雨だけの街【短編小説】
もうずっと、僕が生まれる
ずっと昔から空から水が落ちていくる
『雨』と云うらしい。
いつの日か読んだことがある
祖父が持っていた分厚い書物に
そう書かれていた。
『やまない雨はない
そして枯れることも無い』
それは何を言っているのか
僕の頭では理解不能だ。
僕はレインコートを身にまとって
今日も隣の街まで稼ぎに行く。
「今日は732番が亡くなった」
坂を下っていた途中で聞こえてきた
声に僕は少し足を止めた。
読んだ書物にはこうも書いてあった
『それは神の涙だ』と。
「毎日誰かが魂を消すんだよ
でもそれは決して悲しいことではない」
祖母が昔云った事を僕は思い出した。
この街の事を記しているであろう
あの書物を僕はもう一度
開こうとは思わなかった。
いや、思えなかった。
文字がしっかり読めない僕は
最後に書かれた『生贄』という文字を
見た時意味は分からないのに
それが途轍も無く怖い事だと思ってしまったから。
.
空から降り注ぐ冷たい水はこの街から
ずっと、一生、消えることはないだろう。
【完】
Twitterの企画に参加した時の物です!
Twitterでは140字に収めましたがせっかくなので140字以上で置かせて頂きました☂︎*̣̩
タグは #雨だけの街
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