見出し画像

【おすすめ本】傾城の恋

 新年最初の読書に張愛玲の『傾城の恋』を選んだ。

 舞台は太平洋戦争勃発直前の上海と香港で、主人公の白流蘇(パイリウスー)は、良家のお嬢様だが、実家は没落しており、兄嫁たちにはいじめられる日々だ。出戻りのリウスーは、嫁ぐか妾になるしか道のない社会において、絶望の淵に立たされている。
 そこへイギリス華僑の范柳原(ファンリュウアン)が、妹の見合い相手として現れるのだが、リュウアンはリウスーを気に入り、結婚はせずに自分のものにしようと駆け引きをはじめる。

※完全にネタバレするので、読んでから、以下は読んでもらいたい(笑)



 社会が戦争によって壊されたとき、二人はいつ死ぬとも分からない状況下で、仲睦まじい十年よりも濃密に、一瞬だけ完全に理解し合う。国が壊れて、二人はようやく真に結ばれる。

 と、まあ簡単に話すとそんな物語だ。

 こういうものを読むと、恋ですら完全に自由ではないことを知る。そして、"恋"って、そもそも何?と、自分の中の恋の概念に、どうしても向き合うことになる。
 と、いうのも、こういう古い作品を読むと、私の"今"とは違う社会や時代の影響がどういう恋愛関係を作り出しているかよく分かるからだと思う。違いがあると、自分の立ち位置もよく分かるというものだ。

 一方で、時代も場所もぜんぜん違う作品と合い通じる部分も感じるから、不思議で面白い。たとえば、ジェイン・オースティンを読んだときと、趣は違えど、読後の感じはちょっと似ていたりする(オースティンの頃のイギリスは、女性というだけで財産を相続できないので、それこそ結婚だけが生きる道になっている)

 でも、そこはやはり作家の仕事。作家は、時代ではなく、人物を描く。
 リウスーは、自分の置かれた状況に、そう簡単には屈しない。でも時代がそれを許さず、一度は妻にならずにリュウアンのものになることを受け入れるのだが、戦争がすべてを壊してしまう。そして、リウスーは壊れたところから再び関係を作り直していく。
 リウスーは、強い。こういうヒロインを生み出したところに、作家の仕事と腕を感じる。
 そう簡単に世界は変わらず、リウスーは結局妻の座に落ち着くわけなのだが、そうした立場を超えた関係を、戦争が起こったためとはいえ築いたところに"恋"("愛"?)の本質が潜んでいる、と思われる。考え出すと、止まれない。

 ぜひぜひ、新年の一冊目に。

 その昔、あらすじ本が流行っていたときに、うっかり読んでガッカリした。小説は、書き手と読み手の間らへんに生まれるものと思っている。ぜひ、自分の心で確かめてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?