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【小説】「頬に悲しみを刻め(S・A・コスビー)」

殺人罪で服役した黒人のアイク。
出所後庭師として地道に働き、小さな会社を経営する彼は、ある日警察から息子が白人の夫とともに顔を撃ち抜かれ殺害されたと告げられる。
一向に捜査が進まぬなか、息子たちの墓が差別主義者によって破壊され、アイクは息子の夫の父親で酒浸りのバディ・リーと犯人捜しに乗り出す。
ゲイの息子を拒絶してきた父親2人が真相に近づくにつれ、血と暴力が増してゆき...
というお話し。

アメリカ版昭和風任侠モノに多様性を添えてといった感じ?
徹底的なバイオレンス・ハードボイルドにLGBTQ+をしっかり絡めて一つの物語、作品にしてるのだから凄いよな。
多様性を受け入れられない人、軽んじる人、虐げられる人、寄り添う人、利用する人等々、種々様々な人間模様の描き方も素晴らしかった。

暴力をヒロイックにしていないまま、圧倒的な暴力を振るう人物らをこんなにも魅力的に描いてしまう。
暴力から身を守るために暴力を振るう、これを強さだとか守る力だとかとして正当化してしまう。
しかし、暴力は暴力。
使い手を蝕む毒であり、周囲を滅茶苦茶にする。
そこを直視した上で、それでも駆け抜けるしかなかった地獄が描かれている。
犯人への憎しみ、何より過去の自分への憎しみに蝕まれる。
極上の犯罪小説という評価は正に。

LGBTQ+で身を守っている人達にこそ、読んでいただきたい。
しかし、理解されることなど諦めて、そうも言っていられないのが現実で辛いところなのかもしれない。
理解される事を切り捨てるか、自分を切り捨てるか。
しばしば自分達は決して望んだわけではない二択を迫られる。
現実的には、どちらでも無いグレーになってしまう事が多い。
有耶無耶なのだ。
見えない所で、切り捨てた自分を拾い集める。
そして、這いつくばった事などないような顔をしてなんてことない当たり前だと蓋をしていて、その蓋を無理矢理力付くで押さえ込んで日常を過ごしていく。
作中でも「次のチャンスを与える価値がないと運命が決まるまで、人は何度正しい決断をするチャンスを与えられるのだろう」という心情表現がある。
きっとこの言葉は、この物語は這いつくばる人々に向けたものなのだろう。

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