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『馬券師たち』 シーズン1

テレビでトヨエツを見ても「あ、ハリソンだ」と思ってしまうのはボクだけでしょうか。

だいぶ前の話になりますが『地面師たち』というドラマを見ました。
積水ハウスの事件をもとにしたフィクションですが、豊川悦司演じるハリソンなるキャラクターの印象が強烈すぎて、いまだに番組やCMで彼を見かけてもハリソンだとしか思えないのです。
ノーコードでシュシュっとアプリをつくっている姿も何か悪いことを企んでいるようにしか見えません。

地面師詐欺ではありませんが、ボクも競馬で詐欺に巻きこまれそうになったことがあります。
上京して間もないころだったでしょうか、某ウインズ前の通りを歩いていると見知らぬ御仁に話しかけられたのです。

「久しぶりー!俺だよ、親戚の誰々」

そんな名前を聞いたことはありませんでしたが、まだまだ汚れを知らない純真なボクは、とりあえず軽く挨拶をしました。

「次の5レースなんだけどさ、競馬関係者からイイ情報を聞いたから儲けさせてやるよ」

なんと!競馬の世界にコネをもつ親戚がいたとは驚きです。

「でもスミマセン。今それほどお金を持ってないんです」と返すと
「銀行のカード持ってるだろ?下ろしに行こうよ。もう締め切りまで時間ないから俺が馬券買ってきてやるからさー」

何て親切な人でしょうか。持つべきものは頼れる親戚です。
喜び勇んだボクはその御仁と連れ立ってATMに向かうふりをし、途中にある交番でお巡りさんに引き渡そうとすると

「あー、レース間違えてたよー。ごめんごめん」

と言って足早に逃げていきました。
若造だとはいえ、そんな手に引っかかるような甘ちゃんではないのです。
のちに誰かに教えてもらったのですが、こういうのを「コーチ屋詐欺」と呼ぶそうです。

今回、このコーチ屋詐欺を『地面師たち』のように壮大なスケールで仕掛けられたらどうなるかということを妄想してみます。
物語のタイトルは『馬券師たち』でしょうね、やっぱり。


さて、当時と同じくボクはウインズ前の通りを1人で歩いています。
そこへ馴れ馴れしく声をかける男が現れます。

「よー、久しぶりやん。俺や俺。親戚の瀧やんか」

ボクの親族にこんな関西弁を話す人はいませんが、まぁ、よしとします。
挨拶もそこそこに彼が言うには

「関係者から聞いたうまい話があんねや。儲けさしたるから、ちょっとそこの喫茶店に入ろか」

あやしいと思いながらも好奇心旺盛なボクは促されるがまま喫茶店に入ります。
瀧さんの話は、おおよそ次のような内容でした。

  • ある調教師が今週末のレースに仕込まれた馬を出走させる

  • その馬は同級では明らかに力が上なのだが、ここ数戦わざと負けさせて人気を落としている

  • 今回この馬を勝たせて馬券で儲けようという魂胆である

  • しかし競馬関係者は馬券を買えないので、代わりにボクが購入してマージンを貰いたい

そんな話があるだろうかといぶかしがっていると

「会わせたいやつがおんねん」と瀧さん。

そこへ現れたのは仕込んだ馬の厩務員を名乗る綾野くんという人物です。
綾野くんいわく、自分もこの話を承知しており偽りはないのだと。
それでも決めかねるボクが一応、調教師にも会いたいと伝えると出ました例のアレ。

もうええでしょー。こっちもいそがしねん」

怒られてしまいます。
場の空気が悪くなったのを察したのか厩務員の綾野くんが語り始めます。

自分は馬を愛している。
しかし昨今、厩務員を取り巻く環境は厳しい。
これを最後だと思い、この馬に辛い仕打ちを課すのだ。
そしてこの馬が引退したら自分が引き取り、故郷でともに暮らすつもりだと。

泣かせる話です。
この言葉が真実だと感じたボクは、ついに今回の話に乗ることを決意したのです。

「ほな、これでまとまったな」

瀧さんはホッとしたような表情を見せ、契約書を取り出します。
馬券の購入代金を瀧さんに渡し彼が購入すること、的中後に払い戻し、先方の取り分を差し引いた金額をボクに戻すことなどを確認し、この場は解散となりました。

そして、いよいよレースが始まります。
ボクはウインズのモニタを食い入るように見つめます。
しかし直線、ボクが託した馬はさっぱり伸びず、無惨にも負けてしまいます。
青ざめたボクは急いで瀧さんの携帯を鳴らしますが、何度かけてもつながりません。
ときすでに遅し、ボクはやっと騙されたことに気づくのです。
その後、場面はとあるホテルの一室に移ります。
そこにはグラスを片手にほくそ笑むハリソンの姿があったのです。

というストーリーを妄想してみました。
こんな手の込んだコーチ屋詐欺を仕掛けられたら、ボクは完全に騙されてしまうでしょう。
さすが馬券師たちというほかありません。完敗です。

でも、わりに合わないでしょうね。
ボクは1レースの購入上限を3万円と決めているので。
その3万円を壮大に詐欺られるという物語でした。

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