布袋戯『伊勢物語-二条の后』
2024年3月3日に大正大学で行われた、創作布袋戯『伊勢物語』を見てきました。伊勢物語を布袋戯とインドネシアのガムランのコラボで演じるとのことで、どういう仕上がりになるのだろう、と思いましたが、予想以上に互いに調和して小さな物語の世界を創り上げていました。
チャンチンホイさんの著微布袋戯班の彩楼(舞台)を直接見るのは今回が初めてでしたが、通常の金や赤メインの派手なものとは異なり長崎の唐寺に似た落ち着いた色合いで、日本の物語によく馴染んでいました。色彩が唐寺に似ているのは、いずれも福建省の文化が背景にあるからかもしれません。ガムランも楽器自体はバリのもののようですが、曲はこの芝居用のオリジナル、バリよりもむしろジャワ風の穏やかで包み込むような音色で、細野晴臣『銀河鉄道の夜』を思い起こしました。伊勢物語とも布袋戯とも、全く違和感は無かったです。
企画をされた大正大学の伏木香織先生は民族音楽学の観点からインドネシアの布袋戯を研究されていて、大陸台湾の布袋戯しか知らない者には大変新鮮なお話をうかがえました。今回の戯偶の頭も、台湾大陸ではなくインドネシア製とのことです。かつてインドネシアに伝わった布袋戯は、政府の中国文化抑圧政策によりいったん消滅しかけますが、この政策の解消に伴って復活、現在は、華僑華人ではなくインドネシア人によって担われているそうです。独自に戯偶や彩楼の製作も行われており、著微布袋戯班の二代目の彩楼は、このインドネシア製を採用したとのことでした。
なお先生には、中華圏人形劇の研究者オランダのロビン・ルイゼンダール氏との共著もあります。ロビン氏は、1996年に私が演劇博物館で布袋戯人形展を開いたときに、戯神田都元帥の人形を貸し出してもらうなど、協力をいただきました。以前台北で台原亜洲戯偶博物館という施設を運営していましたが、現在は閉じてしまっているようです。
今回の大正大学の創作布袋戯はシリーズ化されており、今後も継続する予定とのことでした。
一昨年と昨年、台北の台北木偶劇団が日本の結城座とコラボした作品を東京で披露しましたが、同劇団は昨秋台北で日本統治時代の皇民劇の復活上演を手掛けています。霹靂布袋戯も日本人声優を採用したシリーズが定着していますし、最近こうした「越境するポテヒ」の姿を目にすることが多くなってきたように思います。