特許独特の表現に思うこと
特許用語って…
先日、このようなツイートを見ました。
特許用語というのは、知財業界においては日本の特許出願書類にしか出てこない造語を指します。
特に機械系(ハードウェア)の出願に多いのですが、例えば『橋架する』『係合する』などが有名でしょうか。構造物を説明するときに使われる、「国語辞典などに載っていない謎の用語」です。
このような特許用語は翻訳の際にどう訳出すれば良いか難しいですし、どう解釈されるかが未知数なので、近年では使用することを非推奨としているケースが多いかと思います。昔は「特許用語を使いこなしていかに権利範囲を広げるかが重要!」とされていた時代もありましたが、グローバル化の流れ(海外出願の増加)や「これって権利範囲が広くなるというより曖昧になってるだけじゃね?」という考えが広まったことにより、最近は「特許用語を使うのはやめよう!」という空気が広まっています。
特に大企業の特許出願では見かけることがかなり減りました。これは、出願数の多い大企業は往々にして依頼している特許事務所に「こんな感じのルールで特許出願書類を作成してほしい」という独自ルール順守をお願いしていることが多いですが、最近ではおそらくほとんどの大企業の独自ルールに「特許用語を使わないこと」が入っているためではないかと思います。
さて、「特許用語は使わない方が良い」というのは知財関係者であればたいてい合意が取れる話だと思います。ただ私は思うのです。
『いや造語なら「〇〇部」みたいな表現が一番造語やん…』
そうです、ハードウェア出願においても、ソフトウェア出願においても出てくる「処理部」「撮像部」といった仮想的な表現。これも知財業界ではない人間からすると、十分に造語ですし、特許用語だと思います。
しかしながら、これらの用語が問題視されることは少ないです。なぜでしょうか?正直、「〇〇部」という表現は、ハードウェアなら許容できる気持ちもありますが、ソフトウェアにおいては許容できる気がしません。ソースコードにも物理的にも直接的な対応がとりづらい「〇〇部」がなぜ出てくるのでしょうか?なぜわざわざわかりづらい書き方をするのか?いまいち納得感がありません。
「特許は独特の書式だから読みづらい!」とよく言われますが、これは決して文章が堅いからからとか、そもそも読み方をわかっていないとかが原因ではなく、「そもそも(一般的にとって)読みづらい書き方をしてある」ことが主な原因の一つです。そしてエンジニア目線で話すと、「〇〇部」は何を指しているのかわからないことが多いです…。
※これ以外にも読みづらい原因はありますが、そこはまた別の機会に書こうかと思います。
なぜ『〇〇部』という表現は生まれているのでしょうか?
なぜみんなこの表現をやめようとしないのでしょうか?
だって書きやすいし…
これはあくまで個人的な気持ちなのですが…
「『〇〇部』って置いておくと対応とりやすくて書きやすいんだよね…」
という気持ちがあります。
かなり特許出願書類(特に明細書と請求項)を書く側の気持ちの話になってしまいますが、ソフトウェアの発明は機能で分けて、それらを仮想的なハードのように取り扱うと書きやすいんですよね…。「前記〇〇」みたいに引用しやすいですし。ハードウェアの発明だと、そもそも各部位に名前をつけることからスタートするところがあり、そういうときにこの「〇〇部」という表現は便利です。全体ではなく部分なんですよーってのが伝わるじゃないですか。便利なんですよねぇ…。
私は自分の発明を書くときは、できるだけ特許出願書類を全部自分で書くようにしているのですが(書けていないものも多いけど)、「〇〇部」は使いたくないなーと思いつつ、便利なのでついつい使ってしまいます。
だって請求項で「前記〇〇部は、~」って引用できるじゃん…これがなかったらわざわざ「1以上のプロセッサにより実行されることにより…」みたいに書く必要が出てくる場合があるんだぜ…。まぁそこらへんも指定しやすいようにするテクはありますが…。機能だけを上位概念化してブロック図にしておくと、慣れてると楽なんですよねぇ…
いつから「〇〇部」って使われているの?
ちょっと疑問に思ったので調べてみました。J-PlatPatに収録されている文献のうち、最も古い文献、すなわち『一番最初に「〇〇部」と使い始めたのは誰なんでしょう?』
■撮像部
1967年の出願が最も古いようです。
■画像処理部
1974年の出願が最も古いようです。
■記憶部
1962年の出願が最も古いようです。
意外に記憶部が最も古い結果となりました。もしかするとJ-PlatPatに収録されていない出願などもあるかもしれませんが、簡単に調べた感じではこんなところですね。まだ100年の歴史もないと考えるべきか、50年以上も「〇〇部」は存在していることに驚くべきか…
具体的にデメリットあんの?
ある。
こう書いた方が良いじゃないかなという案もある。
それは…
次回に続く
(力尽きた)
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