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サンタさんからの贈り物

「パパ、明日はねサンタさんが来るんだよ」

23日の夜
澪はお気に入りのクマのぬいぐるみを、
大事そうに抱えて僕の隣にやってきた。

我が家では昔から少し早めの24日にクリスマスプレゼントを渡すことにしていた。
正確にいうと24日の朝に澪が気付くように、枕元にプレゼントを置くようにしていた。

それは娘があまりにも楽しみにしているからということもあったし、いつもの習慣になっているところもあった。

澪は屈託のない無邪気な笑顔で
「今年はねー、澪はいい子にしてるって決めてるんだ!そしたら、サンタさんはママに会わせてくれるかもしれないよねっ」と言った。

その言葉に僕は胸がつまった。
去年までは家族3人で当たり前のように
食卓を囲み、娘の澪が寝静まるのを待ってそっと枕元にサンタさんからのプレゼントを置いてきた。

その妻が、今年は傍にいない。
澪の妹が出来て喜んだのも束の間、
妻はとてもつわりが重かった。
そしてもう間も無く産まれようとしているのだが、妻の体調は不安定で切迫流産の可能性もあるため少し前から入院しているのだった。

今年4歳になる澪には、まだ小さいからと
本当のことは言えていない。

「お母さんは、ちょっと大事な用事があるから暫く帰ってこないけどパパとお利口にしてようね」

澪はその言いつけを守って、いい子にしていた。本当はママがいなくて、寂しいのだと思う。だけど、澪は僕の作るカタチの崩れたご飯にも文句一つ言わず、笑顔でいてくれる子だった。

「ジングッべージングベール」
幼稚園で習いたての曲をたどたどしく口ずさみながら、我が家の小さなクリスマスツリーと、100均で用意したサンタさんの靴下を大事そうに眺めていた。
サンタさんか…本当にいるのなら、
どうかこの幼い澪の願いを叶えてあげてほしい。そしてどうか今年も素敵なクリスマスになるように…
そう願わずにはいられなかった。

その夜、僕は不思議な夢をみた。
サンタの格好をした人がそっと澪の傍にたち
ニコッと笑いながらメリークリスマス!と
囁いている夢だった。

ハッと気づくと澪の周りには誰もいなかった。
当たり前か…なぜか夢みこごちでフワフワとした感覚に包まれていた。

時計を見ると朝の6時半、
そうか今日は24日クリスマスイブの日だ。
窓を開けて、朝方の冷たい空気を肌で感じる。

するとそのとき突然電話が鳴った。
携帯のディスプレイ画面をみると、妻の入院先の病院からだった。
何かあったのかと、慌てて電話をとった。
すると先程急に産気づき新しい命が産まれたとの知らせだった。
助産師さんも急なことで連絡が遅れてしまったらしい。妻の容態も、取り立てて危険な状態ではないと連絡があった。

その一報を受けたとき、僕は自然と涙を流していた。今日は何て素晴らしい日なのだろう。

「パパ、おはよぉ!」
眠気まなこで目を擦りながら、起きてきた愛娘の頭をクシャクシャに撫でながら

僕は娘にこう告げた。

「おはよう!メリークリスマス!!

いい子にしていた澪に、サンタさんがちゃんとプレゼントを持ってきてくれたよ!もう少ししたらママに会いに行こうね!」

今日の日はきっと一生忘れられない日になるだろう。
サンタさんは僕らに何ものにも変えがたい素敵なプレゼントを運んでくれたのだ。

カーテンの外から眩しい朝の光が差し込んできていた。

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