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【解説】セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)〜女性の声を代弁するドラマ〜

最近よく聞いている大好きなポッドキャスト番組で「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」のリブートが十数年ぶりに放映されることを知った。
私もSATCは20代後半、30歳になるタイミングでAmazon Primeで一気に観た。90年代後半から2000年代に一世を風靡したトレンディなドラマ、というのが最初の印象。でも見始めてみると、妙なリアルさが癖になり、一気見してしまった思い出がある。自身の発見として面白かったのが、20代後半、30代でも気になるポイントや共感する人物が変わった点である。個人的には自身の価値観の変遷を定点観測できることが面白く、折に触れてみてみようと思っていた。昨年末に結婚した自分はどう感じるか、ついでに夫はどう感じるかも気になって、「一緒に観よう」と彼を誘った。
・・なのだが、彼にはどうにも響いていない印象。「どんなところが面白いの?」と聞かれる始末だった。
確かに、自分や「好き」だという友人は何故ここまで引き込まれるのだろう?
あらすじや登場人物の分析をしながら、「共感」を呼びこむシナリオを紐解いていきたいと思う。
※ネタバレも含むので、まだ観てない方は注意ください!

あらすじ

ニューヨークに住む30代独身女性4人の仕事・恋模様をリアルに、時にコミカルに描く。
原作はニューヨークのセックスライフを取材した女性ライター、キャンディス・ブシュネルが連載していた「セックスとニューヨーク』が原作。(wikipediaより)
エミー賞7回、ゴールデングローブ賞8回受賞の世界的大ヒット作品となった。全6シーズン。

主人公のキャリーが毎回語り手となってテーマを提示。そのテーマに関連した自身や友人たちとのエピソードを交えて、30代の女性のリアルを伝えていく。

大ヒットした

世代的には私の20くらい上(50代)がリアルタイムで見ていた世代になるだろうと思う。だが、話を聞いている限り社会現象になるほど大人気だった。
特に上述の世代にはこのドラマに憧れてニューヨークを旅行してきたほどだという。

作品のテーマ

仕事を持つ「自立」した女性たちの人生

SATCには4人の女性が登場する。
主人公で語り部役のセックスコラムニストキャリー、法人弁護士のミランダ、アートギャラリーディーラーのシャーロット、PR会社社長のサマンサだ。共通しているのは皆、独自のキャリアを持ち、成功していることである。
彼女たちは男性に頼ることなく、裕福な生活を送れるいわゆるキャリアウーマンだが、なぜ男性が人生に必要なのか、女性の幸せとは何なのかを4人それぞれ(正確には3人かもしれないが、理由は後述)の価値に基づいて見つけていくのが全シーズン通してのテーマであるように感じる。
ここからそれぞれのキャラの概要と物語における役割を紹介しようと思う。

登場人物•キャラクター

ミランダ:
キャリア、社会進出と母とのバランスに苦心するキャリアウーマン

サマンサ:
自分軸を明確に持ち、欲望に忠実に生きるカッコ良いお姉さん

シャーロット:
結婚、子ども、家庭への夢や期待と現実の狭間で悩むお嬢様

キャリー:
社会的、外的な女性としての評価と自分の本心の間で揺れる視聴者の「代弁者」

この上記4人の特徴を見てわかるように、実は1番自由そうなキャリーが自身のポリシーを持っていないことがわかる。
他の3人は側から見ていてポリシーが明確である。ミランダは仕事、シャーロットは結婚と子ども、サマンサは独立主義。だが、キャリーはそれを劇中で明確に表現していない。「これは嫌だ」はあるものの、「どうしたい」を明言化せず、「色々あるけどなんだかんだ今日も乗り越えて頑張って生きていく」みたいな文言で締めくくることが多い。
キャリーはあえてこのような設定にしたのではないかと思う。なぜなら彼女はあくまで視聴者の視点に立って、他の3人の女性達の軸から人生を紐解いていく立場なのだ。友人達を観察して、そこから知見をもらうのは私たち読者がこのドラマに求めていることだ。
そしてそんな彼女がおしゃれな服を着て素敵な男性と恋愛をするからこそ、みんなの憧れの存在になったのであろう。
その他ヒットの要因

華やかなファッションとニューヨークの街並み

ニューヨークな煌びやかな夜景と主人公4人達のヴォーグが飛び出してきたような鮮やかなファッションは、なんと言ってもこのドラマの醍醐味である。
彼女達も事あるごとにブランドの豪華な靴や服を購入し、ピンヒールで街を闊歩している。おそらくこの「マテリアル」な生活は80年代に青春を送った女性達をターゲットにしているからこそだと考える。
80年代といえばアメリカはポップカルチャーの日本はバブルの真っ只中。お金や「良い」商品=ブランドを持つことが価値観に植えついた世代に感じる。「持っていることの象徴」のブランド品を彼女達が身につけていることが成功している女性のメタファーなのだ。

