真奈美とカオリ3話 31
真奈美ちゃんの旦那様は右側に寝ているので、起こさない様に、そーっとベッドの左側の淵ギリギリの位置に横になった。
いつも寝る前にうっすら流しているラヴェルの『Piano Concerto in G, Adagio』 を聴きながら落ち着いて寝たいと思っていたけど、慣れない花屋の労働からくる疲れで、5秒で気を失った。
彼女の朝は早い。家族のご飯、洗濯。花の仕入れ、お店の開店。業務用に新聞紙にまとめられた花束のゴムを切り、仕分け。お店用のお花の準備、接客。2人の従業員との打ち合わせ。スーパーマーケット、お葬式や結婚式などへの配送と撤収。
私達が入れ替わってから1週間が経つのに、身体が元に戻る気配はない。
「カオリー、どうそっちの生活? ごめーん、あんまり連絡できなくてー。」
「ああ、今のところ子供達にもばれてないよ、」
「カズ君(旦那さん)は?」
「旦那さんは忙しいみたい。元気だよ。」
彼女の1歳年下の旦那様、和弘さんはレストランを地元(神奈川県内)と都内で経営していて、遅くなる事や外泊も多い。何度か真奈美ちゃんと子供達と一緒に会った事はあるが二人で話した事は無い。
「一応、今の所やってないよ。」
「やっぱりね、言ったじゃん。心配ないって。」
「いやー、けっこう憂鬱よ、そこは。いつそんな日が来るのかって。」
「ははは、そこまで嫌がらないでよ、人の旦那。」
「そういう意味じゃないけど、真奈美ちゃんはどう、仕事は?」
「うん、ずっとやってみたかった仕事だから、けっこう楽しんでる。意地悪な事言われても。私に言われてるワケじゃないから気にしてないし。ははは。今日もバネッサさんが何か怒ってたけど、早口過ぎて、なに言ってるのかわからなくて、適当に、You are so right (あなたが正しいです)って答えておいたよ」
「ああ、うるさいからね、あの人。」
「子供は元気してる?」
「うん元気だし、2人とも、いつも可愛いよ。私の作るご飯がワンプレートで雑でばれそうだけど。今の所、珍しさを楽しんでくれてるよ。」
彼女には、1人は小学5年生の優亜ちゃんと、もう1人は3年生の乃亜ちゃんがいる。当時はキラキラネームだなと思ったけど。今ではそう思わなくなった。アメリカ人のキラキラネームも結構多い。
「猫は大丈夫?」
「うん、懐いてるよー。毎日一緒に寝てる。猫アレルギーじゃなくてよかった。」
私の身体だから猫アレルギーにはならないけどね。
あっ、マイ ベイビー(うちの猫)が他の人と寝てる、軽いー!あの子、なんで私じゃないって気づかないで懐いてるのー?と、ちょっとだけ嫉妬心が湧いたが。真奈美ちゃんは今、私の身体で私の匂いがするから仕方ないか、と自分の心をなだめた。
「そうそう、こっちは3人とデートしたよー。」
あぁ、そうだった。
日々のお花屋さんと奥さんの仕事がハード過ぎて、デートの事は、すっかり忘れていた。
「火曜日にアメリカ人に会ったよ。仕事のあとに、なんとかホテルって所のバーに行ったよ。彼は、いい人そうだけど、まだ遊びたそうだった。39歳なのにね〜信じられない。ファイナンス系(金融系)だからしかたないのかな? 普通の見た目で、まあまあイケメンな方かな、アメリカ人の基準のイケメンとかよくわからないけど、でもいいにおいがしたよ。香水かな?セクシーな香り。でも、あんまり話しが合わなかった。」
「どういう会話したの?」
「うーん、 お腹空いてる?って聞くから、うんって言ったら。 僕はお腹空いてないけどどれでもオーダーしてね!って言うから、フライドカラマリ(イカリングフライ)は?って聞いたら。 ああ俺、先週、もの凄くまずいカラマリを食べてゴミみたいに腐ってる味で吐きそうになった、って言うから。 じゃあ、、チーズの盛り合わせは?って聞いたら。 チーズ嫌いって。 ならば、白身魚のフライは?って聞いたら、魚は食べないって。 だから結局フライドポテトを頼んだよ。最初から言ってくれればいいのにね。」
