カバ

真奈美とカオリ 7話 35

加害者の視点で考えると。

不倫を楽しむ人々は、素敵に言えば、秘密にゾクゾクし、禁じられた恋に興奮し、限られた時間に価値を感じ、背徳感に濡れるのだろう。  

下世話に言えば、単に性欲を満たす、まだ異性から注目を浴びてモテたい、自分の魅力を誇示して認めて欲しい、相手の奥様に対する優越感に浸りたい。倦怠感からの脱出。

たまには、家のご飯じゃなくて外食したいから?(これは誰かが言ってた言葉)


かなり前、一度、誰とも真剣に付き合いたく無い時期に仕事で知り合った5歳年上の妻帯者と2〜3回くらい関係を持った。

彼とは、あるプロジェクトで一緒に仕事をする事になった。違う会社で働いている彼は同僚達より熱心に私の仕事を手伝ってくれて素敵だなと感じた。

最初は、お酒の力もあって盛り上がった。

けれど、実際にそういう行為になった時。まず彼とのキスの合わなさにお酒の酔いが冷めた。口の中に食べ物以外の異物が入った時の少しだけ鳥肌が立つ、あの違和感、、、

一度冷めてしまうと、彼と同じ会社で働く妻への後ろめたさからか、抱かれている最中に恐妻家の彼の見た事もない奥様の生き霊が、彼の背後の紺色の闇に薄ーくタバコの煙の様にもやっと現れた。

そしてしばらくその執拗な奥様のほのかな呪いがソワソワと部屋をさまよい、 私の気が奥様の生き霊を追うかの様に点々と散る。スポットライトの丸い光が新しい光と残像によって暗がりに水玉模様を作る様に。

あぁ、気が散る。

私は夜営に集中できず。   

もちろん、オーガズムに至るはずもなかった。   

事を終えると、彼の肌色以外なにも見えなかった暗い紺色の部屋に、いつの間にか夜明けの靄で白んだブルーのほのかな光が差し込んでいる。

そしてその光が、さっきまで体温を含み床に散らばり、盛り上がった服や下着たちが私達の興奮が冷めるペースと同じペースで生気を失い、冷たくぺしゃっと床に伏せている様子を照らしている。

紺色の闇が消えて、奥様の生き霊も消えたようだ。

そんな様子をベッドからぼーっと見る余韻タイムも、彼がベッドから立ち上がる“ギシッ”という音によってすぐにカットされ、素に戻った彼は、その服達を事務的に拾い上げ、ボクサーパンツを履き始めた。

私はシャツのボタンを留める彼を見上げながら、この後、奥さんにあのキスするのだろうか?と少しだけ考え。

彼はジャケットにコロコロを念入りにしながら服に私の愛する猫の毛がついていないか確認し、ソファーの横に置かれたカバンを持ってまだ薄暗い部屋を歩きドアに向かう。

夜営後に安心して男の腕の中でぬくぬくぐっすり寝る事と、次の日の朝、温かいミルクを少し入れたコーヒーを一緒に飲む事を、私が楽しみにしているのも知らず、妻のいる家に帰る彼の後ろ姿は部屋のドアを閉める。

そこには明け方の一人残されたイヤな感じと淋しさと、裸の肩の辺りが少し寒いグレーでブルーの空間が残る。

だから、とりあえず、眠くて迷惑そうな猫の足をむりやり引っ張って、暖を奪い、強く抱きしめて、寝ようとベッドに再びもぐる。

暗闇の中でも閉じたまぶたの中に、あの神々しいHalo(ヘイロウ 光の輪)が現れる幸福感&オーガズムという快楽の最強コラボは、愛の無いセックスから期待する事は当然出来ない。

彼は余韻というオマケもくれなかった。

そんな全てにおいて中途半端な気持ちが、手を入れて掻く事の出来ない胃と子宮のあたりにムズムズを起こす。。。


あーやっぱり嫌だ。つまらない。不倫向いてない。奥さんいる人とか無理。生き霊参加とか無理。情緒なんか無い。全てがShallow(浅い)。

そうやって、彼との夜は、夜営後に何事も無かったかのように、私が見ていたシリーズ10話ある1話1時間ドラマの、7話目の48分辺りで無情にスイッチを消される。


次に2人でバーで秘密に会った時も、彼の言動からは、私の少し期待していた奥さんに対する罪悪感はゼロで。

私は横から彼の剃り残したヒゲが他の部分よりちょっと長く生えている顎あたりを眺めながら、この人は人間味という果実があるとしたら、外側はプラムのようにハリがあるけど中身は”す”が入っていて穴だらけで酸っぱいタイプなんだろうな、しかも一見、優しそうに見えるから、表面は解凍されてるけど、まだ中心部は凍っている愛情に欠けたフローズン フルーツタイプ?。だとしたら生で食べると酸っぱいから冷凍にする事に決まった、砂糖とミルクと一緒にブレンダーにかけてシェイクにするとマイルドになるストロベリー的存在かな? と思っていると。 

