アルプス山脈
「ちょっと国行、どういうこと!?」
「え?なにがですのん?」
「ここ、阿津賀志山じゃねーか!!」
なぜオレと蛍が阿津賀志山に不満を持っているかというと、ここがアルプスじゃないからだ。
「君ら、ハイジ見たからってアルプス連れてけってやかましいんさかい」
「連れてってくれるって約束した!!」
「なんかおかしいと思ったんだよな。飛行機乗らないで行けるって言うから」
「アルプスに連れて行くとは言うてへんで。山に連れて行くとは言うたけど」
ぐぬっ……。
「だいたいスイスくんだりまで行く金も時間も体力もあらへんわ」
ぐぬぬっ……。でも確かにそうかもな。蛍も納得したのか、大人しくなったみたいだ。
「でも、なんで阿津賀志山なんだ?他にも高い山近くにあるだろ」
「丁度最近、ミュージカル言うの見とって、そこで阿津賀志山がでてきたんや。それで思い出して」
「へえ。こんなに低い山でなにしてたの??」
「戦やね。ぎょうさん人がここで戦うて命を落としたんやわあ」
いつも何考えてるか分かんねえ国行が、少しだけ悲しい顔をしたように見えた。なんか調子が外れるというかむずむずするというか、別に放っといてもいいんだけど。どうせ1人で解決しちゃうヤツだし。
「でもよぉ、そいつらはたくさん戦ったんだろ?悲しくても戦って、ひたすら戦って、それってすげーかっけーことだと思うんだよな」
蛍もうんうん、と頷いている。
国行もいつもの締まりのない顔に戻っていた。
「そうですなあ。なら記念に写真でも撮りますかっと」
かばんをがさがさと探り、こんな高そうなのいつ買ったんだ?みたいなカメラを出して、オレは詳しくないからわからねえけど色々いじりはじめた。
「オレヒーローな!蛍はヒロイン」
そこらへんに落ちてた枝を拾って、武器を持つポーズをとってキメてみる。
「ずるいー!つぎは俺にゆずって!」
「はいはい、撮るで。阿津賀志山のヒーローさんとヒロインさん」
最初来たときは低い山で正直がっかりだったけど、ここでたくさんの人が戦ったって思うとパワーみたいなのが湧いてくる気がする。アルプス山脈より小さい山だけど、もしかしたらすっげー山なのかも!!
「次こそはアルプスね!!」
「蛍、やっぱまだ諦めてなかったんだなー」
勘弁してなあ、と国行が言ったのと同時にシャッターの音がした。ここで戦った人たちみたいに、かっこよく写ってるといいな。
アルプス山脈・END
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