「話しが合ってないというか、食事の好みが合ってないね。」
「うん、しかも隠れトランプ支持者みたいだし。」
「ああ、それは、厳しいね。。。せめて堂々と支持すればいいのにね。」
そういえば、先週、私の家族の中で最も高い道徳心を持つ母親の口から、「トランプの暗殺募金が闇サイトで行われていて、今、ビットコインで1000万円ぐらいの募金額になっているらしいよ。わかるわ〜。誰が暗殺するのかしら?」という発言が出た時、暗殺募金のことより、あの癒し系のお母さんが、そんなこと言うかね?と、穏やかで無い世界の始まりを感じた事を思い出した。
「でも、彼とまた会うつもりだよ〜。1回じゃわからないしね!」
「そっか。たしかに。。」
「それで、木曜日には日本人の彼に会ったよ、仕事帰りにスーツで来たよ。 昔、商社マンで駐在だったらしくて、日本へ帰国の辞令が出た時に、アメリカにそのまま住む事に決めてこっちの会社に勤めてるみたい。落ち着いてる感じで見た目も素敵だったよ。顔もイケメン過ぎず、ちょうどいい感じ。でもアメリカ長い割に少し日本の古い考え方で、一緒に歩いてても早足で先に行っちゃうし、手を繋ぐとかは無いね。真面目で私は好きだけど、ちょっと堅い?かな、あんまり笑わないしつまんないかも。カオリにはどうかな?って思う。お金は稼いでそうだよ。 また会う約束したけど、私服はダサいかも はは」
「そっか、私服はダサくても、気が合えばかまわないよ。お洒落過ぎ男子苦手だし。」
「それでぇ、土曜はランチでイタリア人に会った、まあ、普通に楽しかったよ。私は個人的には、イタリア人のひとかな? ちょっとシャツのボタン開け過ぎで胸毛がのぞいてたけど、ははは、本当に『チャオ ベッラ』って言っててウケた。ははは。」
「そっか、、、そっちの好みはいいとして、やってないよね?」
「うん、まだしてないよ。イタリア人とは路チューしたけど、だって彼とは何回かデートしてるんでしょ?」
「あーーー。まだしないで欲しかった。」
「えー。そんな、出し渋る歳じゃないでしょ?」
「そうだけど。そういう問題じゃないというか。なんとなく」
「でも、キスも合ってたし。いいじゃん。まだやってないし。」
「、、、、、」
「そう言えば、カオリがオーダーしてた、シャネルのサングラス届いてたよ〜、なんで、こんなジョン レノンみたいな形にしたの?」
映画『パッション』で、レイチェル マクアダムスが演じる悪女が着用していた様な黒くて丸いサングラスが、突然、深夜に欲しくなり、ネットでオーダーした品が今届いたようだ、完全に忘れていた。ジョン レノンからのインスパイアでは無い。
「でも、もう開けて使ってるからね〜!」
この人、ニューヨークに慣れて、完全に私の生活を楽しんでいる、、、困った。
しかし、考えようによれば、真奈美ちゃんの方が私より男性達とうまくデートをこなしてくれるのかもしれない。彼女にとっては新鮮だろうし。
きっと、あの夜、同時刻に彼女が私の生活を経験してみたいと想像し。私は、なぜ私は私なんだろう?なんて変な事を考えてしまったことで、こんな事態を招いたのであろう。
しばらく、身体が戻る気配がないし、こんな機会は滅多に無いので、彼女の生活をしっかりやってみることに決めた。
今週末には娘二人と原宿のキディランドに行く約束をした。
その前の水曜日には、真奈美ちゃんの友達の女子会がある。
全員、ベテラン奥様達だ。
うまく真奈美ちゃんを演じられるか怖いけど。奥様達にとても興味がある。
---続く---
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