私がそんな事を考えて彼を見つめているとも知らずに、彼は「僕が妻と別れたら、カオリは僕を愛してくれる?」って言った。

私は「ははは」と苦笑いしながら、

私が思ったり、感じている事を一つも気づいていない彼のその言葉にroll my eyes(あきれて目を上にあげる状態)するし、ムシが良すぎて調子が狂うよと思い。 

浮気を気軽に楽しむ自分の事だけしか考えてない彼の、思いやりの無いユーザー発言に(user 人を利用する人)すぐに冷めた。

幸い、彼の奥さんとはばっちり合っていると思われる、あの牛タン風キスは私には合わず、イマイチだったお陰で、不倫を続行させずにすんだ。けど、再度する気も無い。

周りを無視して、自己中心的に自分の配偶者や相手の配偶者を悪役に仕立て上げ、ラブストーリーの悲劇の主人公にとことんなる事が出来るのなら、不倫はきっと楽しめる。不倫は文化に出来るのかもしれない。by オスカー ワイルド(嘘です、彼の名言ではありません)。

なんていいながらも、自分が男性だったとしたら、性が違うので、彼の様に、なんの罪悪感も感じていないのかもしれない、、、さらっとasshole(アスホール イヤな奴)になっているかもしれない。

不倫ドラマの主人公達を応援してしまうぐらい、私の心なんて弱い。

でも、結果的に、被害者にせよ加害者にせよ、肉体的にも精神的にも、私に不倫は向いていないのだ。


だとしたら。

普通にいつもいる彼氏や旦那様と、お互いの性格、性欲、好きな匂い、やりたいこと、こうして欲しいポイントを話し合い、ロマンチックなシチュエーション作り、それを実行し相手の表情と反応を楽しむ。 時には、新しい企画やいたずらを織り交ぜたりできないものか? 気持ち悪く感じたっていいじゃない、自分が決めた人なんでしょ?パートナーが自分に変態を露(あらわ)にすればするほど、猫が私にお腹を見せれば見せるほど、自分を誇らしく思う事はおかしいのかな?

結婚した事無い人にはわからないと良く言われるけど。長くいた彼氏もいた、長く一緒にいた生き物は猫で12年、まだまだ探求する場所は残されていた。愛もずっとあった(少なくとも私には)。長年いれば飽きるのはわかる、けど、1人の人間を知り尽くす事は100パーセントは無理であって、だとしたらダシが抜けきったと思っている旦那様や奥様をまだ楽しめる領域はまだ残されているのではないかな?。 猫の肉球の匂いを楽しめる様になれるように。

背徳感に濡れる女性は多いのだろうが。特定のパートナーを深ーく楽しむ。匂いをかいだり、噛んだり、舐めたり、嘘や、笑いや怒りのツボや、好き嫌いや、性癖や、反応や、意外性や、歳を重ねて行く様、を一人の相手に対して生物的に徹底的に研究し、興味をもって探求する方が、背徳感なんかより数倍いいと思うけど。。。

あーあー。浮気して遊びたいなら結婚しなければいいのにー。おーい、こっちは自由だぞー。


でも、、、そうだよねー。結局、きっと、なにを言ったとしても、独身の私には、夫婦の事は、わからないのだろう。。。

それにしても、既婚者達の、神様の前で誓った “I DO”(誓います)に何度裏切られたことか。

FUCK!“ I DO”!

と婦人会からの帰宅途中、タクシーの窓から、春の冷たくない小雨に濡れ、黒さを増しキラキラしているアスファルトを見つめながら、思った。


でもその後、

そういえば、私の一番大好きな日本の季節。 

刹那の間、桜が地上を天国にするあの美しい春の時期に日本にいれる!!!と思ったら急に嬉しくなってきて、

奥様達の不倫の話しなんてすぐにどうでも良くなった。


続く

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?