート、すてきな冒険がはじまるぜ。後でフォロワーに教えてもらったが、患者をリラックスさせるためにそんな感じの曲を流しているらしい。この後俺は全身麻酔で意識が飛ぶのに? 俺が寝た後でお医者様お気に入りの曲に変えたりするんだろうか。アイマスの曲を流してくれ。アルストロメリアがいい。チュッチュッチュッ虫垂炎誕生。
手術台に横になる(自分で)。麻酔科の先生が自己紹介した後早速麻酔を注射してくる。視界がボヤボヤ歪んできて「うわースゲー!」と口にだそうとした瞬間意識が飛んだ。
術後〜おしっこじじいとおしっこレース
目が覚めた。ベッドの上だ。終わったのだろうか。暗い部屋だ。確か俺はリカバリールームというところに運ばれているはずだ。手首には点滴が繋がれている。電気毛布がかけられているらしくめちゃめちゃ暑い。腹部からは激痛がして身動きが取れない。猛烈に喉が渇いている。さらにどういうわけか息がうまく出来ない。めちゃめちゃ苦しい。声もほとんど出ない。人生で一番辛かった瞬間をあげろと言われたら迷わずこの瞬間と答える。猛烈に苦しい。地獄はここにあったんだ。
体勢楽にして良いですからね〜などと言われるが激痛で身をよじることもできない。なんとか声を出して暑いことと喉の渇きを訴える。足の毛布をはだけてもらい、うがいをさせてもらう。まだ何か飲んだりしてはいけないらしい。うがいで少しは楽になった。それでも猛烈に辛い。いっそ眠ってしまいたいが、痛みで眠ることもできない。
後で聞かされたことだが俺の虫垂はもともと平均より随分デカかったらしい。脳や身長やチンコならまだしも一切役に立たない器官が人よりデカかろうと嬉しくないし、どちらにせよもう取ってしまった。その一回りデカい虫垂を(多分)ヘソに開けた穴から引き摺り出したのだ。痛いに決まっている。
しばらく(体感的には何時間も苦しんでいるような気がしているけど実際は1時間もなかったんじゃないか多分、この夜は時間の感覚がメチャメチャだった)苦しんでいると、強力な痛み止めを注射してもらうことができて少しだけ眠ることができた。この痛み止めがなんだったのかはわからないが本当に痛みが体感で100から30くらいまでガクッと下がったので驚いた。薬最高。次に目が覚めた時は激痛は元に戻っていたが、暑さや呼吸が少し楽になっていた。
このリカバリールームには今三人の患者がいるらしいことがカーテン越しの看護師さんの会話からわかった。俺。婆さん。そしてめちゃめちゃうるさい爺さん。めちゃめちゃうるさい爺さんの存在は看護師さんの会話を聞く前からわかっていた(うるさいので)。俺がなかなか眠れない要因の一つでもあった。
今だからこそ「この爺さんもあの部屋にいたということは大変だったはずだ」ということはわかるが当時の俺は俺こそが今この瞬間世界で一番辛い人間であると思っていたし、こいつは複数人が寝ている部屋で何やらブツブツ大声で喋りまくる最悪のジジイだと思っていた。
大声でブツブツ喋りまくるジジイはそれだけではなく、ナースコールも数分毎ペースで連打していた。そしてその度に「小便」と言っていた。看護師さんたちも最初は穏やかな対応だったが徐々に「さっき出したでしょ」とキレ気味な対応になっていることがカーテン越しにもわかった。実際ジジイから小便が出ていたのかどうだかはわからなかったが、音からして多分出ていないのではないかと思った。ジジイもジジイでなぜか急にキレて看護師さんを殴ったりしているようだった。俺が看護師だったら我慢できずにジジイを殴り返していたと思うので看護師にならなくてよかった。医療従事者の人は本当にすごい。もしも医療従事者の人が患者のジジイに殴られたので殴り返したという事件があったら世間は許さないだろうが俺は許してやりたい。
苦しみながらカーテン越しのジジイと看護師の攻防を聞いていると俺の元にも看護師さんが来た。「お前は理論的にはすでに小便が出なければおかしい頃なので小便をせよ、さもなくばチンコに管を挿す」というような内容の話をすると目にも止まらぬ速さで俺のオムツを外してちんこを尿瓶に差し込んだ。
そう言えば事前の説明では「ちんこには管を挿して勝手におしっこが出るようにするかもしれん」との説明を受けていたが、管は挿されていない。それといつの間にかオムツをはかされていることに気が付いたのもその時だった。
言われてみればおしっこが溜まっている感覚はある。
正直に言えばチンコに管を入れられることに好奇心はあった。こんな機会でもなければチンコに管は入れないだろうし、オートでおしっこが出る感覚にも興味がある。しかし出し入れの際に激痛が走るともいう。好奇心はあるがチンコが痛いのは何よりも嫌だ。
そういうことなら今おしっこをせねばならない。
……出ない。
人生でベッドに寝転がりながらチンコに当てられた瓶におしっこをする経験がなかったために完全に理性が尿意にロックをかけている。看護師さんが見守っているというシチュエーションのせいでもあっただろう。力んでみようとするも、腹に力を入れると激痛が走るのでそれもできない。出ろ……おしっこ出ろ……おしっこ…………出ないものは出ない。
「出ません……」
「腰かけた姿勢になってみましょうか」