オープンな男性関係とセックス

そしてそんな成功した彼女たちが繰り広げる華やかな夜の生活。90年代といえば、いくらアメリカといえども自身やパートナーのセックスライフについてあけすけに語ることは一般的ではなかった。普段なんとなく思っているけど、友人に言えない悩みをキャリー達の会話を通して共有し、考える機会ができたことは、今でこそ許容されているものの、20年前はかなり珍しかったに違いない。このような場を提供し、考える機会をされた番組の貢献は限りなく大きかったと感じる。

夫に響かないワケ

こんなに大ヒットしたこのシリーズだが、夫に見せてみると、既述の通り、評判が良くなかった。
監督のインタビューでも男性の不評のことがあると言うコメントをみたことがあったので、なぜ面白いと感じないのか聞いてみた。
そうするとどうも下記が理由のようだった。

①女性側の目線だけで描かれていて、男性がなぜその女性を好きになったのか、女性がなぜその男性を好きになったのかがよくわからない。
②恋人や夫婦関係なのに2人の会話が浅い。
③登場する女性が結局なにがしたいかわからない。特にキャリー。

確かにSATCでは男性の心情については語られる場面が少ない。この物語における男性は彼女達のパーソナリティを深掘りしていく添え物で、彼らとの経験を通じて女性がどう成長するかを大切にしているので、本筋ではないのだ。
そのせいで①や②のような不満が発生することが多い。
③に関しては同意だが、女性の行動に常に理由があるわけではないので、そこはしょうがない、と大目に見て欲しい笑

私がついつい見てしまうワケ

確かに、私も正直言うとキャリーは苦手である。エイダンと復縁した時、家を買わなければ立ち退きのリスクがある時に唯一お金を貸すことをオファーしてくれなかったシャーロットに逆ギレをしたり、最後の最後にビッグに対して「私を連れて帰って」と言ったときは「いや、自分のお金で帰りなさいよ!」と心の中で盛大につっこんでいた。*ちなみに私が好きな順番はサマンサ、シャーロット、ミランダ、キャリーで、自分はミランダ、シャーロットの目線に立つことが多かった。

では、なんで観たいと思ってしまうのだろう?
私がついつい見てしまう理由を考えてみると3つに集約されていた。
①彼女達の問題(結婚、妊娠、不妊、病)などを通じて、思考の追体験ができる
②ストーリーの中で女性達が直面するモヤっとに共感することがある
③どんな形であれ乗り越える姿に希望をもらえる

①彼女達の問題(結婚、妊娠、不妊、病)を通じて、思考の追体験ができる
女性が家族を作ることを意識するときに一度は考える結婚、妊娠、不妊など、仕事を頑張りながらどう両立していけばいいのか、そもそも両立できるのか…ポジティブな部分は一般的な記事や先輩の姿から見ることはできるが、ネガティブな悩みや葛藤は見ることができない。その姿を見て自分だったらどうするのか、この苦難があったとしても乗り越えて手に入れたいと感じるのか、考えるきっかけを得られることは魅力の一つである。

② ストーリーの中で女性達が直面するモヤっとに共感することがある
男性とら付き合っている時に感じるモヤっとした不満、そしてそれを女性同士で語って笑い飛ばしている様子を見ることで、自分も5人目の仲間として会話を楽しんでいるかのような感覚になる。友人とのおしゃべりをドラマを通してしている感覚になり、思わず「あるある」と呟いてしまう。

③ どんな形であれ乗り越える姿に希望をもらえる
良い形であれ、そうでない形であれ、彼女達は目の前にあった困難を乗り越えていく。辛いことがあっても気のおけない友人と乗り越え、なんだかんだそれぞれのハッピーエンドを見つけていく彼女達を見ると、「私も頑張ろう」と感じさせてくれる。

まとめ

ドラマ版から約10年後に公開された映画に際して監督、脚本を担当したマイケル・パトリック・キング氏と、スタイリストのパトリシア・フィールド氏のコメントを読む機会があった。(出典:https://md-news.pia.jp/pia/news.do?newsCd=200808210005)
そこで監督のキング氏は本作のヒットの理由をこう語っている「女性に声を与えることがまだまだ必要だったということではないでしょうか。社会はまだ男性が定義した女性像を押し付けています。4人の友達に会いに行くような気分で女性は劇場を訪れたのでは」
皆さんはSATCを観てどう感じただろうか?
この記事を読んで新たな発見を持って本シリーズを楽しんでいただけたら何よりだ。


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