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気付いたらロン毛を束ねていた
土曜日なのに暗い印象の文を書きます。すみません。
考えたことを忘れて何も無かったことにするのも違うと思って。
だからnoteに書くことにしました。
隣の芝生も言うほど青くない、
みんな同じようなモヤモヤに気を留めることがある、
そんな感じで読んだら、僅かに、心の支えに役立つかもしれません。
#ドロドロの黒い水
触ったらへばりつくようなドロドロの黒い水溜り。
どれだけ深いのか浅いのか、広ささえもわからない。
その上に蓋をして生活しているようなもの。
それくらいとても身近にあって、
実はみんなうっすらと視界の端に捉えているけど
決してそちらに首を回して見てはいけない。
絶対に顔を向けず、無いことにして笑って生活する。
それがきっと、“不安”っていうものの正体。
#最後の一文
妹が地方の精密機器工場に勤めることになった。
最近まで別の地方にいたけど、コロナで派遣切りになり、
近々、さらに別地方の別会社の職場に行くことが決まったらしい。
LINEで短く近況を尋ねるメッセージを送ったら、
その返信に、絵文字だらけで不気味なほど明るくその報告が来た。
文末に、
「最近めっきり明るくなったと言われます」
と書かれていた。
何を思い、何を取り繕い、なぜその一文を唐突に加えたのか。
ふと、黒い水の存在を思い出した。
#スクラップアンドビルド
妹はかつて有名老舗ホテルのパティシエールで、
その後、人気のパン屋でケーキとパンを焼く役割を勝ち取り、
ある日、不本意な成り行きで辞めざるを得なくなった。
同じ頃、同棲していた友達にも裏切られ、
なんだか傍目にもボロボロになって行った。
決して“若かりし頃の懐かしい話”ではなく、つい2年ほど前の話だ。
「全部捨ててやり直したい」
そう言って、今まで何年もかけて身に付けてきた手技を全て投げ捨て、
派遣を選び、知らない地方の、全く違う職種で働くことにした。
それら全部を経ての、
「最近めっきり明るくなったと言われます」
#だから明るく
こういう一文を見ると、
かつて自分も企業でバリバリ働いて、
そこで出会った女性と結婚し、
広くてバカ高い賃貸マンションに住んでいたが、
「ちょっと家賃ももったいないよね」
なんて言って持ち家を買い、
退職して独立するも目覚ましい発展もせず、
いつの間にかライターの方が収入の主軸になって、
個人で仕事をしているので取材以外では会社員の時ほど人に会わず、
あんなに好きだったおしゃれにあまりお金を割かないようになり、
気付けばロン毛を団子に束ねている現状を振り返ってしまう。
嫌でぜったい目を向けないようにしている黒い物が、
物の方から、より正面側にフレームインするように、にじり寄って来る。
視界に占める割合が増えると、もう目を背けるのは困難だ。
「この世には“不安”がある」という真実を思い出し、
自分にもそれが現実となって迫る可能性があることを認識してしまう。
黒いドロドロを拭うには這い上がるか、
這い上がれれば良いが、
それが無理なら、割り切って自身の水準を一段堕とすしかない。
上がることを諦め、堕ちることも拒んでしまうと、
人はドロドロの負荷で心が壊れてしまうのだろう。
だからめっきり明るくなってみたのかもしれない。
そんなことを思った。