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ある夏の夜の蝉の終わり

ある蒸し暑い夏の夜の話しである。
空に浮かんだ半月がときどき、霞んだ雲によって朧月になっていた。

わたしは旦那さんと2人買い物がえり近くの駐車場を歩いていた。

するとどこからともなく
明るく照らされた街灯の下で
ミーンミーンミーン…と蝉の鳴く声が聴こえてきた。夏の風物詩の蝉が力を振り絞り鳴いている。

「素敵な鳴き声やね」
わたし達はどちらからともなく立ち止まり、
その鳴く声を聴きながら話した。

「そうやね、夏って感じやな」
ミーンミーンミーンミーン
辺りの音をかき消すような壮大な声で鳴いている。まるで蝉の鳴き声が夏の夜の一幕を演出してくれているような、素敵な鳴き声だった。
その蝉はどのくらい鳴いていただろうか。

突然ジリジリ…と蝉の声が聴こえ、ぱたりと鳴き声が止んでしまった。

「止んじゃったね」
「そうやな…家に戻ろうか」


そうしてその場をわたし達は離れた。


しかし、わたしの頭のなかは蝉のことでいっぱいだった。
蝉はどんな気持ちで、鳴いていたのだろう。
7年という長い月日を土のなかで過ごし、
たった1週間、じぶんの子孫を遺すために鳴き続ける。朝もそして夜も。

きっと、蝉はその最期の力を振り絞り
「じぶんはここにいるよー」と一生懸命鳴いていたのではないだろうか。

そして思いきり鳴いたあと、ジジジと地面に落ちていったのではないだろうか。

もし、そのとき蝉がすこしでも
鳴ききったことに満足して向こう側へ逝ってくれていたなら嬉しいと思った。

蝉の鳴き声が終わりを告げ、また静かな夜が辺りには漂っていた。

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ニュイ@宇宙人の嫁
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