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【陽だまり日記】蝶々と柚子
寒くなってきていたはずの霜月の終わり。
私の前を蝶々が横切った。
比喩ではなく、薄墨色に藍を潜めた羽がふわふわと目の前を通り抜けたのだ。
見間違いなどではない。
シジミ蝶だ。
一匹見つけると二匹、三匹と目にする。
日々草の濃いピンクの花弁に止まった蝶は、素知らぬ顔で蜜を吸っていて、思わずその様子を凝視してしまった。
確かに今日は、朝から妙に暖かかった。
マフラーも手袋も要らなかった。
…そのうち、アマガエルまで見つけてしまったらどうしよう。
師走を目前に現れた春の象徴に、まるで、異世界に迷い込んでしまったような心地になる。
異世界は、一度足を踏み入れたら元の世界には戻れないと聞く。
もう此処は、私の知っている世界ではなくなったのかもしれない。
私の好きな秋が居ないのだと駄々をこねて、たまに其れらしい日には心躍らせて。
まるで、虚像を追いかけては躓くばかりの、恋をしているみたいだ。
それも、目も当てられないような。
空を見上げると、たわわに実った柚子がこちらを見下ろしていた。
此れが今の「秋」なのだと嗜められている気がした。
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