なるほど座った姿勢ならば寝たままよりは出やすいかもしれない。便器に座っている姿勢にも近いし。看護師さんは「ギブアップする時はナースコールを押してください」と言ってどこかへ行ってしまった。ここからは己との戦いだ。
痛みを堪えながら上半身を起こしてチンコに尿瓶を当てる。目を閉じてチンコに意識を集中してイメージを膨らませる。「ここはトイレ、おしっこをして良いんだ。ここはトイレだからおしっこをして良いんだぞチンコよ」熱を持った尿意が徐々に尿道へ向かうのを感じた。行ける。
しかしカーテンの向こうのジジイが何やらブツブツ喋る声が俺を現実へと引き戻した。ここはトイレではない。ジジイがいる病室だ。トイレでないところでおしっこはできない……そんなの誉れとは言えないと俺の理性が拒む。現実に戻るたびに気持ちと尿瓶を取り直してまた瞑想のやり直しだ。誉れがなんだ、自分を騙せ、ここはトイレ……ここはトイレ……おしっこをしろ……して良いんだ……。
俺がおしっこが出せずに苦しんでいる間にもジジイはナースコールを連打し「小便」と言い続けている。その度にキレ気味の看護師さんが「さっきやったでしょ!」と言いながらやってくる。
「小便」「さっきやったでしょ!」「小便」「さっきやったでしょ!」「小便」「さっきやったでしょ!」
そんなに頻繁におしっこが出るわけねえだろ。俺がおしっこできずに苦しんでいるのになぜお前ばかりがそんなにおしっこを。俺のおしっこを盗んでるんじゃねえのかジジイ。許せねえ。俺のおしっこを返せ。勝負だジジイ。ジジイと俺、真のおしっこを出すのはどちらが先かのおしっこレースだ。今思えば意味不明だが俺は真剣にそんなことを考えていた。
ダメだった。どうしても出ない。俺はオムツを履き直しナースコールを押した。
「すみません、おしっこ出ません」
先ほどとは別の看護師さんが来て「ではまた出そうな時教えてください」と言って去っていった。チンコに管は挿されずにすんだ。
「小便」「もう寝てください」
ジジイと看護師さんのバトルを子守唄に俺はもう一度横になった。少しだけ眠った後、再チャレンジしてようやく無事におしっこは出た。人生で一番嬉しいおしっこだった。
翌朝〜退院
ジジイのブツブツ喋りで目が覚めた。カーテンから漏れる明かりから朝だということがわかる。おしっこレースの後は開放感からかまあまあ眠れたらしい。ジジイは一晩中ブツブツ言っていたんだろうか。俺が目が覚めてからしばらくしてジジイは眠ったようだった。
体を拭いてもらった後で本来の病室へ帰る。相変わらず手術の跡は酷く痛むが、それ以外はどこも悪くないように感じた。もともと痛かった右下腹部はたしかに痛くない。手術跡が痛すぎてわからないだけかもしれないが。
そこから先の生活は恐ろしく退屈だった。おかげで写真を撮るという発想すらわかなかったので全然写真がない。点滴が外れたあとのこれくらいか。
かっこいい。青いストッパーみたいなのを勝手に外してこれを口にくわえて思いっきり息を吹き込んだらどうなるんだろうと気になったが理性が勝ったので一命を取り留めた。
退屈なのを見越してiPadやニンテンドースイッチ、文庫本などを持ってきていたが、痛みが酷いうちは全く集中できないためどれも手に取る気にならず、スマホでツイッターばかり見ていた。時間潰し、孤独感の緩和にはツイッターが最適だった。
痛み止めをもらって飲むようになってからは少し余裕も出てきたが、病室にはwifiなんかなかったので結局本を少し読んではツイッターを眺めるの繰り返しだった。
入院中に読んだ『世にも奇妙な人体実験の歴史』面白かった。現代の医療は過去の狂人に支えられていることが理解できた。入院中に読めてよかった。おどろおどろしい見た目だが中身は面白おかしく書いてあるので誰にでもお勧めだ。
食事はしばらくはお湯の味がするおかゆがメインだった。おかずもついてくるがおかゆの割合がそれにしても多いので「入院にはふりかけを持っていった方がいい」という話は本当で、大変役に立った。本記事で唯一役に立つ情報はここだ。「入院にはふりかけ」
本を読んだりツイッターをみたりおかゆを食べたりしているうちに退院の日になった。最初に聞いていたより1日早い退院となった。全部で三泊四日だった。
退院はしたものの今でも手術の跡はめちゃめちゃ痛く、飲まなきゃやってらんない(痛み止めを)。
意外なことに食事制限も運動制限も特になかったが痛みで運動どころではないし大食いしたい気分でもない。健康になったら味がついた鶏肉を食べて酒を飲みつつ暴れまわってやろうと思う。
日曜退院だったので支払いは次回の通院日なのだが、いくらになっているのか恐ろしくて仕方ない。ただでさえ本業が時給制なのにお盆に入院に休みまくることになって8月の収入が怪しいというのに(俺は働くことが大嫌いなので仕事を休めること自体は嬉しいが、お金がないのはそれはそれで辛い)。高額医療費なんちゃら制度を利用する時かもしれないな。
ともあれ、帰宅して久しぶりに思いっきり遊んだインターネットにつながっているPS4は最高だった。皆さんもぜひやってほしい。
タイタンフォール2。
タイタンフォール2をやってくれ。
めっちゃ安いから。今。
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